ハイテク産業集積と経済効果
だから、「ビジネスジェットが飛んでくれば、お金持ちがいっぱい買い物してくれてハッピー! 」と思っている人は甘い。「機内のトイレを使うと洗浄費が発生するので、空港に着くまで我慢する客もいる」(ビジネスジェット業界関係者)というくらいで、もともと一分一秒たりとも利益の発生しない時間を許せない人たちが使う乗り物なだけに、ゆとりある定期航空(LCCを含む)とは違うのだ。
では、ビジネスジェットではお金は落ちてこないのかというと、別のところで大きな経済効果が発生する。空港での産業集積だ。
その業務内容はガレージ・サービス(格納庫賃貸)、整備・修理サービス、チャーター運航、給油サービス、機内食や宿泊施設等の手配、ジェット機の清掃、気象情報の提供とフライト計画の作成支援、ラウンジや会議室の提供など多岐に渡る。空港内でジェット機の交換部品を製造しているケースもある。これら全てを一社で手掛ける大手もあれば、それぞれの専門企業が集まってサービス・ステーションを形成している事例もある。
次の写真は、パリのビジネスジェット専用国際空港ル・ブルジェ空港に立地する、Dassault Falcon Service(ダッソー・ファルコン・サービス、以下DFS)社の整備工場。フランス製ビジネスジェットDassault Falcon専門の整備工場で、年間200機以上を整備・修理しており、300人以上のエンジニアが働いている。DFSはチャーター運航や給油等のサービス部門も備えており、ル・ブルジェ空港内だけで500人以上のスタッフを雇っている。
また、スイスのバーゼル空港には、Jet Aviation社が世界最大規模のビジネスジェット専門整備工場とキャビン・デザイン工場を構えており、52カ国から1,700人以上のデザイナーやエンジニアが集まってサービスを展開している。ここにはジェットエンジン・メーカー世界大手の直営整備工房なども入居しており、ハイテク航空機産業の一大拠点となっている。
前述の英国ファンボロー空港も、空港内だけで1,000人以上、空港周辺で3,000人以上の雇用効果を生んでおり、英国に対する経済効果は2億2,000万ポンド(約250億円、純利益ベース)と推計されている。
これらは全て、免税店でのショッピングというささやかな旅の楽しみを我慢する、ビジネス・パーソンたちの労苦の上に成り立っているのだ。