2009年10月15日(木)よりフジテレビ"ノイタミナ"ほかにて放送開始となるTVアニメ『空中ブランコ』。かつて同じく"ノイタミナ"で放送され話題を呼んだ『モノノ怪』の中村健治監督が奥田英朗氏の直木賞受賞作に挑むということで注目を集めているが、キャスティングの面で、主人公の伊良部一郎にWキャストを配するほか、豪華声優陣が出演するということでも期待の大きい作品となっている。

TVアニメ『空中ブランコ』は2009年10月15日より放送開始

監督&キャスト陣が語るTVアニメ『空中ブランコ』

(前列左から)三ツ矢雄二、中村監督、朴ロ美、(後列左から)三木眞一郎、櫻井孝宏、入野自由

そこで今回は、中村健治監督をはじめ、主人公・伊良部一郎を演じるWキャストの三ツ矢雄二と朴ロ美(※ロは王へんに路、以下同じ)、さらに各話ごとのメインとなる患者役で出演する、田口哲也役の櫻井孝宏、星山純一役の三木眞一郎、津田雄太役の入野自由の6人に、TVアニメ『空中ブランコ』の作品やキャラクターの魅力についてを語ってもらった。

――中村監督にお伺いします。まずは、TVアニメ『空中ブランコ』についての簡単な説明をお願いします

中村監督「"ノイタミナ"という枠はもともと、ドラマでいうところの"月9"のようなアニメを深夜でやろうという企画だと聞いていたので、今回はそのあたりをすごく重視しています。"月9"というと、華やかな役者さんたちが出演して、その人たちで面白いドラマを作るのですが、そういったものをどうすればアニメで実現できるかということを考えながら、頑張って作っています」

――内容的にはどういった感じになりますか?

中村監督「毎話数、中心になるサブキャラクターの方を決めまして、その役者さんをもとにキャラクターデザインを起こしています。役者さんたちが、ときどき実写的に画面に出たり、アニメになったり、そして実写になったり、アニメになったり……。こんな感じで、ちょっとバラエティ感があって、アニメなんだけど何かへんてこりんな、チャンネルをザッピングしているときに、『何だ?』って止まるような、そういうものになったらいいなと思って作っています。一応、題材として人間の精神的なところを扱っていて、意外とデリケートなのですが、暗くならず、明るく、肩の力を抜いて観られるような、ゆるいけどちょっと真面目な、そんな作品を目指しています」

――キャストの方々にお伺いします。ご自身の演じる役柄についてや演じるうえでの意気込みなどをお願いします

三ツ矢雄二「"大"伊良部のときはぬいぐるみで、"中"になると美青年になるのですが、第一話を録ったかぎりでは、ぬいぐるみはまったく違和感がなく、生き生きとできたのですが、美青年のほうがどうもしっくりこなくて……。よくよく考えてみると、最近人間の役を演じていなかったなあと(笑)。朴ちゃんが演じている"小"伊良部を拡大解釈し、朴ちゃんから盗ませてもらいながら演じているのですが、ちょっと"中"伊良部では苦労していますね。お話をいただいて、原作を読んだときに、僕が昔やっていた『さすがの猿飛』の猿飛肉丸君のイメージが最初に頭に浮かんだんですね。肉丸君はちょっと太っていて、天真爛漫だけど、魔子ちゃんを守るときはすごい二枚目になる……、そういうイメージが自分の中で浮かんだときに、『あ、できるかも』という感じがしました。診療内科や精神科で、うつ病などの現代病を題材にしているのですが、伊良部という人はすごく無神経に見えたり、天真爛漫に見えたり、すごく自由に生きているように見えたりする。そしてその生き方そのものが、心の病を持っている人たちを癒してゆくというか、その人たちに方向性を教えていく。意図的に何かをするのではなく、本当に思うがままに生きているのですが、ひょっとすると、裏を返せば、伊良部はものすごく物事を深く考えているのかもしれない。そういったさじ加減が非常に難しく、きっとそういう部分を大中小で演じなければいけないのかなと思っています。僕は作品がDVDになった場合、1話と最終話をまず見比べてみるんですよ。すると、どれだけ違っているかがよくわかるのですが、本当にアニメーションの場合、最初は自分と画像がなかなかしっくりこなくて、演じていくうちどんどんとしっくりくるようになるんですよ。以前、作り手の方に、最初は自分のイメージで絵を描いていても、話か進むに連れて、そのキャラクターの声が声優さんの声で聴こえてくるようになり、そうなると筆が進んで、物語が弾むようになるんだよって言われたことがあるんですよ。なので、早く自分のキャラクターとして、今まで一度もやったことがない、先ほどさすがの猿飛と似ているといいましたが、まったくやったことがない一つのキャラクターとして、伊良部一郎というキャラクターを朴ちゃんと一緒に作り上げていければいいなと思っております」

