"何もしない"ということは地獄だった

菊池:そうですね。でも雑誌を1ページ読むのに1日かかってた頃はモチベーションもなくてただの暇つぶしでしたよ。ただ、仕事を辞めてからの1年間、"何もしない"ということがあれほど苦しいものだとは思わなくて……。よく1年もその生活が続いたものだと思います。それだけは自分を褒めてあげたい。そのときのことを思えば単語を覚えることなんて天国でしたね」

――そこでなぜ他のものではなく、英語をやろうと思ったんですか?

菊池:英語が自分にとって、最後に人から褒められた記憶だったからかな。学生時代に英語とロシア語の講義を受けていて、けっこう読むのは正確だったんですよ。まあ語学しかできなかったんですけど……

――もともと得意教科だったんですね

モチベーションは「ざまあみろ!」でも維持できる

――菊池さんのモチベーション維持のやり方についてもう少し伺えますか?

菊池:ルパート・マードックってご存知ですか?

――……? は、はい、名前くらいは……

菊池:彼は世界のメディア王なんですけど、イギリスで誘拐された少女の携帯電話を盗聴して、そのせいで遺族がものすごく苦しんだんです。で、そこから他の悪質な盗聴がバレて彼の傘下の『ニューズ・オブ・ザ・ワールド』という大衆紙が廃刊になったんです。僕はルパート・マードックが死ぬほど嫌いなので、その記事を読んでいる最中、「ざまあみやがれ」って思ってたんですよ

――そういう気持ちも、英文を読み進めようとする原動力になりそうですね

菊池:ところがニュース記事を読んでいる途中で話がややこしくなり、意味が取れなくなってきたんです。「betray」という単語がキーになっていたんですが、当初思っていた「裏切る」という意味ではなく、「知らないうちにばらしてしまう」という意味だったんですね。それに気づくまでに5分くらいずっと悩んでいて、頭がそういうモードに切り替わるとマードックが嫌いってことはどこかにいっちゃうんです

――脳が「ざあみやがれモード」から「問題を解くモード」になったわけですね

菊池:betrayの意味がわかった瞬間、「これで解けた!」っていうのが非常に気持ちよかった。英語を解き明かす面白さと、記事の内容自体の面白さ。その両方がモチベーションになっていました

――なるほど

菊池:もしちょっと飽きてきたなら、何でもいいので好きなジャンルについて書かれた英語の文章を読むんです。それを材料に文法の勉強をすると本当に頭に入るんですよね