全国に合計1万6,000台以上あり、今や社会の"インフラ"ともなっているセブン銀行のATM。だが、それがどこでどのようにして作られているかを見たことがある人は関係者以外まだいないはずだ。今回、特別の許可を得て、セブン銀行のATM、しかも最新の第三世代ATMの製造工場を見学することができた。
セブン銀行の第三世代ATMは、従来の第二世代ATMと比較すると、紙幣処理のスピードや操作性が向上しているほか、プライバシー確保の強化や消費電力の削減など、機能や性能がレベルアップしている。
すでに山梨・群馬・東京への展開が完了し、2012年度は神奈川・静岡・千葉・埼玉に展開する計画とのことだ。このエリアの方は、第二世代ATMとの違いをぜひ試してもらいたい。
最新型「セブン銀行ATM」の製造工場は甲府に
現在、セブン銀行の第三世代ATMを製造しているのはNEC。山梨県甲府市にあるNECコンピュータテクノの甲府事業所で製造を行っている。新宿発の「スーパーあずさ」に乗り、初めて甲府に降り立った。「今から最新のATM工場を見学するんだ」と思うと、ドキドキする。同行してくれたセブン銀行の人によると、メディアで最新の第三世代ATMの製造現場を取材するのは、私が初めてとのこと。大変光栄な思いを感じると同時に、うまく記事が書けるか若干の不安も感じながら、工場に向かった。
NECコンピュータテクノの数多くの方々に迎えられて、同社に関する説明を受けた後、いよいよ工場見学に。本社のある事務棟の5階から、連結している工場棟の4階へと案内された。工場棟の4階ではサーバ用の基板などを製造しており、ATM関連ではATMの制御用ボードを製造している。フロアの広さは120m×39mで、その一角でATMの制御用ボードが作られているというわけだ。
フロア内に入る前には、静電気の帯電を防止する作業服を着て、静電気の帯電の有無をチェックしてから入室することになっている。
工場棟4階ではATMの制御用ボードを製造、「ながら設備」などで効率化
生産ラインでは、部材をラインの最初に集積させ、効率よく生産できるようにしている。部材は、いつ、どれくらいの量を納入するかをかんばん方式によって部品納入業者と調整しており、無駄な在庫を持たないようにしている。ラインには導電性のマットを敷いて、作業者の体に帯電する静電気を逃すような工夫もしている。
ラインではまず、プリント基板に「はんだ」を印刷。"ガリ版印刷"の要領で、穴の開いたところにはんだを刷り込んでいく。はんだ印刷の後は小さくて量が多い部品を高速で実装。高速チップマウンターを使い、1個あたり0.08秒で実装していく。さらに、大きな部品や形が特殊なものをゆっくり精度よく載せていく。載せた後はリフロー装置を使い、摂氏230度で基板と部品をはんだでくっ付ける作業を行う。作業の後は、X線を使った検査で、はんだがちゃんと付いているかどうか検査を行う。
その後、人が作業する工程となり、基板の穴が開いている部分に、手で一つひとつ部品をつけていく。作業のラインの後方には溶けたはんだを穴に流し込む設備があり、部品をはんだ付けする。また、工場には「ながら設備」と呼ばれる設備があり、その意図するところは、ある作業をしながら別の作業もすることで作業効率を上げることにある。「ながら設備」には、ねじを供給する装置もあり、製品ごとに付与されているRFIDのタグをかざすと、必要なねじが出てくるといった仕組みもある。
ATMの制御用ボードの製造ラインでは、最後に汚れがあるかないかの「ビジュアルチェック」を行った上で完成となる。完成品は「完成品ストア」にストックされ、その日に製造するATMの分だけを、工場棟2階フロアにあるATM組み立てラインに供給するようになっている。
ATMの組み立てラインは「極秘中の極秘」、他のラインと完全に隔離
ATM制御用ボードを製造するラインのある4階から、今度はATMの全体を組み立てるラインのある2階に移動。2階ではATM以外のものも作っているが、防犯上、極秘事項が集積した機械であるATMの製造ラインは、他の製造ラインとはパーティションで区切られ、パーティションの内部で極秘に行われている。この内部に入るには、指紋を登録した人しか入れないようになっている。まさに、極秘中の極秘、の場所である。さきほども述べたが、メディアでここを取材するのは、私が初めて。緊迫感が走る。
内部に入って直後、4階と同様、静電気の帯電チェックがある。ラインは2つのラインが並行しており、一つは取引明細のレシートを出すための「カードレシート部」のラインであり、もう一つが「ATM本体」のラインである。
"みずすまし"がスムーズに作業者に部品を供給
