「第2回東京国際科学フェスティバル - 国際科学映像祭『ディスカバリーチャンネル 科学映像シンポジウム~世界に通用するドキュメンタリーとは~』」が23日に開催され、エミー賞受賞のディスカバリーチャンネル看板番組プロデューサー・ポール・ガセク氏らが登壇。科学と映像技術の融合が生むエンターテインメント性について語り、「科学」と「映像」の分野を超えた交流を盛り上げた。

今回が初来日のガセク氏。「日本のテクノロジーやエンジニアリングは素晴らしい。今日は、この場でサイエンスコミュニケーションに参加できてとても光栄です」

エンターテインメントとしての科学ドキュメンタリー

ディスカバリーチャンネルのエグゼクティブ・プロデューサー兼シニア・サイエンス・エディターのポール・ガセク氏。BBCおよびNBCとの共同制作番組『Global Warning: What You Need To Know with Tom Brokaw』でエミー賞ドキュメンタリー部門受賞

科学と映像をつなぐことで、新しい文化の創世を目指す同シンポジウムは、科学番組専門チャンネルであるディスカバリーチャンネル主催、サイエンス映像学会の共催で実施。3部構成で、第1部はガセク氏による講演「科学ドキュメンタリーをエンターテイメントにするには」、第2部では、日本のドキュメンタリー制作者たちとガセク氏によるパネルディスカッション「世界に通用するドキュメンタリー番組とは」、第3部では、ガセク氏がプロデューサーを務めた最新作『解明・宇宙の仕組み:恒星』の上映が行われた。

第1部で、自身の科学ドキュメンタリー制作における考えやノウハウを明かしたガセク氏。『今、映像で蘇る人類最古の女性アルディ』や、『解明・宇宙の仕組み』シリーズなど、数々の人気科学ドキュメンタリーを生み出しているが、意外なことに、子供のころは「科学は苦手で、大嫌いでした」という。「高校の生物の授業の時に、科学の裏側には色々な物語があることに気づき、それからはサイエンスを面白いと感じるようになりました」と話し、「科学的な事実を説明するだけでは、視聴者は退屈してしまう。ストーリーテリング――発見や発展のプロセス、科学者の情熱といった、科学の持つ"物語"を面白く語っていくのが、エンターテインメントとしてのキモなんです」と、科学で視聴者を楽しませるコツを語った。

また、「視聴者は専門家ではなく一般人であることを理解しなければなりません。私たちは、いつも"シンプルな言葉で語る"ことを心がけています」と、科学を分かりやすく伝えることの重要性を強調。そこで、大きな効果を持つのが「CG等を駆使した映像」と述べ、「アーティストが、現象や未知のことのイメージをとらえ、インパクトのある映像を作るんです。言葉の説明だけでなく、映像によって語らせる」と、グラフィック映像の雄弁さについて語った。講演後のパネルセッションでは、「私たちは、予算が決まったとき、まず考えるのが"CGIにどこまで予算が割けるか"なんです」とも。

『解明・宇宙の仕組み:恒星』では、恒星の誕生~消滅や、恒星の一生をひも解くカギとなる核融合などを、CG映像をふんだんに用いて語る

さらにガセク氏は、「サイエンスというのは、まず疑問から始まって、答えを探す旅に出ること」と述べ、「番組では、答えまでの旅の過程や、様々なストーリーを盛り込んでいきます。途中、色々なトピックスが入ってくるけれど、最初の疑問がブレたり、忘れてしまうような構成になってはいけない」と、番組構成にも言及。「答えを求めるのが科学ですが、すぐに答えを出してしまっても面白くありません」とも話し、「謎が深まって行ったり、ミステリー仕立てにするなど、構成自体にも"物語性"を持たせることが、視聴者の好奇心を刺激することに繋がります」と、ディスカバリーチャンネルにおける番組作りのノウハウを明かした。

世界に通用するドキュメンタリー番組を作るには?

第2部のパネルディスカッションでは、サイエンス映像学会理事で元ディスカバリー・ジャパン会長の沼田篤良氏、『生きもの地球紀行』などの自然番組の制作に携わった、NHKエグゼクティブ・プロデューサーの村田真一氏、『NEWS23 クロス』の編集長・特集キャスターを務めている荻原豊氏、テレビマンユニオン・プロデューサーの高橋才也氏が、ガセク氏とともに、世界へ向けてのこれからの日本の科学ドキュメンタリーの方向性について議論した。

ガセク氏を交えて、日本のドキュメンタリー制作者たちが番組制作のあり方を議論

ディスカッションでは、日本は世界でもトップレベルの撮影・編集技術を持っている一方で、テレビ局に科学専門部門が無かったり、科学番組を制作する体制が整っていないことなどが課題として挙げられた。また、日本の番組制作の特徴として、高橋氏からは「私たちは制作予算が決まると、どのくらいタレントに投入できるかを考えてしまう」という意見も。これに対し、ガセク氏は「私たちも、番組にタレントを使うことはあります。ただ、私たちが起用するのは、きちんと内容を理解していて、情報をエキサイティングに伝えることのできる、"サイエンスコミュニケ―ター"としての能力を持ったタレント。ただのタレントを使うのでは意味がありません」と、科学番組のパイオニアとしてのスタンスを語った。また、沼田氏もたとえば、『アニマルプラネット』に、ポピュラー性だけを狙ったお笑いタレントが出てきて解説したりはしないでほしいですね」とガセク氏の意見に同意し、「"面白い"には、"interesting(興味深い)"と"amusing(楽しい)"があります。ケーブルテレビなどの有料チャンネルで目指す科学ドキュメンタリーは、"interestingだがらこそamusing"であることを守りたい」と語った。

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