2月14日(20:00~21:30)にドラマW『兄帰る』がWOWOWで放送される。同作品のメガホンを取ったのが、WOWOW初登場となる巨匠の深町幸男。『夢千代日記』や『あ・うん』などドラマ史に残る傑作ドラマを手掛けた生きる伝説をクローズアップする。

ドラマW『兄帰る』

漫画誌『ビッグコミック』(小学館刊)で不定期に連載されていた近藤ようこの同名漫画が原作の『兄帰るは』。"人が人を許すこと"をテーマに、人間の心理を丁寧に描写している近藤の力作を、監督の深町と脚本を担当した筒井ともみのタッグにより珠玉のヒューマンドラマに仕上げ、ドラマWの2009年第1回放送に相応しい力作となった。

物語は、失踪中に交通事故で無言の帰宅をした巧一(高橋和也)の足跡を、東京の下町から沖縄まで婚約者の真樹子(木村佳乃)が辿るというもの。巧一の足跡を通じて、真樹子の愛する巧一に周囲で起きた物語に触れながら、人間の美しさを浮き彫りにしていく。

"俺の心の中でどっしりしたものを体験できた"、そういうことを伝えたい

東京の下町から沖縄まで日本を縦断するロケを敢行した本作品。まずはその温度差にびっくりしたと深町は語った。「東京と沖縄には時差というか体温的なものがありましてね。沖縄は異常に暑く、僕も沖縄では半袖を買って着ましたよ。沖縄の撮影では、夏の格好というか秋口みたいな衣装になり、そして東京に帰ると、厳しい現実、冬の寒さが身に染みて……。温度差の違いというのも、このドラマで意外に大きく扱うことができましたね」。

主演した木村佳乃は「心象風景であったり、情感豊かなカットがたくさんある」と語っている

78歳という大ベテランでも、沖縄では初めての体験をし、込み上げてくるものがあったという。「沖縄で古くから伝わる仕来りなどに触れて、私は凄く感動しちゃってね。ドラマの中では取り上げられないかもしれないけど、そういった仕来りに人の心ってものを忘れちゃいけないということを、改めて感じました。深町塾で若い子たちを教える時、撮影で沖縄に行くことが出来たなんてそんなことを伝えるんじゃなく、俺の心の中でもっとどっしりしたものを体験できた、そういうことを伝えたいんですね」

本作品のテーマはタイトルの通り"兄が帰る"。それにひどく気に入った様子の深町が、ドラマについて熱く語った。「WOWOWは初めてで、わからないこともありましたが、本当にこのドラマをやって良かったと思ってます。原作の漫画を読んで、テーマが凄く気に入りましたが、凄く難しくてね。現在、3年前、そして10年前と、三度の移り変わりを視聴者にわからせるのは凄く難しい作業。でも完成して、テレビって捨てたもんじゃないよ、ってことを伝えることが出来たかな? と思いますよ」

山田太一さんの脚本を変えるのは、僕ぐらいしかいないですよ(笑)

巨匠はやはり巨匠だ。本作では彼のこだわりが随所で発揮されている。その一端は、巧一が父親の勝之(山本學)と会うシーンを、前半部分に挿入した場面だ。「これをやらないと、勝之が家を出て、自分(巧一)が大学を辞めて家族を養ったっていうだけになってしまう。父親とはもう1回会ってるんですよ(最後のシーン)。それを入れてもらったのは、僕がこだわって、その中で人生っていうものを垣間見せる。巧一と勝之が2回目に会った時、『親父~、俺にもこんなことがあったんだ』っていう巧一が告白する場面は、この話の悲劇とでも言いましょうか……。さらに巧一が真樹子の元に返ろうと思った時に、おじいちゃんと同じように交通事故に遭う。おじいちゃんが交通事故だったから、これがまた死んだとなると出来すぎじゃない? いや違う、ここはそうやって死んでいくという形が物凄く心打つものになるんじゃないかとね」

さらには脚本も、彼の捉え方次第で変えることも珍しくなかった。「巧一の父・勝之(山本學)が失踪したのを野田家の会話だけで思わせるだけじゃなく、勝之と巧一の再会シーンを分割したのは、巧一の失踪の伏線。勝之が自分もそういうものに凄く絶望感を味わって、巧一の母親・ハル子(賠償美津子)とか、全てを背負っているのは巧一だけじゃなくて、それぞれに背負っているということを言わせるような台詞に書き変えた。しゃべっていて、親父さんの最後に土下座して謝ったりなんかする。この台本だと、アパートにいて顔を見せないっていう形なんですけど、そんなの嘘臭くてできないですよ。それよりも柿の木の下で住んでいる父親が自然に話す。凄く上手に、良い場面になっていると思いますよ。随分台本とは変えました(笑)」

大脚本家の山田太一、向田邦子、早坂暁ともタッグを組み、世に次々と名作を生み出した深町。そんな彼がエピソードの一端を語ってくれた。「山田さんの脚本を変えるのは、僕ぐらいしかいないですよ(笑)。山田さんは俳優さんに台詞を変えさせることも許さないぐらい。僕の場合は、嫌なんでしょうけど、彼にはちょっとこういう風にしたいって言ってね(笑)。そういうことが偉いとか自己主張のためではありません。割合に仲の良い状況にあったというかね。私も成長しなくて、年だけ食ってますけどね(笑)」

深町幸男が監督を務めたドラマW『兄帰る』は、WOWOWで2月14日(20:00~21:30)に放送される。