16日午前10時過ぎ。東京・赤坂のアーク森ビル屋上のヘリポートに、白地にオレンジのリボンが巻かれたデザインのユーロコプター製EC135が着陸した。この日は都心と成田国際空港の間をヘリコプターとハイヤーで結ぶ、"都心唯一の民間ヘリコプターサービス"「成田エアラインコネクションサービス」の初日。その乗客第一号を乗せて報道陣が待ち構えるアークヒルズヘリポートに到着したのだ。

4人乗りヘリから降りてきたのは1人。外資系化粧品会社のジェネラルマネジャーであるドラ・チョン氏だ。ビジネスのために何度も来日している彼女は、「非常に快適でラグジュアリーな時間だった。高速バスはいつも渋滞に遭い困ったことが多かったが、このヘリコプターならば、タクシーを利用するのとあまり変らない額で、スピーディに移動できる。モナコとニースの間をヘリコプターで移動するが、料金はこちらのほうがずっと安い」と満足している様子。

アークヒルズヘリポートに着陸しようとする成田エアラインコネクションサービスのユーロコプター製EC135

成田エアラインコネクションサービスは、森ビルの子会社である森ビルシティエアサービスの事業(ヘリポートの運営およびヘリコプターチャーターによる旅行業)のひとつ。都心と成田国際空港の間を少しでも早く移動したいという国内外の企業経営者やビジネスユーザーなどをターゲットとし、彼らの自宅・会社・ホテル、アークヒルズヘリポート(赤坂)、成田(佐倉)へリポート、成田国際空港の間をハイヤーとヘリコプターでスピーディに結ぼうというサービスだ。アークヒルズヘリポート―成田国際空港間の所要時間はヘリ15分+ハイヤー15分の30分。今回、同サービスとの提携を発表したグランド ハイアット東京まではさらにハイヤーで10分となる。料金はスタンダード機で1人片道3万8,000円、往復7万円だ(2009年12月末までのキャンペーン料金)。

乗客第一号のドラ・チョン氏が約15分の空の旅を終えてEC135から降りると、スタッフから歓迎の花束が渡された

さらにスタンダード機のほかに、インテリアをさらにラグジュアリー感たっぷりに仕立てたエルメス機がある。スタンダードが5席に対し、こちらは4席、シートは"エルメス気分"を存分に味わえる革張り仕様。本日披露されたヘリはエルメス機で、くるりとボディに巻かれた細いオレンジ色のリボンを思わせるデザインが見分けポイントのひとつだ。エルメス機は片道5万7,000円、往復10万5,000円となる(同)。

エルメス機では革張りシートを採用

このところ、成田国際空港アクセスの話題やニュースが頻繁に取り上げられているが、同社の磯井純充副社長は2010年春の成田国際空港の発着枠拡大に合わせた展開ではないと言い切る。

「東京の街づくりのための一環にすぎない。東京の街づくりを担う会社として、そこで働くビジネスマンや住民の声を聞いているうちに、『成田空港が遠くて不便だ』という声をよく耳にするようになった。特に、外国人が不便に感じている。これまで、"アジアの仕事"というと、ほとんど東京で完結できた。が、今は東京のほかにも毎週のようにどこかの海外に行かなければならない。このままでは、これまで東京にオフィスを構えていたユーザーたちも、香港やシンガポールなどへと拠点を移す可能性も高くなると危惧したからだ」。

成田エアラインコネクションサービスのサービスイメージとサービススケジュール

さらに、都心側の玄関口として選ばれたアークヒルズヘリポートについては「東京のビルの屋上には、ヘリポートらしきものはたくさんある。が、これらは災害時や緊急時に使用するためのもので、民間が使用できるためには航空法に基づく許認可を得なければならない。アークヒルズは20年前、もともとテレビ朝日が報道用として使用するにあたり、2年がかりで認可を得ていて、それを継承するかたちで今こうして使えるようになっている。都心では珍しい存在」と話していた。

また、成田空港側のヘリポートに佐倉が選ばれたのは、「当初は成田空港へ直接乗りつけることも考えていた。しかしヘリの離発着できるエリアが旅客機ターミナルと遠く離れているなど、効率性を考えて佐倉ヘリポートまで高速道路を利用してハイヤー輸送をしたほうがいいと判断した」(同氏)からだという。

つまり、ユーザーはハイヤー・ヘリコプター・ハイヤーとすばやく乗り継いで旅客機へ、または目的地へ着くことになる。例外も多く、例えばヘリコプターが悪天候などで飛行不可能の場合は、ハイヤーで通しで目的地まで運んでくれるということもあるようだ。

ヘリポートラウンジから都心を一望

MCASカウンター

我々もエグゼクティブになった気分で疑似搭乗体験をしてみよう。ハイヤー(または公共交通など)を利用してアーク森ビルに到着したユーザーは、1階のMCASカウンターで受付を済ませ、アテンダントに導かれながら37階ヘリポートラウンジへ案内される。ここでは高層階からの六本木方面の眺めを一望し、ドリンクサービスを受けながらひとときを過ごす。

ヘリポートラウンジ

屋上へと導かれる途中に、保安確認(セキュリティーチェック)を受け、いかにもビルの避難路という感じの階段を1フロア分上がり、さらに階段を上がっていくと、そこにヘリコプターが待機しているというわけだ(現在、階段昇降に代わるエレベーターを工事中とのこと)。

保安確認をクリアし階段を上がりヘリポートへ

"東京の付加価値"を生み出したい

さて、華やかにデビューしたかのようにみえる成田エアラインコネクションサービスだが、現実の"搭乗率"などについての今後の予想は厳しい見方だ。

「年間の利用顧客数は想定できないが、1日約90席が用意されている内、その半分の45席ぐらいが埋まればいい。その半分に達するのも少し時間がかかるだろう。スタンダード機の片道に1人搭乗したとしても、ペイできない。事業採算性はみえないが、まずは"東京の付加価値"として存在させたい」(同氏)。

ラグジュアリーなサービスで"東京の付加価値"を創出できるか? 今後が楽しみだ

今後、ラグジュアリーホテル・グランド ハイアット東京や全日空などと提携したサービスを展開していく予定だが、このほかにも可能性のある限りさまざまな需要を掘り起こしていきたいと同社は意気込んでいる。