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食べものの影響が、体だけではなく、精神面にも及ぶということが最近はよく言われていて、テレビや雑誌の特集などでもしばしば取り上げられている。そのポイントを管理栄養士の大柳珠美氏にまとめてもらった。
1."こころ"の状態も、食べたもの(栄養素)に左右される
うれしい、悲しい、落ち込むなどの"こころ"の浮き沈みは、脳の栄養状態によって大きく左右される。これは、脳内物質(神経伝達物質)が、興奮系、抑制系、調和系の3つのバランスをとっているためだ。脳内物質のバランスが保たれていると、気分は落ち着き、身体の調子もいいが、バランスが崩れると、悲しみに沈む、イライラが高じるなどの状態になる。
感情の状態は、脳内物質の状態をそのまま反映しているといわれている。この神経伝達物質は、主にたんぱく質からつくられている。脳に送られたアミノ酸は、さまざまな反応を経て神経伝達物質に合成される。たんぱく質不足は脳の元気不足になりかねない。たんぱく質は、肉、魚介類、卵、大豆・大豆製品に豊富に含まれる。
2.たんぱく質の食べ方
ダイエット中だからといって肉類や油脂を控えたり、コレステロールを含むから卵を食べなかったり、野菜偏重や逆に甘い物過多など偏った食事では、神経伝達物質が十分に作られず、バランスを保つこともできない。たんぱく質は神経伝達物質だけではなく、私たちの体のすべてを作る基本の成分であることを再認識したい。また、脳の複雑な細胞の形を保ち、神経の伝達をすばやく行うときに不可欠な栄養素がコレステロールであることも知っておきたい。赤身肉、魚介類、卵など動物性のたんぱく質は、揚げ物などでなく、焼く、煮る、刺身などの調理法で、添加物を少なく、しっかり確保していくことが肝心だ。
3.ビタミンB群は足りているか
神経伝達物質の生合成に不可欠な栄養素はビタミンB群。例えば、気分を落ち着けて睡眠に入っていくために欠かせない神経伝達物質・セロトニンが、たんぱく質(アミノ酸)から作られていく過程ではビタミンB6が必須となる。ビタミンB群の一種・ナイアシンも、たんぱく質から神経伝達物質がつくられる過程で欠かせない。ビタミンB群の特徴は、チームプレーではたらくこと。ビタミンB1、B2などあらゆるビタミンB群が代謝には不可欠となる。ビタミンというと野菜に多いというイメージがあるが、それは間違い。ビタミンB群は、主に、レバー、牛、豚、鶏、ラムの赤身肉、ぶりやさば、まぐろ、かつおなど、肉や魚に多く含まれている。
4."カル&マグ"コンビは脳の元気に不可欠
神経細胞物質が細胞から放出されるときに不可欠な栄養素がカルシウムだ。細胞膜にはカルシウムイオン・チャンネルという"扉"があり、カルシウムによって神経伝達物質の放出に向けた回路が動き出す。また、カルシウムは神経の興奮を抑え、精神を安定させるはたらきもある。このカルシウムのはたらきに密接に関わっているのがマグネシウム。
カルシウムとマグネシウムはブラザー(兄弟)イオンと言われるほどで、カルシウムが十分にはたらくためにはマグネシウムが欠かせない。カル&マグはお互いが絶妙なサポート体制ではたらいているミネラルといえる。カルシウムが豊富だからといって、カルシウムのみを豊富に含む牛乳だけを飲んでいるとマグネシウム不足を招き、かえってミネラルバランスを崩しやすいので要注意。カル&マグは、煮干し、干しえびなどの魚介類、豆腐、納豆などの大豆製品、干しひじき、乾燥わかめなどの海草類、ごま、アーモンドなどの種実類に含まれる。
5.糖質と加工食品の過剰摂取は赤信号!
忙しい現代人にとって、手軽に安価に満腹感、満足感を満たせるコンビニのおにぎりやサンドイッチ、カップラーメン、スナック菓子や清涼飲料水などの食品の特徴は、糖質が多く、脳に必須の栄養素であるたんぱく質、ビタミン、ミネラルが少ないということだ。糖質は血糖値を上げる唯一の栄養素であり、インスリンというホルモンを放出させてしまう。
糖質だけを長い間取り続けてしまうと、血糖値の乱高下や自律神経のバランスの乱れなどを引き起こしやすく、興奮や落ち込みなど感情のコントロールがうまくいかないなど、こころの状態に影響するので注意しよう。脳の栄養はブドウ糖だけなどというフレーズも見聞きするが、これも大きな間違い。脳はブドウ糖を優先的にエネルギーとして使うが、脂肪の代謝産物・ケトン体をどんどんエネルギーとして利用する。糖質は、大豆製品や野菜、海藻などにも含まれ、それらからも摂取できることも合わせて知っておきたい。
参考文献 : 「「うつ」は食べ物が原因だった!」溝口徹(青春出版社)
PROFILE : 大柳珠美(おおやなぎたまみ)
管理栄養士。NPO法人糖質制限食ネット・リボーン理事。明星大学人文学部卒業。二葉栄養専門学校卒業。都内の3つのクリニックで、糖尿病、機能性低血糖症、脂質代謝異常、肥満等、生活習慣病の治療、予防のための食事指導を担当。講演会、レシピ提案、監修等を通し、広く情報を発信。著書に『糖尿病のための糖質オフごちそうごはん』(アスペクト社)をはじめ、『糖質オフのおいしいお菓子とパン』(アスペクト社)、『満腹ダイエット』(プレジデント社)の監修等がある。
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