朴ロ美「『空中ブランコ』という作品がアニメーションとしてどういう作品になるのかなと思い、一話の台本をドキドキしながら開いたところ、いつもいただいている台本とはまったく違うもので、誰の視点で、どのように読んでいったらいいのかがまったくわからなかったんですよ。こんな作品は初めてで、その後、絵コンテをもらってようやくわかった感じがしたのですが、はたして一話の収録はどうなるものかと、ものすごくドキドキしながら、でも期待感に胸あふれる感じで臨ませていただきました。中村監督と仕事をするのは初めてなのですが、監督の最初の説明はとても抽象的だったんですけど、的を射ていて、監督自身が伊良部なんじゃないかなって思うぐらい、すごく素敵な印象を持ち、この作品にもものすごい魅力を感じました。とにかく、三ツ矢さんと共同作業をさせていただくということで、天にも昇るような気持ちなのですが、とにかくひとつひとつを丁寧にこなしていきたいと思っています」

三木眞一郎「僕が声を担当させていただくのは星山という恋愛小説家で、第一話から出ているのですが、それにあわせてメインになる話数のシナリオも事前に読ませていただけたのがありがたかったですし、そういった、作品を大事に作っていこうと思っているスタッフの方たちの気配りやお心遣いに、僕自身も気合が入りました。中村監督の以前の作品をテレビで拝見したときに、あまりにすごくて衝撃を受け、そのときに弊社の櫻井君が主人公をやっていたのですが、『いいな』って純粋に思ってしまいました。そのように感じた作品をお作りになった監督の作品に出させていただけるのは本当にうれしいですし、幸せなことなので、僕にできることがどれだけあるのかはわかりませんが、少しでも観ていただく方たちに喜んでいただけるよう頑張っていきたいと思っていますので、よろしくお願いします」

桜井孝宏「(『モノノ怪』に)引き続き、中村監督の作品に出させていただいてすごく光栄です。中村監督は、本当に思いもよらない作り方や表現の仕方をなさるので、はたして今回はどういった作品になるのかなと思っていたところ、僕は田口徹也という、勃ちっぱなしの役で(笑)。それ以上の説明がないので、とにかくご覧になってくださいというところなのですが、映像は本当に新しいもので、観ている方は面食らいながらも引き込まれてしまうような、魅力たっぷりの作品になると思います。出演されるキャストの皆さんもすごく個性的で、すばらしい作品をそんな皆さんと一緒に作れるということを本当にうれしく思っています。僕は今日これからアフレコなので、いったいどういうことになってしまうのか、録った後に感想が変わっているかもしれませんが(笑)、とにかく自分がいただいた役を一所懸命、楽しく表現できたらいいなと思っています」

入野自由「『空中ブランコ』という作品は、すでに読んで知っている作品だったので、出演が決まったときは単純に『やったー、うれしい』という感じだったのですが、一緒に出演されるキャストの方々を拝見したとき、その中に自分が入っていることにちょっと動揺してしまいました(笑)。こんなすごいキャストの方々とのアフレコはどのようになるのか、期待と緊張の両方で心臓がドキドキしながらも、とても楽しみにしています」

――監督にお伺いします。主人公の伊良部を3パターンにして描いている理由を教えてください

中村監督「まず最初に、小さい子が浮かんだんですよ、なんとなく。それで、大きい子がその後に出てきて……。それで、何か足りないなと思っていたところに中ぐらいの子が出てきた、みたいな感じです。最初はなぜこんなことを思いついたのかなって思っていたのですが、よくよく考えてみると、伊良部一郎というキャラクターは、原作では、中年で、太っていて、不潔で、みたいな感じになっていまして、アニメーションがあまり得意ではないジャンルのキャラクターなんですよ(笑)。でも内面は非常に子どもで、天真爛漫。そういうところから形になったのが小さい子なのかなと思っています。でも、心の形と実体という対比だとわかりやすすぎて、なにか伊良部を説明しきれていない気がしたんですよ。そこに"中"が入って三者三様になることで、はじめてあの一人を表現できるのではないかなと思っています」

――それでは、3パターンのキャラクターに対して、キャストを2人にした理由はありますか?

