会社に勤めても人生安泰というわけにはいかないご時世です。そんなご時世ですから、食べるのに困らないというイメージからか、農業に目を向ける人が増えています。来るべき食料不足の時代を見越して、農耕に適した土地を買い増す投資家がいるぐらいです。では、門外漢が農業を始めるとしたら、一体いくらぐらいかかるのでしょうか? 調べてみました。
「米作り」をゼロから始めると…
農業を始めるとひと言で言っても作物はさまざまですが、日本人ならまず米作り。食糧難の時代がやって来ても、自分が作ってるのであれば食うに困りません。というわけで「ゼロから米作りをするなら……」を、新潟県、長岡市で農機具販売を手がけている大島健さんにお話を伺いました。
――お米作りをゼロから始めるとするといくらかかるかを知りたいのですが。
米を作る工程ごとにかかるコストが違いますので、まずこの工程を理解してください。実際にはもっと細かな工程があったり、各農家・地区によって異なりますが大まかにはこの通りです。
お米作りの工程
土づくり(耕耘作業、土ならし、除草作業、肥料散布)
田植え(苗購入、苗植え)
管理(除草作業、追加肥料)
収穫(稲刈、乾燥調製)
保管
――なるほど。耕作地はどうすればいいでしょうか?
基本的には各地域の農業委員会の許可を得なければ田畑の取引はできませんが、今回は親戚縁者から借り受けるという形にして話をしましょう。
――田んぼを借りるにはいくらぐらいかかるのでしょうか?
田んぼの借り賃は、1反(10a)あたり9,000円~25,000円です。もちろん所在場所・用水の利用などで変わります。山の中などの不便な場所になるほど安くなります。
――イメージとしてはそんなに高くない感じですね。田んぼ1反でどのくらいお米が収穫できるのでしょうか?
収穫量は約500~600㎏になりますね。ちなみに1人あたりの米の年間消費量は約60㎏です。
――そうすると、1反の田んぼからの収穫で1人なら十分ご飯が食べられるということですね!
工程ごとのコスト
――各工程ごとのコストはどうなるでしょうか?
そうですね、作業の機械化の度合いによってコストに大きく開きがあるので「A」、「B」、「C」の3パターンに分類しましょう。まったくお金をかけずに手作業で行う場合を「A 」、ややお金をかけある程度機械に頼るものを「B」、お金をかけてとにかく楽に作業するのを「C」とします。
(※以下で提示しているのは定価、あるいは平均的な価格なので注意してください)
「土作り」工程でいくらかかるか
Aパターン:耕すための鍬(12,000円)+土ならし用のレーキ(3,000円)+雑草取りのための草刈鎌(800円)+有機肥料代(400円×15袋)=21,800円
Bパターン:耕すための耕耘機(140,000円)+耕耘機用土ならしレーキ(12,000円)+除草剤(3,000円)+人力肥料散布機(15,000円)+有機肥料代(400円×15袋)=176,000円
Cパターン:耕すためのトラクター(980,000円)+トラクター用土ならしロータリ(280,000円)+除草剤噴霧機(48,000円)+除草剤(3,000円)+肥料用動力散布機(85,000円)+有機肥料代(400円×15袋)=1,402,000円
(※「レーキ」とは熊手のことです)
「田植え」工程でいくらかかるか
自分でも苗を作れますが、今回は農協でコシヒカリの苗を買った計算です。
Aパターン:手植えのため苗代のみです。苗代(700円×20セット)=14,000円
Bパターン:苗代(700円×20セット)+歩行用田植機(208,000円)=222,000円
Cパターン:苗代(700円×20セット)+乗用田植え機(690,000円)=704,000円
「管理」工程でいくらかかるか
Aパターン:除草作業は土作りの時の鎌または素手で手作業。追加有機肥料代(400円×5袋)=2,000円
Bパターン:田んぼ周辺の除草作業に刈払機(55,000円)+水田用除草剤(3,500円)+追加有機肥料代(400円×5袋)=60,500円
Cパターン:除草剤噴霧機(購入済み)+除草剤(3,000円)+水田用除草剤(3,500円)+肥料用動力散布機(購入済み)+追加有機肥料代(400円×5袋)=8,500円
「収穫」工程でいくらかかるか
Aパターン:稲刈用の鎌(800円)+稲を束ねる紐(200円)+モミの乾燥は天日干し+手作業で脱穀作業+道具がないので籾摺り調整作業を農家に委託(8,000円)+米袋(100円×20袋)+コイン精米所での精米作業(300円×20回)=17,000円
