汗は体温調整のために必要なものだが、腋窩(えきか、ワキの下)からの大量の汗などは、日常生活や社会生活において、行動の制限や精神的な苦痛をもたらすことがある。こうした状況を治療で改善できることは、まだ十分に認知されていない。12月11日にグラクソ・スミスクラインは、ワキの多汗症に関するメディアセミナーを実施した。
実際に治療に至る推定患者はたったの5~10%
生活や仕事に支障をきたすような発汗は多汗症と呼ばれ、病気として治療することができる。多汗症には、「続発性」(病気や薬剤使用に関連して発生)と「原発性」(病気や薬剤使用に無関連に発生)があり、「原発性」の中には、全身性と局部性(ワキの下や手のひら、頭、顔)の2種類がある。
厚生労働省は日本人の原発性局所多汗症患者の割合を、ワキの下5.75%(719.8万人)と推測している。しかし、病気としての認知度が低いため、治療に至る人は推定患者の5~10%にとどまるのが現状だ。
患者側の認知度の低さ以外に、デオドランド剤や汗パットなどの間違った使用で、十分な治療ができていない傾向もある。デオドランド剤は汗のにおいを抑え、汗パットは外に見えないようにする道具として活用できるが、あくまでも一般の人を対象にしたもので、多汗症の人には十分ではないという。
また、医療機関を受診しても、無治療で帰る患者は78%と高い。現状、多汗症は限られた医療機関でしか治療できないことが理由としてあげられている。医療機関側の治療ガイドラインが不十分であることや、処方せんの選択肢が少ないことが治療の障害になっているという。
どの医療機関でも治療が選択できる「ボトックス」
発汗抑制作用のある製剤として、近年注目されているのが同社のA型ボツリヌス毒素製剤「ボトックス」だ。11月21日には、重度の原発性局所多汗症の効能・効果追加の承認を取得し、保険が適用される治療方法となった。
セミナーでは、多摩南部地域病院皮膚科の藤本智子医長が、「ボトックス」を用いた治療方法についても紹介した。「ボトックス」は皮膚に注射をすることで汗腺の働きを抑え、過剰な発汗を抑制できるという。汗を抑える効果は通常、投与後2~3日で現れ、4~9カ月にわたって持続する。
藤本医長は汗をかきやすい夏の対処法として、春ごろに投与することが望ましいという。1回の治療は再診料も含めて約3万円。投与した半径1cm程度にのみ働きかけるので、反動で手のひらなどに汗をかきやすくなったというような副作用は少ないという。
ただし、重度の原発性局所多汗症の判定には、発汗の量や自覚症状などの基準が設けられている。また、治療としてすぐに「ボトックス」を投与できるものではなく、初診は塗り薬などから治療を行うようになるという。