焼肉の人気メニューのひとつ、「タン」。煮込んでシチューにしても人間の舌を喜ばせてくれる。しかし世間で味わうことができる「舌」は、せいぜい牛タンか豚タンくらい。それ以外の生き物でも、タンはおいしいのだろうか。今回、哺乳類と爬虫類の舌をそれぞれ調理して、味を比べてみた。

哺乳類代表は、筆者が北海道で入手して冷凍しておいた「エゾ鹿のタン」。爬虫類代表は、オーストラリア産で1パック5枚入り350g、1,350円の「ワニタン」。まずは冷凍保存していた両者を解凍する。ザラザラした味蕾に覆われ、生息地の松葉もこびりついたエゾ鹿タンからは「野生」そのものの濃厚な血の臭いが感じ取れる。一方でワニタンは製品として下処理を施されているせいか、何の匂いもしない。

上がエゾ鹿タン、下がワニタン

野性味溢れるエゾ鹿タン、淡白なワニタン

まずは薄切りにして、シンプルにタン焼き。エゾ鹿のタンは牛タンによく似た味だが、やはり野生動物ゆえ舌まで筋肉の固まり、とにかく硬い。一方でワニタンは弾力を帯びつつも柔らかい。ワニの肉質は鶏肉に似ているが、舌まで鶏肉そのまま。淡白ながら、しっかりと脂も乗っている。

かたくて濃厚なエゾ鹿タン、柔らかくて淡白なワニタン。これら特性を見た上でメニューを考える。まずエゾ鹿タンは香味野菜と一緒に茹でて一晩寝かせたのち、かたい皮をはぎ取って刻む。その上で玉ネギ、人参、トマト缶、ジャガイモを加え、赤ワインとデミグラスソースで味を調える。小麦粉のルーでとろみをつけて皿に盛り、生クリームをあしらった「エゾ鹿のタンシチュー」。

ワニタンはカブやジャガイモ、ニンジンと共にスープで煮て塩味で仕上げた「ワニタンのポトフ」。あるいはショウガ醤油に漬け込むか香草を振り掛けた上で小麦粉をはたきつけ、オリーブ油で焼き上げた「ワニタンのムニエル」。

写真左側が焼きワニタン、右が焼きエゾ鹿タン

こちらが「エゾ鹿のタンシチュー」

空腹をおさえつつ撮影を終え、さっそく試食。シチューにしたエゾ鹿タンは実に味わい深い。香味野菜と数時間煮込むことで臭みが消し去られ、噛めばホロホロとほぐれる。濃厚な味は付け合せのクリームでまろやかになる。一方でワニタンはプリプリした歯ごたえ。ホタテの貝柱に鶏のモモ肉を足したような旨味は、軽い醤油味を受けてさらに引き立てられる。

エゾ鹿タンとワニタン、どちらも甲乙つけがたい旨さ。新たな「タン料理」の素材として、広く味わっていただきたいものだ。