鹿児島県民は三度の飯より酒が好き!?

国税庁が2009年に発表した統計情報を参考に、県別でアルコール消費量を算出したところ、その第1位に輝いたのは寒さが厳しく日本酒の蔵元も多い東北の県ではなく、南国・鹿児島県であったそうだ。実際、鹿児島県民はどのようにしてお酒を楽しんでいるのか、早速調査に出かけた。

鹿児島と奈良では倍程も開きが

適度にたしなめば薬にも勝るという意味から「百薬の長」と言われるお酒。しかし、県民気質に違いがあるように、「適度」の量も県によって違うようだ。2009年度データーを参考にした県別アルコール消費量では、第1位の県と47位の県では倍の開きがあるようだ。それによると第1位は鹿児島県で、47位は奈良県とのこと。面白いのは、焼酎の消費量の日本一もやはり鹿児島県で、47位はこちらも奈良県となっている。

実際、鹿児島で飲み屋に行き「お酒ください」と頼めば、いきなり「お湯ですか? 水ですか?」と聞かれるはずだ。「えっ? お酒を頼んだのに、お湯? 水?」と戸惑うかもしれないが、お店の方はお酒と言えば焼酎のことだと思っているから、その飲み方を最初に聞いてくるわけだ。

鹿児島ではスナックでも飲み物は焼酎がメイン

鹿児島はそれほどの焼酎王国である。そしてそのほとんどが、当地で豊富にとれるさつまいもを原料にした芋焼酎だ。では、鹿児島で日本酒が飲めないのかというと、もちろんそんなことはなく、日本酒に合う料理を出すお店はいくらでもある。ただ、それは鹿児島県人にとって非日常的な場であって、家庭で飲むのは専ら焼酎だ。しかも、夏でもお湯割りが多いという。

飲み干すまで卓に置けないお猪口

地元の社団法人に勤める40代の男性に話を聞いてみた。「水割りやロックでも飲みますが、やはりお湯割りですね。私のおやじの世代は全員といっていいほど、年中お湯割りでした」との答え。しかも、かつては「黒じょか」という当地独特の酒器を使って燗をつけていた。黒じょかとは薩摩焼の焼き物で、正月に使う屠蘇器(とそき)を大きくしたような形だ。

この酒器に「前割り」といって、一晩前に焼酎と水を好みの割合で割って入れ、お互いをなじませておく。それを直火にかけて飲み頃に温め、「チョク」と呼ばれる猪口(ちょこ)に注(そそ)いでクイッと飲む。昔は何かと言えば家に人を招いて酒を飲むことも多く、家には黒じょかがいくつも常備されていたそうだ。

ユニークなのはチョクの変化形の「ソラキュー」という酒器。底部が尖(とが)った三角すいをしており、注がれた焼酎を飲み干すまで卓に置けない形になっている。

今ではお店でも黒じょか、チョクはあまり見かけなくなった

夏だろうが年中お湯割り

ところで、なぜ夏もお湯割りなのだろうか? 焼酎は、もろみなどで醸したアルコール液を加熱して蒸留する蒸留酒。ただ、同じ蒸留酒でもウイスキーは2~3回蒸留するが、焼酎は1回だけ。その分、原料の風味が豊かに残る。

その風味がお湯で割ることで増し、ほんのり芋の甘みが香りでも舌でも楽しめるというわけだ。これが水割りやロックなどの低温だと、香りや甘みを感じづらい。また、江戸の昔から、人々は冷たい物を飲むのは身体に良くないことを知っていた。そこへ、1日の仕事疲れを癒やすために晩酌として焼酎を飲む「ダレヤメ」という習慣も生まれた。

「ダレヤメ」とは「ダレ=疲れ」を「ヤメ=止める」という意味だ。明治時代の文書にも鹿児島の風俗として紹介されているが、とにかくお湯で割った方がおいしく、晩酌として毎日飲んでも身体に良いという理由から、季節を問わずにお湯割りで飲むスタイルが定着したと言えそうだ。

焼酎はキビナゴなどの刺身にもよく合う

ところで先ほどの男性に、毎日どれくらい飲んでいるのかを尋ねてみた。すると、「大体2合くらいでしょうか? よく言われるけれど、私らにとって焼酎はみそ汁みたいなものかな」とのお答え。とは言っても、ここ鹿児島でも若い人のアルコール離れが起きているらしく、「最近はチューハイなど、カクテル系の甘いアルコールを好みますね」と苦笑する。

いずれにしても、お酒はほどほどにたしなんでこそ、真骨頂を堪能できるというもの。料理をおいしくいただき、会話を楽しむための潤滑剤として、いい関係を築きたいものだ。

Information
鹿児島県酒造組合
鹿児島県庁/焼酎
鹿児島県観光サイト/本物。の旅かごしま/本格焼酎
都道府県別統計とランキングで見る県民性