中村監督「すごくリアルな話をすると、朴さんが最初に決まり、その後に三ツ矢さんにやっていただけることになって、じゃあ"中"はどうするという話になったとき、なんとなく三ツ矢さんに二役をやっていただこうということになったんですよ。実は小さい子だけテンションがかなり辛口な感じなので、そこでコントラストをつけていただければ、三人でなく、お二人でも十分すぎるのではないかということで、こういう形になりました。今のところ、一話を収録してから一週間くらいが経ったところなのですが、もうバッチリですね。ブレもなく、もう走っていっちゃう! みたいな感じです。我々は、世界で最初に『空中ブランコ』の伊良部を観られるので、アフレコ現場では、普通にニコニコと楽しく観ています(笑)」

三ツ矢「原作を読んでいると、伊良部の姿かたちの描写もあるのですが、そこを抜いて読んでしまうと、伊良部って読む人によってすごく見方が変わるというか、いろいろな人物に見えてくると思います。普通は"汚い"とかいろいろと書かれていると、その姿に行動や表情をはめ込んでいくものなのですが、伊良部の純粋さによって、不潔であることや人に疎んじられることといったマイナスのイメージがどんどん無くなっていき、すごく無邪気さが出てきたりするんですよ。その裏ではひょっとして、人の心をコントロールすることに長けているのではないか、などということが行間から読み取れたりもするのですが、そういったことを意識しながら演じれば、3つの伊良部がひとつの人格になるのではないかと思っています。ただ、やはり演じる以上は変化が必要なのですが、変化をつけると人格が変わってしまうことにもなるので、そのあたりを統一的に、どの伊良部もやっぱり伊良部だよって思わせることが、これからの僕と朴ちゃんの課題だと思っています」

――最後に中村監督から、これから番組を観るファンの方へのメッセージをお願いします

中村監督「自分も今、作品ができあがっていくのをリアルタイムで見ていて、『わっ! こうなるんだ』みたいなことを思っている真っ最中なので、できるだけこの気持ちを、関わってくれているスタッフやキャストの方々と協力しながら、お茶の間の方々にお伝えして、『こんなアニメもあるんだな』ってちょっとでも思ってもらえるようなものが最終的にできあがるように頑張っていきますので、ぜひ一話から観ていただけるとうれしいです。よろしくお願いします」

――ありがとうございました



TVアニメ『空中ブランコ』は、2009年10月15日(木)よりフジテレビ"ノイタミナ"ほかにて放送開始予定。

■TVアニメ『空中ブランコ』おもなスタッフ
原作 / 奥田英朗 (「イン・ザ・プール」「空中ブランコ」「町長選挙」/ 文藝春秋刊)◆監督 / 中村健治 (『モノノ怪』『怪~ayakashi~化猫』)◆キャラクターデザイン・総作画監督 / 橋本敬史 (『モノノ怪』『鴉-KARAS-』)◆シリーズ構成 / 石川学◆脚本 / 石川学、村山功、田口智子◆美術デザイン / 常盤庄司◆色彩設計 / 永井留美子◆CG監督 / 森田信廣◆撮影監督 / 山田和宏◆音響監督 / 長崎行男◆音楽 / 森英治◆演出協力 / 地岡公俊◆主題歌 / 電気グルーヴ◆制作 / 東映アニメーション◆放送局 / フジテレビ ほか

■TVアニメ『空中ブランコ』おもなキャスト
伊良部一郎 / 三ツ矢雄二、朴ロ美◆山下公平 / 森川智之◆田口哲也 / 櫻井孝宏◆星山純一 / 三木眞一郎◆津田雄太 / 入野自由
(C)空中ブランコ製作委員会