ニコニコ動画が誕生して6年になる。スタートした当初はいつ権利団体に目をつけられて潰されてもおかしくないようなアングラサイトだったのに、現在では公式のアニメ放送が多数行われたり、生放送の方では主要政党の党首を集めて党首討論会を開催したりするまでになったのだから面白い。運がよかったということもあるだろうが、それ以上にドワンゴの舵取りがうまかったのだろう。
一方で、ドワンゴはニコニコユーザーが出演するライブイベントを積極的に開催するなど、リアルとネットをつなぐことにも心血を注いできた。その集大成が、今年4月に幕張メッセで開催された「ニコニコ超会議」である。こうしたドワンゴの姿勢に対して、あくまでプラットフォームとしてのニコニコ動画を求めるユーザーからは否定的な意見も出ていたが、ともあれニコニコ動画はそうやってユーザーコンテンツを盛りたてる方向で成長してきたのだ。
しかし、超会議以降、ニコニコ系の公式イベントの方向性は少しだけ変わったように思う。
11月25日に電気通信大学の「調布祭」と併催された「ニコニコ文化祭」を取材して、漠然とではあるがそんな印象を受けた。同イベントの模様をレポートしつつ、ニコニコ動画の"今"に迫ってみたい。
電気通信大学(以下、電通大)は東京・調布に位置する理工系の国立大学だ。先端科学技術に関する教育研究を行なっており、毎年多数の研究者や技術者を輩出している。年齢的にも学生のタイプ的にも、電通大とニコニコ動画の親和性は高い。それもあってか、大学構内に造られたニコニコ用の特設ステージ前には、開会式前から多くのユーザーが詰めかけていた。
午前10:00、電通大ウインドアンサンブルオーケストラ部がファンファーレとニコニコ動画の時報のメロディを青空に響かせて、ニコニコ文化祭in調布祭が開幕した。
ニコニコ動画ステージの司会進行を務めるのは、ニコニコ系のイベントで頻繁にMCを務めてきた通称「メガネ」氏と、人気ニコニコユーザーの面々。メインMCの「ふでぱ」は、OLの制服でダンスを披露してブレイクした踊り手で、今年の8月に開催されたダンスイベント「ニコニコダンスマスター4」では初めてとは思えない優れた司会ぶりを見せるなど、マルチな才能を持つユーザーだ。その実績が評価されたのか、ニコニコ文化祭でもメインMCとして抜擢され、毎回優れた進行で場を仕切ってきた。
ニコニコ動画ユーザーには、彼女のように"大きなイベントの司会も難なくこなせる一般人"が多数存在する。先日の党首討論会のような場面ではさすがに厳しいが、ユーザー主体の放送であればむしろプロの司会よりも、ニコニコ文化に精通したユーザーに司会を任せる方がうまくいく場面も多い。ちょっといやらしい話ではあるが、費用面でもメリットは大きいだろう。こうした"タレント"を多く抱えている点は、他のコミュニティにはないニコニコ動画の強みであり、6年かけて場を熟成させてきた成果といえる。
もっとも、今年の夏に行われたニコニコ町会議と、秋のニコニコ文化祭に関しては、実はそれほど"ニコニコ色"を押し出したイベントではなかった。ニコニコ町会議の主役は地方の夏祭りであり、ニコニコ文化祭の主役は開催校の学園祭である。ニコニコはあくまでも主体となるイベントに"お邪魔"して、盛り上げるためのお手伝いをするという体をとっていたのだ。
実際、筆者はいくつかのニコニコ文化祭を直接取材したのだが、会場内におけるニコニコの存在感は思っていたよりも控えめで、ニコニコステージの周辺以外は、まったくニコニコ色のないごく普通の文化祭であった。入り口付近の露店や校内を歩いただけでは、ニコニコ動画の存在を感じることはなかっただろう。……続きを読む