日本で初めてのパンクロックコメディ

――そういう意味でも、ジミー役は田口トモロヲさんしか考えられないですね。(※田口トモロヲは伝説的パンクバンド、ばちかぶりのボーカルとして過激なステージを展開していた。また宮藤が脚本を担当したロック映画『アイデン&ティティ』では監督も務めている)

宮藤「そうですね。トモロヲさんしか思いつかなかった」

――『アイデン&ティティ』からの流れもあったのでしょうか? あの作品はロックビジネスに関する強いメッセージがあったように思うのですが。

宮藤「そうですね。あの作品の時からトモロヲさんの映画に対する凄い敬意を感じていました。だから今回の役は逆に頼みにくかった。セリフもほとんどない役ですし……(※田口トモロヲ演じるジミーは過去のライブの怪我の後遺症でほとんどしゃべる事ができない)」

――田口さんはこの映画をどう評価していましたか?

宮藤「トモロウさんは『この映画は日本で始めてのパンクロックコメディだ』といってくれて、それが凄い嬉しかったですね。パンクという言葉の後にコメディがつく事なんてないですから」

――完全に逆のベクトルですからね。

宮藤「パンクのライブで、もし笑ってたら怒られるじゃないですか。それがこの映画では、上手いこと成立したのかと思って嬉しかったですね」

少年メリケンサックの面々。佐藤浩市、田口トモロヲ、木村祐一、三宅弘城の4人が中年パンクロッカーを演じきった
(C)2009「少年メリケンサック」製作委員会

――宮藤さんの作品のファンには若い人が多いと思うのですが、ばちかぶりやウィラードといった日本のパンクを知らない世代にこういう作品を観せるに当たって、何か意識した部分とかあるのでしょうか?

宮藤「僕らは知らない事が嫌だったから、好きか嫌いかわからないままとりあえず何でも触れたと思うんです。知らないという事、情報に対して欲求が強かった。知らないと『恥ずかしい、悔しい』という気持ちもあった。でも、最近はインターネットもあるし簡単にわかるから、そういう欲求は低いかもしれないですね。興味ない事は『それ、知らない』で終わってしまう感じもあるし……。そういう人に親切にしてもしょうがないという割り切りはありました。根本的な話ですが、世の中で流行っている題材を映画にするのは当たり前じゃないですか、この作品はまったく流行っていない題材をあえて映画にしている。そもそも間違っている部分がある映画なので、あえて過剰に説明する必要はないと思いました」

――宮崎あおいさんが主演だったりするという部分は、パンクを知らない人にも導入としてわかりやすいですよね。

宮藤「パンクを知らないという登場人物の視点から物語を描けば、細かくパンクを説明する必要もない、という意図はありました。そもそも説明出来ないのがパンクだと思うので」

――本作では音楽もとにかく重要なんですが、ZAZEN BOYSの向井秀徳さんと銀杏BOYZの峯田和伸さん(※出演も)が楽曲を担当していますね。少年メリケンサックのパンクに限らず、ニューロマンティック風の曲やフォーク、アイドルソングなど、オリジナル曲がどれも直球で、楽しめました。田辺誠一さんが歌う『アンドロメダおまえ』とか……。

宮藤「僕の歌詞が先にあるんですが、こういう曲という前提で作詞した部分もあります。これを向井さんがピッタリの曲を書いてくれたんです。この映画の企画を東映さんでやれたのが、僕の中ではでかいです。東映のパンク映画に佐藤浩市さんも出てて、音楽は向井さんと峯田さん。何か、凄いじゃないですか。わかっている人だけで作りたくなかったんです」

――そんな『少年メリケンサック』をDVDで初めて観る方々にひとことお願いします。

宮藤「劇場で観ればよかったのにとは思いますけど、それいってもしょうがないですよね(笑)。でも、何で観なかったの? 観なかったのにDVD買うの? とは思いますけどね(笑)。DVDだとライブシーンだけ抜き出して楽しめるので、そういう楽しみ方も出来ると思います」

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