漫画の中でも任侠・極道ものは根強いファンを抱える人気ジャンルのひとつ。とはいえ、好きな人は好きだけど、苦手な人はとことん苦手なジャンルでもあります。任侠・極道というと何だか血生臭そうとか、怖そうとか、重い話が多そうとか、そういったちょっとダークなイメージが強いからかもしれません。

たしかにそういう作品も多いのですが、でも実際には気楽に読めて楽しめる作品だってたくさんあるのです。イメージだけで避けるのはもったいない!

ということで今回は、電子貸本サイトRenta!のラインナップから、任侠・極道ジャンルの漫画作品をピックアップしてご紹介しようと思います。長編から短編、ギャグテイストのものからシリアスなものまでバラエティ豊かに取り揃えてみましたので、気になった作品をぜひ読んでみてください。

『静かなるドン』(実業之日本社刊)

静かなるドン

中山秀征主演でテレビドラマ化もされた超人気作品なので、ご存知の方も多いでしょう。読んだことはなくても、タイトルを聞いたことくらいはあるのでは?

もっとも、ドラマ化されたのももう20年近く前の話なので、若い方は知らないかもしれませんね。極道漫画といえばこれ! という人も多い、定番中の定番作品です。今さらこれを紹介するのもどうなんだろう……と思いましたが、やはり面白いものは面白いので、この場でガツンとオススメさせていただきたいと思います。

任侠・極道というわりに内容やタッチはコミカルで、ときにギャグテイストもまじるユーモラスな作品。だからこそ誰にでも読みやすく、100巻を超える長寿作品になり得たのでしょう。

主人公の近藤静也は関東最大の広域暴力団・新鮮組の総長を父親にもつ跡取り息子にして、昼は女性下着メーカーに勤務するサラリーマン(!)という2つの顔を持つ青年。どこか頼りなげで父親とは正反対の風貌をしている静也からは、およそヤクザを想像させる雰囲気はどこにもありません。しかし、父親が殺されたことから静也は新鮮組の三代目になり、本格的に組長とサラリーマンという二足のわらじを履くことになるのでした――。

なんといっても、主人公の静也のキャラクターが魅力的です。昼と夜で二面性を持つ主人公の作品は色々ありますが、本作はその中でもダントツにギャップの大きな作品ではないでしょうか。夜は構成員1万人を仕切るヤクザの組長でありながら、昼は下着メーカーで上司に愚痴や嫌味を言われながら下着のデザインに精を出し、同僚の秋野さんにほのかな恋心を抱く毎日。このありえないようなギャップがトラブルを生み出し静也を襲うのですが、これを静也は毎回知恵と力と機転と運で切り抜けていくのです。

100巻というとものすごい分量に思えますが、基本的には一話完結、もしくは数話で完結する短編・中編集なので、好きなところで休憩を挟めるのも嬉しいところ。もっとも、お話のテンポがよく、次の話が気になるのでついつい長時間読み耽ってしまうのですが……。

また、静也を取り巻く登場人物も皆魅力的です。秋野さんをはじめ、部長や社長といった職場の社員たち、そして静也に仕える組の幹部連中、いずれも個性豊かでキャラが立ちまくり! これだけ長い話なのにダレることも飽きることもないのは、そうした魅力的なキャラクターとギャグとシリアスを絶妙に織り交ぜたストーリーの面白さがあるからでしょう。

最近、ついに完結することが発表され話題となった「静かなるドン」。これほど面白い任侠・極道漫画はそうそうありません。日本漫画史上に金字塔を打ち立てた名作をこの機にぜひ味わってみてください。

『とせい~任侠書房~』(実業之日本社刊)

とせい~任侠書房~

見つけた瞬間、「その発想はなかったわ!」と思わず叫んでしまった任侠・極道漫画。

物語のテーマ、"ヤクザが出版社を立て直す"というもので、極道と出版社という絶対に結びつかない2つの要素を強引に結びつけてしまった一作です。いったいどんな話なんだ……と、少々疑いながら読み進めてみると、意外や意外、これが面白いのです!主人公の日村誠司は阿岐本組の構成員で、昔気質で義理堅い硬派なヤクザ。そんな日村に、組長から意外な指令が下ります。

「俺、出版社の社長やるからよ。おめえ役員やれ」

文化人に憧れていた組長のわがままから、倒産寸前の出版社の役員をやることになった日村。そんな日村の前には、校了と戦う雑誌編集長や、出版不況の煽りを受けてやる気を失った部長など、個性豊かな面々が登場し、次々にトラブルが巻き起こります。

当然、出版業界に関してはド素人の日村ですが、持ち前の男気やこれまでの経験を活かして、何だかんだと揉め事を解決に導いていく過程が非常に面白い。出版業界の現状や仕事の流れなどもリアルに描かれていて、任侠・極道漫画というよりもビジネス漫画として楽しめる一作です。

『追跡者』( グループ・ゼロ刊)

追跡者

変わり種ばかりを紹介してきたので、最後は本格派の任侠・極道漫画をご紹介。こちらは最初から最後までシリアス一辺倒ですが、1巻で完結しているので気軽にさらっと読むことができます。

殺人罪で服役していた滝沢竜二は出所後、自分を待っていた筈の恋人の綾子が可愛がっていた弟分の賢治と駆け落ちしたと聞いて、二人を捜す旅に出ることに。パチスロで食い扶持を稼ぎながら全国を回る竜二が、旅の果てにたどり着いた真実とは――。

全体的にはかなりパチスロがフィーチャーされており、ギャンブル漫画としても楽しめる作品。もちろんパチスロに詳しくなくても面白く読むことができます。全国を旅しながら各地で揉め事に巻き込まれ、パチスロ勝負で決着をつけるというのが定番の流れ。一方で、恋人と弟分の駆け落ちに隠された真実が少しずつ明らかになってくる、ミステリとしての要素も見逃せません。

まずは気軽に1冊だけ読んで任侠・極道ジャンルに触れてみようという人にオススメの作品です。