人気温泉郷ランキングで、必ずといっていいほど上位に名を連ねるのが、熊本県小国郷の黒川温泉だ。しっとりとした情緒の漂う秘湯の温泉街であり、和の宿28軒が点在している。今回は地元の美人女将が、魅力あふれる宿3軒と、地元で噂(うわさ)の旅のおともを紹介してくれた。
露天風呂自慢の湯屋で美肌を作る
黒川温泉おススメの宿一軒目は、案内してくれる下城嘉代子さん自ら女将を勤める「南城苑」だ。温泉街を見下ろす斜面に建つ4階建ての宿。この立地のおかげで、「何より露天風呂からの見晴らしが自慢なんです」と女将。その露天風呂は「星の湯」をはじめとして4カ所ある。
内湯も4カ所あり、別にスチームサウナも備えられているという。泉質はナトリウム、塩化物・硫酸塩泉で、ニキビやしもやけなどに効果が期待できるというから、肌によい温泉のようだ。またここには、温泉蒸し器という珍しいものまである。蒸し器に顔をかざすと、効能たっぷりの湯気に包まれて肌ツルツルになるというから、是非トライしてほしい。夕食は、地元小国産の黒毛牛を使った料理が中心。注文すれば同館オリジナルの焼酎・南城苑も楽しめるという。
ひとつの湯屋でふたつの温泉が楽しめる
「ここに湧く薬師の湯は、昔から湯治の湯として親しまれてきたのです」と、下城女将が案内してくれたのが「旅館山河」。田ノ原川沿いの雑木林を生かした広い敷地の中に母屋や離れ、温泉棟など12の棟が点在して建っている。
露天風呂をのぞくと、混浴の「もやいの湯」と女性専用の「四季の湯」が、岩を配して満々と湯をたたえている。内湯は「薬師の湯」のほか、「檜風呂」、「切り石風呂」、「六尺桶風呂」とバラエティ豊か。
泉質は、露天風呂がナトリウム塩化物・炭酸水素塩・硫酸塩泉で成人病などに効能があるとされ、内湯が単純硫黄泉で動脈硬化などに効果が期待されるという。黒川温泉街の旅館の湯は、それぞれ泉質が異なっている。日帰り湯巡りでも、数種の異なる湯を比べることもできるのだ。中でも「旅館山河」は、いながらにして2つの湯の違いを楽しめるのがすばらしい!
肥後細川藩のお殿様がつかった湯
次に紹介するのは、「歴史の宿・御客屋(おきゃくや)」。肥後細川藩のお殿様から命が下り、江戸末期に創業したという御客屋の歴史は300年にも及ぶ。
一歩館内に足を踏み入れると、玄関からロビー、廊下、客室、風呂と建物の作りの全てが一回り大きく、重厚感がある。お殿様のお声がけでできただけのことはある。露天風呂は「代官の湯」と、古文書を参考に当時の作りを再現した湯屋を持つ「古の湯」。
内湯はお殿様もつかったという「御前の湯」を始め、多様な種類がある。泉質は酸性・鉄(II)-単純温泉で神経痛などに効能があり、グリーン、薄い黄色、オレンジと湯の色が一日のうちに変化するというのだ。
料理はというと、7種類の会席料理の中から好きなものを選べるという。メニューには、肥後赤鶏と、野で遊ばせて育てたという遊黒豚、どちらかを使った七彩鍋も付いており、熊本ならではの深い旨味に身も心もポカポカになりそう。
真っ黒コロッケは真っ白コロッケとともに
湯巡りを終えたところで、「そうそう! こんなかわいいコロッケがあるんですよ!」と下城女将が連れていってくれたのが「Restrant & Cafe わろく屋」。「御客屋」から徒歩圏内にあるこのお店では、「しろっけ」「くろっけ」というコロッケが評判なんだという。
実はこの「わろく屋」は、前述した「御客屋」の姉妹店なのである。「わろく屋」には、イカスミを使った黒カレーがメニューとしてあるが、この黒カレーに地元小国産の黒豚とジャガイモをミックスし衣に包んでカラッと揚げたのが、中身も外身も真っ黒の「くろっけ」だ。
対する「しろっけ」は、更に手がこんでいる。今の季節は黒豚のミンチをサトイモで混ぜ込んだ具を揚げており、夏場はオカラと黒豚のミンチに素材が代わるという。外見はキツネ色に揚がった「しろっけ」。中身を開くとサトイモの色そのままの白が見える。もちもちで味わいさっぱりのサトイモに、濃厚な黒豚の旨味が加わり、絶妙なバランスに仕上げられている。
価格はどちらも1個200円。1日20個ずつの限定製造で、売り切れの日も多いという。
黒川温泉郷の大自然の中を、個性派コロッケを片手に散策しつつ、情緒も歴史もある露天風呂で癒やされる。そんな幸せな旅を求めて、この春、黒川温泉に足を運んでみませんか?