クライアントの信頼を勝ち取る

――地政学メモはコミュニケーションツールとしても使えるそうですが

コンサルタントはまずクライアントに信頼してもらう必要があるので、メモを一生懸命とる姿を見せるだけでもコミュニケーションの円滑化を助けます。反対に手馴れた感じで書くと、クライアントは「この人は自分の仕事に自信を持っているんだな」と感じてもらえるきっかけとなりえます。クライアント自身が問題に直面して混乱していたり、うまく話せなかったりする場合は、コンサルタントが冷静に話を聞く姿を見て安心してもらうのです。

ホワイトボードに書いてもいいのですが、大人数を相手にする場合以外は少し大げさな感じがするので、私は机に大きなノートを広げて地政学メモを書くようにしています。

コンサルタントは相手からいかに話を聞き出すかが勝負。私は「そうなんだよなー」「つらかったけどな……」といった相手の口調もそのままメモします。クライアントの感情や意向を見逃さないようにするのはもちろん、あとで見返したときにもその場の雰囲気を思い出せるようにするためです。

地政学メモの注意点

――一般のビジネスパーソンは、どんなシーンで地政学メモを使えるのでしょうか

営業マンが訪問先で地政学メモを使えば、顧客のニーズを的確にとらえたり、提案でわかりやすく説明したりできると思います。一方的に売り込むのではなく、コンサルティングの要素を取り入れてみると差別化が図れるのではないでしょうか。

それと、会議にも地政学メモを活用してほしいですね。ただし注意してほしいポイントがあります。例えば、会議の議題が「会社の売り上げを上げるにはどうすればいいか」というとき。これを地政学メモのテーマにすえると解決は難しくなります。

――なぜでしょうか?

地政学メモのテーマにするべきは「課題」であって、売り上げが上がらないという「問題」ではないからです。

ですから、まず「なぜ売り上げが上がらないのか?」を考える必要があります。「売り上げが上がらない」のはあくまでも現象です。その原因をたどってみると、「こういう顧客層がほしいけれど、どうもずれている」「儲かる仕組みができていない」「競合他社に押されて存在感が失われている」など、いろいろあるはずです。その中から「一番の原因はこれだ」というものを突き止めて「課題」として掲げること。単なる問題ではなく「これからどうしたいか」をテーマにすえるということを知っておかなければいけません。

「これからどうしたいか」をテーマにする

もし「会社の存在感をつくりなおす」ことが先決だとわかったら、そこで初めて地政学メモのテーマに設定します。すると「待ち受け型から問題解決・プロデュース型への転換」そして「競合しない新しいビジネス環境を創出」というふうに、明るいビジョンに向けたアイデアや解決策が浮かびやすくなります。

――「課題」と「問題」を混同しているケースは多いかもしれませんね

よく、「お客様の笑顔のためにがんばります」とか「会社の売り上げに貢献したい」といったテーマを掲げてはみたものの、まるで行動する気が起きないということがありますよね。それは「~ねばならない」という考え方にとらわれていて、「何をしたらうまくいくか」「どうすれば楽しくなるか」という視点が抜け落ちているからです。

人は「その気になる要素」がないとなかなか行動に移せません。ですからビジネスシーンでも自分のやりたいことや好きなことを大事にしたほうがいいと思うんです。ロジックがしっかりしていることも大切ですが、前向きな感情がわいてくる要素を組み込んでみる。すると「問題」が「課題」に変わります。なんとか工夫して楽しく実現しようとする姿勢が大事ではないでしょうか。

リサーチも大事ですが、問題がわかっただけではどうしても暗くなってしまいます。その点「過去から未来へ」、あるいは「背景からビジョンへ」という軸がある地政学メモなら、「どうも視点が未来に向いていないな」と気付くことができる。人も説得しやすくなりますし、お互いに明るい気持ちにもなれます。

もちろん適切なテーマ発見するまでにはディスカッションや検討を重ねる必要があります。最初からメモを作り直すことになるかもしれません。では前のメモが無駄だったかというとそうではない。すべては実現にいたるまでのプロセスであって、一段階進めてラッキーだと思えばいいのです。

プロセスを楽しむ気持ちを持つ

――実現にいたるまでのプロセスも楽しんでしまえばいい、と

どうせなら人生は楽しんだほうがいいですよね(笑)私はつねづね、楽しく生きられるかどうかは、その人がどんな思考をするかにかかっていると思うんです。事実、私の著書を読んだりセミナーを受けたりするうちにうつ病が治ったという人もいます。人は「自分がやりたいことを実現させるにはどうすればいいか」と考え始めると、力を発揮しやすくなるのだと私は考えています。

「原因がわかれば解決できる」という発想ではなく、「こうなりたい」というイメージやビジョンに向かって進んでいくことも大事ではないでしょうか。実現までのプロセスには、周りの人が反応してくれたり、評価してくれたりすることもあります。そして自分も明るくなっていく。そのために地政学メモを使ってもらえたら最高ですね。


次回は、「手書きはなぜいいのか?」についてうかがいます。

『不況知らずのコンサルが実践している 時間をかけない! 情報整理術』



〈どうしたらムダな情報整理から解放されるか?〉
その答えが、この本の中にあります。

鍵は、「情報整理は、成果をだすプロセスの中でやる」です。
いったい私たちは何のために情報整理をやるのでしょうか?
「それは、自分を生かして人の役に立つ新しい提案を生みだすため」と考えると、とてもシンプルに答えが出てきます。
ムダな情報を排除し、自分の思考を整理し、いい提案を生みだして人を動かす。
一人でも多くの方が、これを実現して、日々を楽しく、そして、気持ちよく未来をひらいていただければ、と願っています。

内容

「自分自身をその気にさせ、人を動かす情報は、感情フィルターをとおして整理せよ」「情報を2冊のノートに」「語尾をメモしろ」「脱フレームワーク」「なぜ三角形を30度傾かせるか」など。

INTERVIEWER PROFILE : 早川洋平 / KIQTAS(キクタス)
中国新聞社記者、全国紙系編集プロダクションのライターを経て、2008年著者インタビューポッドキャスト「人生を変える 一冊」をスタート。配信後2カ月でiTunes store podcastビジネスランキングで1位を獲得、月間20万DLを記録する。現在は、企業や教育機関などにポッドキャストを活用したマーケティングサービスを提供。「野宮真貴の新宿二丁目ハー メルン」「石原明の経営のヒント+」など、プロデュース番組多数。
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