Bパターン:歩行型稲刈バインダー(400,000円)+稲を束ねる紐(200円)+モミの乾燥は天日干し+手作業で脱穀作業+道具がないので籾摺り調整作業委託(8,000円)+米袋(100円×20袋)+家庭用精米機(38,000円)=440,200円
バインダ参照 http://www.jnouki.kubota.co.jp/jnouki/html/product/combine/binderRJ/index.html
家庭用精米機 http://www.satake-japan.co.jp/ja/products/household/skm5b.html
Cパターン:乗用型稲刈コンバイン(1,460,000円)+穀物乾燥機(810,000円)+米のモミすり機(400,000円)+選別計量機(230,000円)+米袋(100円×20袋)+家庭用精米機(38,000円)=2,940,000円
コンバイン参照 http://www.jnouki.kubota.co.jp/jnouki/Special/racty/index.html
穀物乾燥調製機器参照 http://www.satake-japan.co.jp/ja/products/drying/#milling
「保管」工程でいくらかかるか
Aパターン:自分の家にて温度湿度に気を付けながら保管=0円
Bパターン:ネズミ・虫除けのための米保管庫=36,000円
Cパターン:ネズミ・虫・湿気を防ぐための玄米低温貯蔵庫=170,000円
全工程合計のコストはこうなる!
以上を3パターンごとに合計して、田んぼの賃料9,000円を加えると……。
まったくお金をかけずに手作業で行う
Aパターン:合計63,800円
ややお金をかけて、ある程度機械に頼る
Bバターン:合計943,700円
お金をかけてとにかく楽に作業する
Cパターン:5,233,500円
合計943,700円が現実的なコスト!
――やはり、かなりコストが違いますね。
大まかな作業ごとのコストは以上ですが、実際は割引や中古販売などがあるので機械に関してはもっと安く済みます。
――どのくらい安くなりますか?
平均して約3割引程度でしょうか。この他に機械・道具の保管場所や、燃料代や機械の整備費、田んぼまでの移動手段などが必要になることも考えなければなりませんね。
――この3つのパターンの実現可能性というのは?
まず何もかも人力でやるAパターンですが……お金はかかりませんが、まず体がもたないと思います。毎週土日は山の田んぼで過ごす覚悟が必要です。一つ一つの作業に時間がとられるため天候が崩れた際の予定変更も容易ではありませんね。
――なるほど。Bパターンはどうでしょうか?
Bパターンでは、Aパターンよりお金はかかりますが格段に仕事量を減らすことが可能です。定年退職や休日ファーマーになって中山間地でこだわった栽培をしている方に多い形態ですね。
――これは実際に実行している人がいるわけですね。Cパターンはどうでしょうか?
Cパターンでは格段に仕事が楽になりますが、コストも桁違いです。今回の面積では元が取れるまで大変苦労すると思います。もう少し耕地面積を確保するのが現実的です。
――では現実を考えると……。
現実的なコストのかけ方としてはBパターンが一番妥当だと思います。
――ということは、合計943,700円のパターンですね。これ以外にやり方はありますでしょうか?
その地区の農業組合・農家に作業委託をするというやり方もあります。委託先や田んぼの条件にもよりますが、お米を作るまでの一通りの作業を1反あたり約100,000円で委託が可能です。
――なるほど。ただ、その場合は「農業始めました」とは言いにくいかもしれませんね。
実際に商売として農業を行う若い人のほとんどは各地区の農業生産組合の求人から就職するか、各自治体の就農者向け教育機関などで知識と技術を学んでから新規就農者となります。今年の農林水産省の予算に「新規就農総合支援事業」というものがあります。これによって国・県・市それぞれから新規就農者向けの融資などの補助事業が例年よりも盛りだくさんです。個人にしても就職にしても新規就農はしやすいかと思います。
大変具体的でわかりやすい大島さんのお話でした。国の未来を考えると、みんながもっと農業に興味を持つ必要があるかと思います。みなさん、就農について考えてみませんか?
(谷門太@dcp)
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