源平の闘いにおいて、主戦場のひとつだったことで有名な「屋島」。海抜293mのこの半島は、形溶岩台地のため頂上が平らになっていて、それがまるで屋根のようだということから屋島と言われるようになったと伝わる。そんな屋島には、全国的に知られているミステリーな坂があるのだ。
島の頂上に設けられた展望台から眺める風景の美しさは、「瀬戸内一」とも言われている。備讃瀬戸の島々と、その間を行き交う数多くの船舶、そして、讃岐平野や眼下の檀ノ浦の古戦場までもが望める、瀬戸内海随一の景観となっている。
道中に全国屈指の「ミステリー坂」が
そんな頂上へ続く「屋島ドライブウェイ」は、クルマで山頂に行ける唯一の道路なのだが、このドライブウェイには眺望以外にも、その名を全国に知られている要素がある。それは、山頂へと続く道中にある「ミステリー坂」だ。どう見ても下りなのに、実際は上りになっているというこちらの坂は、全国にある類似のミステリー坂の中でも最も有名で、その不思議な光景見たさに全国から脚を運ぶ人もいるという。
ボールがひとりでに坂を上りだす?
地域の情報紙やネットなどでは、球状のものを道に置くとひとりでに坂を上っていく怪現象ゆえ、「ミステリー坂」の他、「おばけ坂」「幽霊坂」とまで呼ばれている。その人気ぶりに、今ではその坂にかかる場所(ドライブウェイ料金所から約1.6kmの地点)には、案内のために「ミステリーゾーン」と書かれた看板が掲げられているほどだ。
実際にその坂を目にしてみると、確かに下り坂が上り坂に見える。どう考えてもおかしいのだ。そこで屋島ドライブウェイの加地修さんに疑問を投げかけてみると、「専門的にはこの現象を『縦断勾配錯視』というそうです」とあっさり。
ちなみに「縦断勾配錯視」とは、「道の先が急峻(きゅうしゅん)な上り勾配になっていることにプラスして、周辺の自然風景が人間の判断基準を曖昧にしてしまうために起こる錯覚」なのだとか。
ミステリーゾーンは偶然の産物
つまり、坂が直線の途中でちょうど「くの字」のように折れ曲がり、勾配の角度が変わること、そしてそれを上から見下ろすことができる絶好のビューポイントがあることという、ふたつの偶然が重なった結果、このミステリーゾーンが存在するというわけだ。ちなみにこの坂は、長さ約160m/傾斜1度の坂道と、長さ約200m/傾斜5度の坂道とで構成されている。
そして「ビューポイント」はふたつ。ひとつは、ふたつの坂の下りの端。ここから上りの方を観察することで縦断勾配錯視が起きて、上りの坂が下りに見える。もうひとつは、ふたつの坂の上りの端。ここから下りの方を観察すれば、逆の錯覚が起きるというわけだ。
美術作品に「トリックアート(だまし絵)」があるが、ミステリー坂も同じで人間の感覚の曖昧さが生みだしたものかもしれない。しかしそうとは分かっていても、体感としての驚きが薄れないのがポイント。ネット上でも、「本当に上り坂なのかクルマを降りて確認してしまった」「頭では分かっていても走るとその感覚に身体がなじまず、何度もクルマで行き来した」などというコメントが見受けられる。
ちなみに、全国には他にも同様の現象が見られる坂がいくつか存在するが、屋島のものはより強く錯覚できることで有名だ。この場所を知らずして、ミステリーゾーンの真の不思議さを語ることはできない……かもしれない。
加えて山頂には、日本で唯一の山頂にある水族館「新屋島水族館」や四国巡礼の84番札所の「屋島寺」、源平合戦の際には義経など源氏軍が血刀を洗ったために池がまっ赤に染まったという伝説が残る「血の池」などの見所が点在している。この機会に島の魅力を味わい尽くしてみるのもオススメだ。