海岸沿いを走る特別仕様の山陰観光列車「みすゞ潮彩」

山口県ゆかりの童謡詩人・金子みすゞをご存知だろうか? 小学校の国語の教科書にも詩が掲載されているなど、地元では親しまれている詩人だ。そんなみすゞとともに山口県の情緒が味わえる、特別仕様の山陰観光列車が運行されているという。

アールデコ調の列車から山陰の海を眺める

金子みすゞは20歳のころに創作を始め、「みすゞ」のペンネームで雑誌に投稿するようになった。すぐさま才覚を現し、西條八十(詩人・仏文学者)から「若き童謡詩人の中の巨星」と賞賛されるも26歳の若さで逝去。時を経た現在、縁の地である長門市・下関市の魅力を多くの人に知ってもらうために登場したのが、山陰観光列車「みすゞ潮彩」である。

金子みすゞの生まれ故郷である長門市仙崎に建つ「金子みすゞ記念館」

「みすゞ潮彩」はJR山陰本線の新下関駅~仙崎駅を走る2両編成の列車で、1両は自由席でもう1両は指定席だ。車両の基本設計は、山陰本線を走る普通列車と同じだが、三角形の窓や階段風の塗装などが配され、アールデコ調のかわいい外観に仕上がっている。また、海側の窓を大きくするなどの改造が行われているのも特徴といえよう。

3つのビューポイントでは列車も停止

自由席の車両は通常の列車と変わらないが、指定席の車両は日本海の眺めを満喫できるように、ほとんどの座席が海側に向けて設置されている。長州路(ちょうしゅうじ)観光連絡会事務局の鈴木隆正さんは、「下関から発車した列車は、川棚温泉駅を過ぎた辺りから日本海沿いを走るので、その光景を楽しんでもらうためです」と言う。

特に“小串~湯玉駅”間と“宇賀本郷~長門二見駅”間、“黄波戸~長門市駅”間は海岸線のすぐそばを走るので眺めも抜群だ。「その3カ所は一番のビューポイントということで、列車を1分間停止させて、風光明美な日本海の景色を楽しんでもらっています。車内アナウンスによる車窓案内も行っています」(鈴木さん)。

「みすゞ潮彩」は、これまで新下関駅~仙崎駅を1日2往復していたが、3月16日からは週末の土曜・日曜・祝日の1往復だけになった。「問い合わせも多いので、指定席に乗りたい方は早めに予約されるといいでしょうね」と鈴木さん。

長門市の北側の日本海に浮かぶ美しい「青海島」と周辺を巡る観光船

本州の西端の海岸線を走る国道191号線は別名「西長門ブルーライン」とも呼ばれる

車内ではボランティアによるおもてなしも

土曜・日曜・祝日の指定席車両の車内では、乗車記念証や絵はがきの配布に加え、ボランティアによる紙芝居の上演といった“おもてなしイベント”を開催している。「上りは『童謡詩人金子みすゞ』で、下りは『巌流島の決闘』という紙芝居を上演し、お客様に楽しんでいただいています」と鈴木さん。

さらに、指定席の車両には売店もあって、オリジナルのグッズも販売している。「『みすゞ潮彩弁当』や『みすゞお土産グッズ』などを用意していますので、みすゞの世界が満喫できます」(鈴木さん)。なお、指定席を利用する場合は、乗車券に加えて、大人510円、子供250円の座席指定券が必要となるので注意しよう(繁忙期には価格変更あり)。

車両内でボランティアの手で上演される「紙芝居」も好評だ

列車+ふく、特牛イカで完璧な一日に!?

「みすゞ潮彩」は3方を周防灘(すおうなだ)・関門海峡・響灘(ひびきなだ)に囲まれた下関市と、日本海側にある長門市を結んでいるが、同じ山口県であっても地域が違うため、名産品も違う。下関はふく(下関では幸福の「福」とかけて「ふぐ」のことを「ふく」と呼ぶ)や瓦そばなどの名物があり、長門市では仙崎イカや焼きかまぼこ、焼き鳥が有名だ。

これら以外にも、「海と山の幸に恵まれている山口らしく、最高級Aランクの剣先イカをブランド化した『特牛(こっとい)イカ』や、下関で生まれた創作料理『とんちゃん鍋』などおいしいものがありますから、『みすゞ潮彩』の乗車前後には、そうした名産品を是非味わって楽しんでください」と鈴木さん。

下関市を代表するグルメ・ふく(ふぐ)のフルコース(画像提供:油谷湾温泉ホテル楊貴館)

「活イカ」は長門市が誇る地元ブランド(画像提供:油谷湾温泉ホテル楊貴館)

この路線は、海に沈む夕景が美しいことでも知られている。列車から昼間の光景を楽しんだら、降り立った地で空が暮れゆくさまを堪能し、夕食には山口のグルメを堪能すれば完璧な一日になるはず!