昨年開催された「第5回全日本最優秀ソムリエコンクール」。日本ソムリエ協会主催のコンテストで、3年に1度開かれる。そして、この大会で最優秀賞に選ばれたソムリエは、世界大会となる「世界最優秀ソムリエコンクール」の出場権を獲得することとなる。

30歳という若さで優勝

今回最優秀賞に選ばれたのは、ホテルニューオータニの高級フランス料理レストラン「トゥールダルジャン」森覚(もりさとる)さん。受賞時の年齢は30歳(現在31歳)で、若手ホープとの呼び声も高い人物だ。森さんは前述の通り、2010年5月にチリで開催される「世界最優秀ソムリエコンクール」の日本代表となる。1995年には田崎真也さんが世界大会を制しており、森さんにも「世界一」獲得の期待が高まっている。

「第5回全日本最優秀ソムリエコンクール」最優秀賞に選ばれた森覚さん。高校時代にはサッカーで全国大会にも出場したスポーツマンだ

今回の日本大会では、ニューオータニグループ所属のソムリエが1位から3位までを独占した。ニューオータニにはコンクールに強いソムリエを育成する文化があるのではないだろうか。その辺りも、インタビューで探ってみた。

――全日本最優秀ソムリエとなりましたね。おめでとうございます。いま、どのようなお気持ちですか。

「私でいいのかな、という気持ちです(笑)。今回の大会では、前回最優秀賞を受賞した佐藤陽一さん(※1)がいましたし、周囲は佐藤さんとうちの谷(※2)に注目していました。私自身も世界を狙うのは次回大会といったスタンスで、今回は経験のために参加したつもりでした」

※1 「第4回全日本最優秀ソムリエコンクール」で最優秀賞を受賞した佐藤陽一さんは世界大会では5位となり、審査員からの評価も高かったという。
※2 ホテルニューオータニ「トゥールダルジャン」所属の谷宣英さんで、今大会では2位に。森さんの先輩にあたり、これまでに全日本最優秀ソムリエコンクール2位を2度経験している。

――今回のコンクールに向けての準備は?

「毎月2万円と決めて、酒屋に頼んでコンクールに出そうなワインを送ってもらっていました」

――1年間で試飲するワインはどのくらいですか。

「トゥールダルジャンでサービスしていて、1日に10本程度をテイスティングしています。あとは試飲会などに参加したり、スタッフ同士で入手したワインを店に持ってきて皆でテイスティングもしています。年間で1,000種類以上でしょうか」

トゥールダルジャンには現在、5名のソムリエが在籍している。彼らはコンクールではライバルとなるが、普段は心強い勉強仲間である。

教員志望からソムリエに

森さんは大学生の頃まで、教員になるつもりでいたそうだ。3年生の時、教育実習で母校の高校に行っている。その頃は、教員になり、放課後はサッカー部のコーチとして後輩を教えるといった将来を思い描いていたそうだ。それがふとしたきっかけでソムリエになりたいと思った。そこで一念発起し、20歳でワインエキスパートの資格を取得する。

「トゥールダルジャン」には何十年も通うお客様がいて、教わることも多いという

――なぜソムリエになったのですか。

「特にワイン好きというわけではないのですよ(笑)。資格を取ったのも、コンクールに出るため。その頃から、世界は目指していました」

――世界大会への挑戦は今回が2度目ですね。当日はどのようなお気持ちでしたか

「決勝のチケットは3枚。そのうち2枚は佐藤さん、谷が手にしているという気持ちでした。準決勝では残り1枚のチケットをめぐって、16名が競い合いました。ここで集中力のピークを迎えましたね」

本命と言われていた佐藤さんはここで敗退。森さんと谷さん、ホテルニューオータニ大阪の定兼弘さんが決勝に進出した。この時点で、ホテルニューオータニグループで表彰台を独占することが決まっていた。

森さんはこの時点でもまだ、自分が日本代表として世界大会に臨むとは思ってもいなかったという。そして迎えた決勝の日。ブラインドテイスティングでは大きな差がつかず、サービスの実技で雌雄を決したという。

「準決勝が終わり、集中力が途切れたというか、緊張から解放された感じでした。実技では、いつもトゥールダルジャンで行っているサービスができました。コンクールでは表現などで独特の言い回しがあります。しかし私は意識して、誰にでも分かるような言葉で伝えようとしました。その結果、審査員の方からは『コメントがわかりやすい』と言っていただけました」

審査員の1人は審査が終わり、こう言った。「自分が客としてどの人のサービスを受けたいか。それを念頭に置いて審査しました」。