ちょっと前に、古民家カフェなるものが若い女性の間でブームになった。古い家屋をカフェ風に改造したノスタルジックな空間の中で、洋食やコーヒーを味わう楽しさ。そのコンセプトに似た、しかしはるかに歴史あるご当地グルメの店が山梨県に存在している。そしてそこで食べられるのが、「吉田のうどん」だ。
田舎のおじいちゃん宅でうどん!?
「吉田のうどん」なんて名前だけを聞くと、まるで特定のうどん屋さんの名称のようだろう。ところが実は長い歴史をもち、個性的で多様な店舗展開をしているれっきとしたご当地うどんなのだ。何が個性的なのか? まず、店のロケーションからして面白い。
取材の前に、地元で人気の「吉田のうどん」の店についてアンケート調査を行い、上位となった店に行ってみることにした。そこで驚くのは、店が普通の田舎の民家ということ。到底この場所が、グルメ雑誌を賑(にぎ)わしている人気うどん店とは思えない。まるで田舎のじいちゃん宅に戻ったかのような、ご自宅感覚にあふれている。
野趣あふれた乱切りの極太麺
言葉で紹介するよりは、まずはヴィジュアルで見せたい。1軒目は地元っ子のみならず、いまや旅行雑誌やネットで検索しても人気店にあげられる、富士吉田市下吉田の「みさきうどん」。エリアの「吉田のうどん」屋の大半がそうであるように、「みさきうどん」もご主人の家をまるごと活用している。
入り口からして普通の田舎の一軒屋に、のれんをかけただけといっていい構え。入ってみると更に驚く。仏壇がドカンとおいてある20畳ほどのスペース。家の居間にテーブルを並べただけの、「ご自宅兼」な店舗スペースなのだ。
早速定番メニュー「肉うどん」450円をオーダーしてみた。素材は馬肉、ニンジン、キャベツが盛られており、麺は極太だ。しかしそれはこの店だけの特徴ではなく、「吉田のうどん」全般を通してのスタンダードとなっている。
この地域の麺は太いものが多く、更に堅いことが特色。つるりとしたのどごしではなく、噛(か)みごたえを重視した麺が好まれる。麺の切り方もワイルドそのもの。野趣あふれた乱切りをされることも多く、茹で上がりに大きなねじれも見られる。まさに栄養満点な田舎料理という感じである。
●information
みさきうどん
山梨県富士吉田市下吉田5328
こだわりが詰まったすりだねをパラリ
次に紹介したいのが、富士吉田市上吉田にある「吉田のうどん しらす」だ。この店は国道139号のバイパス沿いにあるが、こちらも一見ふつうの民家にしか見えない。他県ナンバーの車が何台も止まっており、正直、車だけが店の目印といってもいい構えだ。
店の紹介をみて胸がときめくのは、「白須うどんのメニューは温と冷2種類しかありません。開業以来ずっとこのメニューで営業してきました。注文の際には『あったかいの』『つめたいの』のどちらかでご注文ください」と書かれてあること。
そこで「冷たいの」をオーダー。「冷たい麺」350円に加え、おいしそうに煮込まれた「煮たまご」60円も追加してみた。ここでもキャベツが登場だ。麺の上に山盛りされたキャベツが搭載され、ちょっとすごいボリュームである。加えて、なみなみと盛られた「すりだね」が大きなスプーンとともについている。
この「すりだね」は、辛さのあるご当地製の薬味だ。この地域では家庭で盛んに作られるもの。一味、ゴマ、すりゴマ、油によって作られることが多い。熱々のダシは醤油系の半透明。おなかいっぱいになる麺を堪能した。
●information
吉田のうどん しらす
山梨県富士吉田市上吉田3269-1
『美味しんぼ』にも登場した名店
最後に紹介したいのが、同じ山梨県でも忍野村にある有名店「渡辺手打ちうどん」。あのグルメ漫画『美味しんぼ』で紹介されたという有名店だ。オーダーしたのは「肉玉うどん(中)500円」。
待つこと10分とかからず、卵と野菜のコントラストが魅力的な一品が登場した。少し七味を入れて半分ぐらい食べたら、半熟気味になったきれいな玉子を麺に絡めて食べてみる。すき焼きのようなうどんに変化し、甘くてうまい。
●information
渡辺手打ちうどん
山梨県忍野村内野545の2
ざっと駆け足で紹介したが、無骨といえば無骨。荒削りといえば荒削り。しかしそのワイルドさが「吉田のうどん」の真骨頂といっていい。店舗を問わず過半数の店で使われているのが、馬肉とキャベツ。「吉田のうどん」で肉といえばそれは馬肉(サクラ肉)を指す。加えてキャベツをドカンと投入すること。キャベツが入ることで野菜の柔らかい甘味がスープに混じり、田舎風の素朴な味わいになる。
価格の安さも魅力のひとつだ。そんな山梨県のご当地「吉田のうどん」、少し足を伸ばしても一度は現地を訪れて味わっていただきたい。