全世界で10億ドルを超える脅威の興行収益を上げた『ダークナイト』(2008年)でアカデミー賞8部門にノミネートを果たし、映画作家として高く評価されているクリストファー・ノーラン。彼が長年、思い巡らせていたアイデアをもとに、自らオリジナル脚本を執筆し、日米英仏の国際色豊かなキャストを起用。約2億ドルもの巨額を制作費に投じ、登場人物が極めて個人的かつ無限の世界である人間の潜在意識に突入していく姿を描いた次世代アクション・エンターテインメント超大作、それが『インセプション』だ。タイトルの"インセプション"は、英語で"物事の始まり"を意味するが、作品の詳細は監督の意向で非公表のままだった。今年、ハリウッド映画最大級のシークレット・プロジェクトがついにベールを脱ぐ。

『インセプション』

クリストファー・ノーランが仕掛ける、『インセプション』とは?

ドム・コブ(レオナルド・ディカプリオ)は、人がもっとも無防備になる状態、夢を見ている間に潜在意識の奥深くまで潜り込み、貴重なアイデアを盗み出す、危険な犯罪分野"エクストラクト"において最高の技術を持つスペシャリスト。類まれなる才能ゆえ、彼は企業スパイが暗躍する世界で引っ張りだことなり、高額な報酬を得るが、引き換えに命を狙われ、最愛の家族と過ごす安息の日々を失ってしまう。そんな彼に対し、富豪の大物実業家サイトー(渡辺謙)はある仕事と引き換えに、これまでの犯罪歴を消し去ると申し出る。命じられたのは、対象にアイデアを植え付ける、"インセプション"という非常に困難な任務。サイトーのミッションを最後の仕事と決めたコブは、人生を取り戻す絶好のチャンスを生かすべく、特殊技能を持つスペシャリストたちを選抜してチームを作り、完全犯罪に挑んでいく。

『JUNO/ジュノ』のエレン・ペイジ(左)も出演

この荒唐無稽とも思えるストーリーに説得力を与えているのは、登場人物たちの深い心理描写。最愛の妻に関する大きな秘密を抱えているコブ。ネタばれになってしまうので、ここではすべてを語らないが、次第と明かされていく真実を目の当たりにする観客は、大きな衝撃と胸を締め付けられるような感動を覚えずにはいられない。また、当初は単なるビジネス・パートナーだったコブと雇い主であるサイトー、そして"インセプション"チームのメンバーたちが、お互いに対して抱く信頼や敬意、ある種の友情も物語を語る上で重要なファクター。本作は、サスペンスフルなSFアクションだけではなく、家族愛や男の友情といった幅広い内容が盛り込まれているのだ。

ひとときも飽きさせない、脅威の映像マジック!

何でもありの夢の世界を実現した未体験の映像も本作の大きな見どころ。キャストとスタッフは、壮大なスケールの物語をイメージ通りに映像化するため、2009年6月から東京で撮影をスタート。ほか、モロッコのタンジール、カナダのカルガリー、パリ、ロサンゼルスなど、6ヶ国、4つの大陸で撮影を敢行した。劇中には、パリの通りを折り曲げるシーン、ロサンゼルスの道路の真ん中に列車が走るシーン、ホテルのバー全体が傾くシーン、キャストが縦横無尽に動きまわる無重力のアクション・シーンなど、"一体どうやって作り出したのか?"と思わずにはいられない想像を絶する迫力のシーンが次々と登場。映像革命と謳われた映画『マトリックス』(1999年)以来の衝撃、いや、畳み掛けるシーンの連続はそれ以上のインパクト。アトラクション感覚を味わえる映像がめじろ押しだ。

見どころの一つである無重力のアクション・シーン

『インセプション』を彩る、国際色豊かなキャストたち

ストーリー、映像の素晴らしさに加え、演じるキャストたちの演技も超一流なのが本作の素晴らしいところ。監督のファースト・チョイスで、念願の初顔合わせとなったのは、レオナルド・ディカプリオ。愛のためにリスクを背負って最後の大仕事に挑むコブの心情を豊かに表現している。渡辺謙は、監督が彼のために用意した役サイトーをカリスマ性たっぷりに演じ、作品に深みを加えた。コブの妻モル役の『エディット・ピアフ~愛の讃歌~』(2007年)のマリオン・コティヤールと、コブのチームで彼を献身的に支えるアリアドネ役の『JUNO/ジュノ』(2007年)のエレン・ペイジは、寄しくも2008年に発表された第80回アカデミー賞で主演女優賞にノミネートされた、戦友同士。この時はマリオンに軍配が上がったが今回は同じ土俵で、女優のプライドを賭けたリベンジ・マッチともいえる2人の演技合戦が繰り広げられる。

渡辺謙もしっかりと存在感を発揮している

そしてとりわけ、女性ファンにアピールするのは、なんといってもアーサー役のジョゼフ・ゴードン=レヴィットだろう。わずか750万ドルの制作費で6100万ドルもの興行収益を挙げた『(500)日のサマー』(2009年)で批評家の絶賛を浴び、ゴールデングローブ賞にノミネートされた遅咲きの個性派俳優が、超大作でまさかの大フューチャー。草食男子がハマり役の彼だが、本作では体を鍛えてスタントにも挑戦。ワイヤー・アクションを含む、重力に逆らう異色の格闘シーンの数々を見事にこなしている。また、困難なミッションの遂行といった緊迫感あふれる状況下で、ライバル関係にあるイームス役のトム・ハーディーとのコミカルな掛け合いやアリアドネとのどさくさにまぎれたキス・シーンは、観客にとって楽しい息抜き。これらのシーンは、彼の俳優としての魅力抜きには成立しなかったはずだ。当初、アーサー役の候補には『スパイダーマン』シリーズでハリーを演じたジェームズ・フランコの名が挙がっていたそうだが、意外性のあるレヴィットに決めて正解。本作でファンを増やすのは間違いないだろう。

未体験の映像と奥深いストーリー、名優たちの卓越した演技が合わさることで、全く新しい世界観を生み出した本作。そのすべては、ぜひ劇場のスクリーンで堪能して欲しい。

『インセプション』、2010年7月23日(金)より丸の内ピカデリーほか全国にてロードショー。

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