映画『ゼブラーマン』シリーズや『ヤッターマン』、『十三人の刺客』など、幅広いジャンルの作品を手掛ける三池崇史監督が、時代劇史上初の3D映画『一命』を完成させた。アトラクション的な映像で見せる従来の3D作品とは異なり、ある浪人とその家族の姿を淡々と描いた本作は、市川海老蔵、瑛太の演技と共にその静かな映像でカンヌ国際映画祭でも話題となった。
三池崇史 |
『一命』の舞台となるのは、大名家の取り潰しが続き、仕官先を失った侍が"浪人"として苦しい生活を送る江戸時代初頭。井伊家の屋敷を訪れた浪人・津雲半四郎(つくもはんしろう/市川)は、切腹のために庭先を貸してほしいと願い出る。それを受けた井伊家江戸家老・斎藤勘解由(さいとうかげゆ/役所広司)は、数カ月前に同じ申し出をしてきた浪人・千々岩求女(ちぢいわもとめ/瑛太)のことを思い出す。求女の切腹について斎藤の話を聞く半四郎は、一命を懸けたある目的のために井伊家を訪れていた――。
三池監督作品の中では圧倒的にアクションシーンが少ない本作だが、どのような経緯で3D作品としての撮影が決定したのだろうか。
三池監督「自分から提案したのではなく、3Dのカメラもあるし専門のスタッフも準備できるから、次の作品は3Dで撮ってみないかと提案されたんです。ちょうどそのタイミングで『一命』の企画があって、作品内容と最新映像技術というアンバランスさがすてきだなと思って撮影を決めました。この作品をどうしても3Dで撮りたかったわけではなく、3Dカメラを普通に使う時代なんだなぁと思っただけ。今は『一命』をなぜ3Dで撮ったのか? と聞かれるけど、あと10年もすれば逆に『なぜ2Dで撮るのか?』と問われるでしょう。それぐらい3Dが当たり前になっていくと思います」
2D作品との違いを意識した演出はほとんどなく、労力も思ったほどはかからなかったそうだが、3Dカメラを使用したことが思わぬ効果をもたらした。
三池監督「初めての試みだったので、時間がものすごく掛かるんじゃないかという点は心配でした。今までも新しい技術を取り入れる度に、現場では必ず混乱が起こったので。でも、今回はカメラマンの北(信康)さんが、静かだけれどスピード感のある面白い撮影をしてくれました。実際、2D撮影の1.2倍程度の時間で撮り終えたかな。カット数を整理したことも大きかったですね。つまり、余分なものをそぎ落としたんです。貧しい浪人たちの生き様を描いた作品としてはちょうど良いソリッドなものに仕上がりました。変な話だけど、内容的には3D向きじゃないこの作品を、無駄なく3Dで撮ろうと努力したことで、より3D向きじゃなくなった(笑)。でも、結果的に映画の内容としてものすごく良くなったんです。2Dで撮っていたら違う雰囲気の作品になっていたでしょう」……続きを読む