『新潮45』編集部の記者が事件の真相から首謀者逮捕までを描き、凶悪事件を白日の下にさらしたノンフィクション犯罪ドキュメント『凶悪 -ある死刑囚の告発-』(新潮文庫)が、映画『凶悪』として映像化され、21日から公開された。山田孝之演じるジャーナリスト・藤井修一は、死刑囚・須藤順純次(ピエール瀧)が3件の余罪とその首謀者を告発したことを受け、事件の真相を暴くために奔走。首謀者とされる男・木村孝雄(リリー・フランキー)は、須藤がかつて「先生」と慕っていた"死の錬金術師"だった。
山田孝之 |
須藤の証言をもとに取材をはじめ、木村に迫っていく藤井。ついには警察をも動かすというところまでたどりつくが、仕事にのめり込むあまり、認知症の母の介護を妻に任せて家庭のことはおざなりになってしまう。映画では、須藤との面会室でのやりとりや取材、藤井の家庭の問題を浮き彫りにしながら、須藤と木村との蜜月時期の悪行の数々が生々しく描かれる。人間の心に潜む三者三様の"悪"を演じた山田孝之、ピエール瀧、リリー・フランキー。事件、物語、役柄との向き合い方をインタビューで探った。
――それぞれ個性の強い役柄でした。
山田孝之(以下山田):最初にオファーを受けた時は、藤井の役柄もそうですし、リリーさん、瀧さんと共演できるということもあって、台本を読み終わってぜひやりたいと思って即決しました。この作品に携わりたいというか、世に出さなきゃいけないものだなと思ったんです。藤井の気持ちの変化をやりやすくするために、大きく変わる部分に線を引いていって、最終的に11段階くらいの気持ちの変化を作りました。最初は3~4段階くらいで済むと思ったんですが、結果的にそのくらいになってしまいました。
リリー・フランキー(以下リリー):誰が善人で誰が悪人かが曖昧で、そんなにすごい悪役をやったという感触も希薄なんですよね。これは先生の言い草と一緒なんでしょうけど。
ピエール瀧 |
ピエール瀧(以下瀧):強烈な役ですよね。僕はこの事件を知らなかったので、初見から台本にすごく引きこまれました。モデルとなった人が実在するわけですし、被害者の数が多いということは遺族の数もそれ以上ということで、そことつながりをもたなければならなくなることが嫌でしたね。
リリー:喜ばれることは1つもないもんね。
瀧:ですよね。あとは、できるかどうかという不安もありました。罪を犯している時、藤井と話している時、裁判をやっている時。そんないろいろな顔ができるようなスキルが俺にあるのかと。どうしようかと迷っていたらリリーさんから電話があって、「いいじゃん、やっちゃおうよ」という感じだったので…それで悪の道に引きずり込まれました(笑)。
――目を覆いたくなるような過激な描写も印象的でした。
リリー:俺ら2人は、何の説明もないままいきなり殺人犯になっています。
瀧:なぜ殺人を犯すようになったのか、なぜ暴力を振るうようになったのか。その前振りが一切ありませんでしたよね。
リリー・フランキー |
リリー:『陽炎座』っていう映画のパンフレットの原稿を書いた時に、久しぶりに良い原稿が書けたなと思ったんですね。みんなもそうだと思うんですけど、「もうちょっとでキスできたのに」みたいに夢の終わりだけは覚えていますよね。どうやってその夢がはじまったのか誰も覚えていないんですよ。
『陽炎座』は出し抜けにストーリーがはじまります。もしかしたら、俺らが見てる夢もはじまりの部分が覚えられないんじゃなくて、終わりの部分からはじまっているんじゃないかと。"終わりめいたもの"があって、"はじまりめいたもの"がある。殺人者になる人に対して、家柄や家庭環境などのストロークを持とうとするけど、意外と出し抜けに物語ははじまっているんじゃないかなと思うんです。
今回は首を絞めるシーンからの登場だったので、監督にはそれ以前に人を殺していたのかを聞いたんですが、そこで人を殺した瞬間に凶悪のフラグが立ったんだということを説明されました。何か理由があって人を殺しはじめたのではなくて、世の中には出し抜けにはじまっている物事も多いのかなと思うんです。バンジージャンプが1回やったら、2回目は平気になっていくみたいに。……続きを読む。