双方のラインでは、作業者が作業をする裏に「ストア」がある、これは、組み立てる部品の置き場で、部品を組み立てていく順番に「ストア」も並んでいる。「ストア」という名称は、部品の「売り場」という意味であり、効率よく部品を供給するための仕組みになっている。ストアでは、組み立てるために必要な部品を、昆虫の"みずすまし"のようにスムーズに作業者に供給する作業員がいて、"みずすまし"と呼ばれている。"みずすまし"は「ストア」から部品を"買い"、作業者の手前の棚に必要な部品を入れていく。床には「みずすまし買い物ルート」という表示があり、そのルートに沿って"みずすまし"が組み立て作業員の棚をチェックしながら、移動するようになっている。
「カードレシート部」を複数の監査によって"100%確実"に組み立て
ATM1台分の「カードレシート部」に必要な部品点数は740点で、組み立ては5つの工程がある。工程の中では、組み立て状況を監査する過程があり、100%確実に組み立てられるようになっている。1日に組み立てるATMは現在24台で、カードレシート部も同じ数を組み立てる。
カードレシート部は「サブユニット」と呼ばれる塊に分けることができ、サブユニットにちゃんと部品が付いているかなどは、さきほど述べた監査工程でチェック。さらにサブユニットをカードレシート部本体に組み込んだ後にもう一度チェック。各ユニットにはバーコードラベルが付いており、1つのカードレシート部にどのユニットがついているかを管理できる。その後もケーブルがショートしていないか検査を行ったり、メカの長時間動作試験を行って振動をかける機能検査を行ったりと、数多くの監査・検査を行うようになっている。最終検査では、印字の位置や濃さの確認を行う。
「ATM本体」の組み立ては、センサーで自動的に部品を供給
「カードレシート部」の製造と並行した「ATM本体」の組み立てラインでは、重量があるため、レールの上で自動搬送しながら部品を組み立てていく方法がとられている。レールにはセンサーがあり、それぞれの部品を取り付ける工程ごとに作業者の前の棚から自動的に組み立てる部品が出てくるようになっている。これにより、部品の取り付け忘れを防止する仕組みだ。4階で製造された制御用ボードはボックスに入れられるが、この4階から来る制御用ボードの部品も含めると、本体の組み立てでは420点の部品が使用されることになる。
また、本体の組み立てにおいては、作業者が自ら考え出した工夫も数多くある。例えば、ATMの上扉は10キログラム以上あり、作業者が本体の上に運んで組み立てるのは非常に難しい。そのため、上扉を上方に持ち上げる仕組みを考案し、簡単に組み立てられるようにしている。その設備は、NECコンピュータテクノが自社開発したものだ。その他設備においても、日々作業員がアイデアを出し、改善・改良に努めている。
組み立て後は店舗設置を想定して事前検査、1日24台を出荷
本体とカードレシート部、紙幣部を組み合わせて、ATMはついに完成。ここからはまた、さまざまな検査が行われる。
振動をかけたり、部品がきちんとついているか、ケーブルがちゃんと接続されているか、などを検査。さらに、「マニュアル検査」では、カードの読み書きができるか、現金の出し入れができるかをチェック。また、「自動検査」では、電源のオフ・オンでの起動確認や、ATMの周りをカーテンで覆い、中の温度を上げて負荷の高い状態で稼動するかのチェックを自動で行う。
「SI検査工程」で、現金やカードを使った実際の運用に近い検査を行い、店舗での作業時間を最短化するように、店舗設置時のチェックを事前に工場で最終確認する。
次に続く「梱包工程」では、添付品の品揃えなどを最終監査した上で、ATMを梱包。完成したATMはエレベーターで完成品置き場に2台ずつ運ばれ、1日24台が出荷される。
「目指せ品質世界一」
こうして最新型ATMが作られるわけだが、NECコンピュータテクノでは、「目指せ品質世界一」を掲げ、社員の意識付けを積極的に行っている。山梨県にも最新のATMが設置されており、作業者の方々は、自ら作ったATMを見ることができるため、愛着と誇りを持っているといい、それがさらなる品質向上に役立っているという。
ここまでATM製造工場の内部を紹介したが、いかがだっただろうか? 筆者は取材しながら、いかにATMが精密に、しかも効率よく製造されているかが実感できた。ATMが作られる過程を記事を通して知っていただくことで、日ごろ何気なく使っているATMを身近に感じていただけたなら、幸いである。
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