セゾン投信代表取締役社長の中野晴啓氏がビジネスの最前線で活躍する人たちを招いて対談する「中野晴啓世界一周の旅」。アメリカ編第2回となる今回は、前回と同様、バンクオブニューヨークメロン証券 ヴァイスプレジデントの佐々木一成氏を招き、米国のドルが基軸通貨たりえるかなどの問題について、中野氏と語っていただいた。
S&Pの米国債格下げ、政治的な意図があったとの観測も
中野 : 前回は、米国のデモを取り上げ、雇用格差、人々の格差の問題について触れていただきました。米国の闇の部分というと、話題になった財政問題もありますが、8月に格付け会社のS&Pが米国債を格下げしました。これは米国の格付け機関が自らの国を格下げしたということですが、どういう意味があるのですか?
佐々木 : かなりの部分で政治的な意図があったという観測があります。複数の見方があって、あのタイミングで格下げすることで、S&Pは得をしないわけですよね。だけれども、得する人がいたはずなんですよ。それはヘッジファンドとか言われる人達で、米国債が下がるほうに賭けていた…
中野 : 裏で何かつながっているということですか?
佐々木 : ええ、そういう風に米国の当局は見ていて、現在SECが、その辺の意図的な部分があったのではないかということで、調査に入っています。
中野 : なるほど、そうすると、あの時起きたことは、米国債が売られるという前提で、インサイダー取引をしていて結果米国債が思惑通りには売られず万歳しちゃった人がいるわけですね。
佐々木 : 偶然ですけど、その後、ジョージ・ソロスもヘッジファンドをやめると発表しましたし。
中野 : あれは結構怪しいかもしれないですね。
佐々木 : この辺は結構くさいんですよ。ただ、結果的には、機関投資家にアンケートをとっているデータがありますが、3分の2は格下げを妥当だと答えています。
中野 : 妥当ですか? あのタイミングでの格下げはナンセンスきわまりないと思ったんですけれどもね。
佐々木 : アンケートの対象となった機関投資家の属性は公開されていませんから、そこは微妙ですね。
米ドルを中心にしたグローバルな決済インフラは消去法で残る?
中野 : 米国債の格下げというとすぐに出てくるのは、基軸通貨のドルが、10年、20年、40年、100年後に、まだ基軸といわれるかどうかも問題になってきますが、今のドルのバリュー(価値)については、どういう風にとらえてらっしゃいますか?
佐々木 : バリューという点に関して言えば、このままか、もしくは徐々に減っていく方向だと思います。
ただ、米国のUSドルを基軸とした世界経済の流れは確立していますし、貿易にしても金融にしてもそうですけれども、決済インフラを含めて米ドルが中心の構造ができています。ですから、米ドルを中心にしたグローバルな決済インフラというのは、しばらくは続かざるをえない。ある意味、消去法で残ってしまうということに近いと思いますけれども。
中野 : 実体経済の部分では、新興国の規模がどんどん大きくなってくると思うんですけれども、どういう通貨をもって貿易があり、経済活動がありっていうことになると、やはり貿易の60%以上がドルで決済され、それに代わりうるものは見出せません。
私どもも徹底した国際分散投資をしていますけれども、一番大きくお金を傾けるのは、ドルなんですね。それは多分、長い時間でみれば、一番正しい選択だろうと、確信に近い考えを持ってやっています。米国が、基軸としての経済力を失いつつも、まだまだ強さを失わない理由っていうのは、どこにありますか?
先進国では唯一、米国だけが人口政策に成功
佐々木 : 最大のポイントは人口です。G7の中で人口が増えているのは、米国だけのはずです。
中野 : おっしゃる通りですね。日本はご存知の通り、もうこれから少子高齢化でじわりじわりと人口は減っていくきますというのはご存知だと思いますが、先進国では唯一、米国だけが人口政策に成功しています。人口増加は、どれぐらいのスケールで増えているのでしょうか?
佐々木 : 今米国は3億人を超えたところだと思いますけれども、毎年1,000万人~1,500万人増えています。3億人で1,000万人ですから毎年3%増えているわけです。
中野 : 単純に考えれば、潜在的な成長率は常に3%を維持できると。
佐々木 : 単純な図式でいうと、そういうことになります。
中野 : これはすごいことですよ。成熟経済の中で、3%成長を安定して続けていけるというのは素晴らしい。これが米国の強さですね。
米国のドルが暴落すれば、「ダメージを受ける人が圧倒的に多い」
佐々木 : また、ドルという基軸通貨を持っているがゆえに、いろんなことをするにしても、為替リスクというのがほとんど発生しません。
中野 : 米国のドルが暴落するという本が売れていますが、それはありえないと?
佐々木 : (暴落が)あったほうが喜ぶ人がいることは事実なんですよ。ですが、現実的には、(暴落を)させないと思います。ダメージを受ける人のほうが圧倒的に多いからです。喜んで、(暴落に)「ハイ」という人はいない。
中野 : それが世の中の事実を客観的に見るということなんですね。ドルが暴落するというのは、話としては面白いけれども、喜ぶ人が世界にどれだけいるか考えた時に、日本だって中国だってドルを持っているわけです。そういうことを客観的に見て、投資も冷静に見ていただくべきでしょう。
佐々木 : それは基本中の基本です。自分が習った理論を前提にものを考えると、今のマーケット、今の株価が間違っているという人が多いですが、それは絶対違うと思います。マーケットというのはいろんな形でいろんな人の思惑がぶつかってできているものですから、そこで起きていることが事実なんです。それを自分でどう解釈するのかが、重要なんです。
中野 : 長期投資家としてはふんばりどころですね。皆さんもぜひ、今の時代をふんばっていただきたいです。次回は、米国の底力というか、米国の強さというものを、浮き彫りにしていきたいと思います。
ワールドインベスターズTV『セゾン投信社長 中野晴啓の世界一周の旅・第一回 アメリカ経済編(2)アメリカ国債格下げの真相とは如何に?』の動画URLは以下の通り。
http://www.worldinvestors.tv/products/detail.php?product_id=1101