――藤井の妻役の池脇千鶴さんが、藤井に対して「面白かったんでしょ?」と問いかけますが、あのセリフについて山田さんはどのように感じましたか?

リリー:あれ、いいセリフですよね。

山田:家庭のことで現実逃避し、確かに藤井は楽しんでいた部分もあるのかもしれません。原作から追加された部分でよかったと思ったのは、藤井の家庭内が描かれていたこと。須藤との距離がどんどん近づく中で、家庭との距離が離れていく心情が、妻への冷たい態度に表れています。その感情をどんどん強めていくことで、事件にのめり込んでいく藤井の姿を表現できました。面会室で須藤と対面していた時とは逆のことを家ではやっていたというか。見せ方としては、須藤に会う姿勢、服の乱れ、髪の乱れ、くまの濃さ、声の大きさ、セリフの間の取り方、目を見て話す時間などで変化をつけていました。

リリー:藤井が逸脱していく様を見ていると、それが正義なのか邪心なのか。見ている人はそれを言葉にできないままモヤモヤとすると思うんですよね。その感情を"面白かったんでしょ?"という言葉にされると、いやいやそれだけじゃないんだよと。その平凡で雑な言葉が、藤井の悪の部分なのか人間臭い部分なのか、その部分をぎゅっと締め付けるような感じがしますよね。家庭の人からそういうこと言われたら一番嫌じゃないですか。そういう一言で済ますなよみたいな(笑)。でも、そうなんだけど。

山田:打ち上げとかもですね。「仕事の打ち上げって言っても、ただ飲むだけなんでしょ」って言われると、半分仕事みたいなものだから…みたいな思いはありますよね。これまで頑張った仲間と今後もみたいなところはあるわけじゃないですか。確かに楽しくて朝まで飲んでしまうんですけどね。

:どうせ、お酒が好きなんでしょ?ってね。

――この作品の一番の魅力はどこにあると思いますが?

山田:一番というと難しいんですけど。実際に起こった事件を題材にしていて、知らない人たちもたくさんいると思うんですね。こういう凶悪な事件が過去にあって、これからも必ず起こるということや藤井の認知症の母と施設。そのほかにもいろいろな問題を見る人に意識させる、その要素がすごく強い作品だと思いました。あとは、藤井のキャラクターをぜひやりたいと思いましたし、お二人との共演も。それを含めて、『凶悪』がとても魅力的な作品だと思います。仕事の話が来た時には、その要素が多ければ多いほどいいんです。脚本を読んでつまらない作品だなと思っても、演じてみたいキャラクターだったら受けたこともこれまでありましたし、そこからさらに話が面白いとか、共演してみたい人が出ていたりとか、この監督と仕事がしたいとか。そういう部分があればあるほどいいですね。

リリー:知り合いの作品に出ることが多いんですけど、白石監督は初対面でした。次からは『凶悪』の監督だから出てみたいというふうになるでしょうね。

:物語のえぐさもあるし、本当の事件を題材にしているインパクトもありました。こういう演技をする仕事に時々呼んでもらったりしていますけど、実際にいる人を演じることがなかったですし、単純に悪役には人間の本質的にひかれるような、魅力があるのかなと。

リリー:須藤の役は、すべての男性の中にある何かがありますよね。ギャング映画を見た時に抱くような、誰しもが持つ憧れのようなものがあるのかも。

:遺族の方もいらっしゃいますし、ナーバスになる部分もありましたが、監督がこれを世に出してたくさんの人に知ってもらわなければならないとおっしゃっていたので、その決意に付き合おうかなと。あとはこの映画は、目的のために顧みない人物たちの話です。藤井は仕事のために家庭を顧みないですし、木村と須藤はビジネスのために人の命のことを顧みない。社会規範のモラルを顧みないことは有罪だけど、家庭を顧みないことは無罪。自分のことを顧みず、ここに飛び込むのもいいのかなと思って、この仕事を受けました。

――やはり善良な市民を演じるよりは、こういう振り切っている役柄をやるほうがやりがいはありますか。

:僕はちゃんとお芝居を学んだわけではないので、スキルがない分、その人になりきるしかないんですよね。その人物になりきって、ここでどういう行動を取るのかとか、どのような感情になるのかとか。想像をしながらなりきることで楽しさを感じたりはするんですよね。なりきることは自分から離れていれば離れているほど、おもしろい。極端な話、女性になってみるとか。

リリー:途中で楽しくなっていってはいるんですよね。疑似でも人をふざけながら殺していますから、見た人の目に楽しそうに写ったら、それはそれで良かったんじゃないかなと思います。犯人もこんな感情を抱いていたんだろうなというのがなんとなく分かりました。日常で自分たちが楽しんでいることと、大して変わらないんじゃないかなと。

:山田くんとの面会室でのやりとりも何シーンもあるんですけど、そこではバリッと張り詰めたものがありました。それもそれで、一種独特で面白かったです。あとは2人の中で笑いが起こるシーンがあるんですが、2人は同じ獲物を追いながらも、同じところから見ていません。でも、2人の中で笑いが起こることによって、その緊張感みたいなものが解ける瞬間なんですよね。

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