黒板をひっかく音が不快な理由とは?

黒板を爪でひっかく音を聞くと、体がゾワッとしますよね。ほかにも、フォークで皿をひっかく音や、発砲スチロールをこすり合わせたときの音、中には、豆類などをかんだとき感じるキュッとした歯ごたえが嫌いな人もいるようです。

これらの「人が嫌だと感じる感覚」は、なぜ起こるのでしょうか。首都大学東京 人間健康科学研究科 ヘルスプロモーションサイエンス学域 北一郎先生にお話をうかがいました。

黒板を爪でキーッとひっかく音が嫌な理由とは?

――黒板をひっかく音を想像するだけでゾクッとするのですが、この嫌な感覚はなぜ起こるのですか?

「人の好き嫌いを決めるのは、脳の中にある扁桃体(へんとうたい)という器官の役割。扁桃体は、下等な動物から霊長類などの高等せきつい動物すべてにあり、脳に入った情報から、様々な感情を処理しています。

『黒板をひっかく音』に誰もが不快感を覚えるのは、扁桃体がその音から、今の状態を危険なものだと判断しているためではないでしょうか」

――確かに、高音のキーッという音は、人の悲鳴に少し似ているような気がします

「そうですね。大抵、人が悲鳴をあげるのは、何らかの危険にさられているとき。ほかにも理由はあるかもしれませんが、そういった音に似ていることから扁桃体が『危険』と判断して、不快感を伝えていることも考えられます」

不快と感じるのは"生存本能"

――先ほど、扁桃体が『危険』と判断したとうかがいましたが、私は「黒板をひっかく音」を聞いたからといって、危険な目にあったことがありません。

「例えば、苦いものを食べたとき、不快感を覚えますよね。これは、苦い食べ物が毒を含んでいるかもしれないからです。この反応はネズミなどでも同じで、動物が危険なものを避けるための反応、いわば生存本能と言えるでしょう。更にいえば、『痛み』に感じる不安や不快感も、体を守るために必要な感覚です。

このように、扁桃体が判断するのは、後天的に学んだことではなく、生物が長い進化の過程で学んできたことであり、その反応は私たちが生きていくために必要な『警告』なんです」

――「不快な感覚」には、とても重要な意味があったんですね。でも、苦い食べ物は、大人になれば平気になったり、逆に好んで食べるようになりますよね?

「そうですね。人間は学習する生き物なので、苦い食べ物を食べても体に影響がないという経験や記憶を積めば、『これには危険がない』と判断するようになります。ビールはすごく苦いものですよね。しかし、飲んだあとの酩酊(めいてい)感を経験することで、『おいしいもの』と感じるようになります」

――では、「黒板をひっかく音」も、何かしらのいい経験と結びつければ……。

「その音を聞くたび、『いい気持ち』になるのかもしれません(笑)」

こういった「好き嫌い」の感覚について、人はつい理由をつけたくなりますが、それは後付けなんだとか。例えば誰かを好きになったとき、私たちは「この人のここが好き」と考えますが、もしかしたら「最初から脳が直感的にパートナーを選択し、後から理由をつくっているだけなのでは」と北先生は考えているそうです。

とはいえ、「黒板をひっかく音」はやっぱり嫌なものですよね。もし、「経験」によってその嫌な感覚がなくなるとしても、あの音を何回も聞く気にはなれません。勇気のある方、是非お試しあれ。

(OFFICE-SANGA 梅田丸子)