5月初旬にも、プロ向けという新しいタイプの証券市場がスタートする。市場名は「TOKYO AIM(トウキョウ エイム)」(AIM=Alternative Investment Market新型投資市場)。相場環境がまだ先行き不透明ななかでの船出となるが、新市場の仕組みと展望についてレポートする。

ロンドン証券取引所グループと提携して開設

TOKYO AIMは、2007年2月に東京証券取引所とLSE(ロンドン証券取引所グループ)が協力関係を結ぶことで合意。ロンドンに1995年創設された世界最大の成長企業向け市場、AIMの日本版を設立すべく準備が進められてきた。

早ければ連休明けにもスタートの予定だが、相場環境も不透明な今、なぜ、新市場がスタートするのだろう。

これについて、TOKYO AIM代表取締役社長の村木徹太郎氏は「特筆すべき点は、この市場がプロの投資家、いわゆる機関投資家中心(※)の売買に限定されていることです。その点では今までにない新しいタイプの市場が生まれるということになります」と解説する。実際、同様にプロ投資家が中心のLSEのAIMにおいても、上場企業は、設立後間もなく、売上や利益が小さいベンチャー企業から数千億円規模の企業まで多岐にわたり上場しており、今後成長見込みの可能性がある企業を対象にプロ投資家等がサポートしていこうという枠組みになっている。

日本だけでなく、海外からの上場にも広く門戸を開く

表1

第二の特徴としてあげられるのが国際化だ。現在の東京市場は、海外企業にとって上場ハードルが非常に高い。というのは、上場するにあたっての申請言語がすべて日本語でなければならないなど、上場認可のために資料作成に膨大な時間とコストがかかる。

その点、TOKYO AIMは、上場申請資料や情報開示上の言語は日本語だけでなく、英語でもOK。会計基準についても、日本基準以外に、国際会計基準、米国会計基準なども認められる。アジアを中心とする海外のベンチャー企業を受け入れる国際的市場としての期待も高いわけだ。

実際、雛形となるLSEのAIMは、上場企業の約5分の1が海外企業(表1参照)。LSEの国際化に大きな役割を担った経緯がある。世界第二位の規模を持ちながら、国際化から立ち遅れているといわれる東京証券取引所にも、新たな国際化の波を呼び起こせるかもしれない。

IPO減少傾向にも一石を投じる

上場審査機関に、指定アドバイザー制度を導入していることも大きな特徴。これはLSEのAIMの中核を担うNomad(Nominated Adviser)制度に準じた制度。上場企業は、取引所に上場審査申請をするのではなく、指定アドバイザーを決め、上場までの過程で助言・指導を受けていく。指定アドバイザーが事実上の審査をする形だ。本則市場における上場審査に比べれば、上場準備の期間を短縮することが可能になる。

指定アドバイザーは、証券会社、投資銀行、会計事務所などが想定されている。上場企業にとっては、二人三脚を組む上場パートナーになるとともに、上場後も、情報開示や規則遵守等のサポートを受ける。

このほかにも、既存市場(東証1・2部、マザーズ)とは違って四半期決算の必要がない(年2回でOK)、内部統制報告書提出の義務付けがない、など、資金調達はしたいが、既存市場への上場はハードルが高いという上場を検討している企業にとっては、魅力的な市場となっている(表2参照)。

表2

ライブドアショック以降、徐々に減少傾向にあった新規上場(IPO)数。IPO=錬金術、といった世間的なイメージと上場コストの高さなどで、最近、IPO自体が敬遠傾向にあった。TOKYO AIMの登場が、この流れに一石を投じるかもしれない。

既存市場にはない機能や仕組みが満載のTOKYO AIMだが、それでも、決して順風万帆な船出とはいかないだろう。これについて、村木氏は「市場環境の良し悪しを気にしていては、新市場など設立できない。東証としては、こうした環境下でのスタートはむしろ、チャンスだと思っている。市場が上昇基調になり、活況を呈してから、新市場の準備をしていたのでは遅すぎる。後手に回るよりは、準備万端で、次の市場サイクルに新しい投資環境を提供するほうが投資家にとってもメリットが大きい」と長い目で市場を育てる腹づもりを語っている。

市場が大きく成長すれば、TOKYO AIMファンドといった投資信託が生まれたり、TOKYO AIM指数ができたり、それに連動したETFが登場したりするなどの可能性も考えられ、いずれ一般投資家にとっても新しい投資対象になるかもしれない。

しばらくは、新市場の動向から目が離せない。

執筆者紹介 : 酒井富士子氏

経済ジャーナリスト。回遊舎代表取締役。
上智大学卒。日経ホーム出版社入社。
「日経ウーマン」「日経マネー」副編集長歴任後、リクルート入社。「あるじゃん」[赤すぐ」(赤ちゃんのためにすぐ使う本)副編集長を経て、2003年から現職。近著に「20代からはじめる お金が貯まる100の常識」(秀和システム発行)「FPになろう」「定年手続きダンドリスケジュール」(インデックスコミュニケーション)「編集長の情報術」(生活情報センター)。二児の母。