南仏トゥールーズにあるエアバス本社には、同社初の旅客機であるA300やコンコルドをはじめ、世界各国の名機の退役機を展示した文化遺産ミュージアムがある。史上初のジェット旅客機である英国製デ・ハビランド・コメットが事故で退役して以来、世界の空を独占する勢いだったアメリカ航空機産業に、ヨーロッパは大型化と高速化の2方面で対抗を図り、大型化はエアバスを、高速化は超音速旅客機コンコルドを生み出した。エアバスの文化遺産ミュージアムでは、この2機の機内見学ができる。

エアバス文化遺産ミュージアムに展示されているコンコルドの退役機(エールフランス機)

超音速旅客機コンコルド

商業的には失敗に終わったとはいえ、コンコルドが民間航空機の歴史に大きな足跡を残した機種であることは間違いない。フライ・バイ・ワイアパイロットの操作を、電気信号で翼などに伝える操縦システム)、機体・窓ガラスの耐圧・耐熱加工など、コンコルドに投入された技術は、その後のエアバス機にも生かされている。

マッハ2以上の速度を生み出したエンジンは、世界三大航空機エンジン・メーカーの1つ、ロールス・ロイス製。排ガスに再点火することで強力な加速性能を生み出すリヒート(アフター・バーナーともいう)機能も備えている。通常は戦闘機にしか搭載されない機能だ。

機内は飛行機というより鉄道のように細長く、耐圧性を高めるため窓は小さい。座席の広さはエコノミークラス程度だが、サービス面でそれを補う高級感を提供していた。100席の飛行機に6人の客室乗務員が乗り込み、グルメは5コースを用意、機内ではショーもおこなわれるなど、「フライト時間は非常にファンタスティックなものだった」(ミュージアム案内人)という。

コンコルドのキャビン。細長い客室と小さな窓が印象的だった

ロールス・ロイス製エンジン「オリンパス593」

エアバス初の旅客機、A300

コンコルドと対照的に大型化方面へと進化の枝を伸ばしたのがエアバス。20世紀において、大型化の究極の到達点となったのが米国製ボーイング747ジャンボ機(半2階建て、450席前後)だが、21世紀には総2階建て・550席前後のエアバスA380の投入で、ヨーロッパ勢が大型民間旅客機の記録を塗り替えた。

他の大量輸送システムを見ても、鉄道にせよ船舶にせよ、「大型化=大衆化」が発展のターニングポイントとなってきたことを考えれば、中小型機がもてはやされる中でのA380の投入はエアバスの英断であり、将来的には正解だったという結果が得られるのではないだろうか。

余談だが、A380の燃費は1Lあたり33km(エミレーツ航空環境レポートより)。トヨタ自動車「アクア」の燃費が同35km、ホンダ「インサイト」が同27km(各社ウェブサイトより、JC08モード)なので、最新旅客機の燃費性能は日本製ハイブリッド・カーにも匹敵する。

日本製ハイブリッド・カー並みに燃費の良い超大型旅客機エアバスA380(エアバス本社の最終組み立て工場)

ともかく、ヨーロッパ航空機業界の"2方面作戦"は、「エアバス=大型化」ルートが商業的な成功を収めたわけだが、記念すべきその第一歩が250人乗り旅客機A300だった。ミュージアム展示機は、客室も現役時代のまま残してあり(見学通路確保のため、片方の窓側席だけ撤去されている)、当時のキャビンの雰囲気を感じ取ることができる。2-4-2の座席配置からは、「どのシートも、最大1席またぐだけで通路と出入りできるようにする」というエアバス機のコンセプトが創業当時からのこだわりであることも見て取れる。エコノミー席だけでなくビジネス・クラスも残されている。

エアバス初の旅客機、標準250人乗りのA300

往時の姿をとどめるキャビン。こちらはエコノミー席。見学通路確保のため、片側の窓側席のみ撤去されている。後方にはビジネス席もある

A300の貨物室。コンテナ20個を搭載できる容積を備えており、退役後も貨物機として再利用できる設計となっている

また、床の一部が透明になっていて、貨物室も眺められる。コンテナ20個を搭載できる容積を備えており、旅客機を退役後も貨物機として再利用できる設計がセールス・ポイントの1つでもあった。

なお、このミュージアムは専用のツアーに参加して見学することになる。ツアーには、A380の最終組立工場の見学を組み込んだコースもある。詳細は、トゥールーズ観光局のウェブサイトへ。在りし日の空の旅に想像をめぐらすのも、面白いかもしれない。