『風の谷のナウシカ』のヒロイン・ナウシカが、風を読み、軽やかに時には力強く、自在に空を舞うために駆る翼"メーヴェ"。メーヴェはあくまで創造の産物、アニメの世界だけのものだったはずだが、このメーヴェを現実のものにしつつある人がいる。メディア・アーティストの八谷和彦氏だ。八谷氏は、2003年より"個人的に飛行装置をつくる"プロジェクト「OpenSky(オープンスカイ)」を進めており、このほど市街地におけるはじめてのテストフライトを、『金沢アートプラットフォーム』の参加作品として、10月4日、金沢市民芸術村(石川県金沢市)において行った。

八谷和彦氏とM-02

八谷和彦氏。パイロットとしての体力づくりのためカポエラをやっているとか

前から見た搭乗の様子

八谷氏はピンクのクマ「モモ」がメールを運ぶソフトウェア「PostPet」を発案、ディレクションした人物として知られるが、このところはこのメーヴェを作っている人として、さまざまな展覧会やアート以外のイベントでも紹介されることが多く、ご存知の方も多いだろう。

メーヴェと言えばわかりやすいが、正確には架空の航空機であるメーヴェの機体コンセプトを参考に「本当に飛行可能な航空機」として試作し、試験飛行を試みるものだ。また、メーヴェの形態再現ではなく、飛行機としての性能を確保して飛行可能な機体とすることを第一の目的としている。そのため、プロフェッショナル(オリンポス)の協力を得て機体設計、製造を行なっている。確かに、今回のテストフライトに使用されたフェーズ2の機体「M-02」を見る限りでは、メーヴェのようなメカニカルな部分がほとんど見られない、きわめてシンプルなものではなく、着陸用にタイヤもあれば、フラップのようなものもあり、グライダーのような飛行機に近いイメージだ。それでも人がむき出しで機体上部に水平に乗り込み、空を舞う姿は見まごう事なく、メーヴェのそれだ。

横から見た搭乗の様子

うしろから見た搭乗の様子

このOpenSkyプロジェクトは、機体の基本設計および模型機による実験(フェーズ1)、人が乗れる実機の試作し(フェーズ2)、低高度の飛行を行なうテストフライトフェーズ(フェーズ3)へと移行しており、現在、機体にジェットエンジンを装着して飛行する準備をしている。最終的には飛行場周辺での8の字飛行がフェーズ3の目標と言う事だ。今回は安全面からエンジンを積んだものではなく、ゴム索発航と呼ばれる方法で飛ばすテストフライトが行なわれた。このゴム索発航というのは、パチンコや紙飛行機のようにゴムを引っ張って、その張力で機体を飛ばすという、横バンジーとも言えるような、いたってシンプルなしくみのもので、10人ほどの人力で綱引きのようにゴムを引っ張り、飛ばす。このために事前に金沢市民に呼びかけ、ゴム曵き隊を結成。実際に多くの市民の手によってゴムが曵かれ、八谷氏自身がパイロットとしてM-02に搭乗し、金沢の空を舞った。

多くの市民の目に触れる記念すべきテストフライトとなった。(右から)まもなく離陸→静かな離陸→横から見るとカモメのようだ→もっと飛べ!→ふわりと旋回しながら→着陸も静か

舞った、と言っても、金沢市民芸術村はかなり広い広場を持つものの、M-02の飛行能力は飛行距離、高度ともに想像以上で、広場を越えて住宅街まで飛べる能力があるため、低高度、短距離での飛行となった。これまでも公開のテストフライトは行なわれてきたが、安全面などの飛行できる環境の点から、グライダーを飛ばす大きな河川敷や、パラグライダーを行なう高原などで行なわれており、今回のように金沢駅まで歩いていけるような市街地の広場を使って、多くの一般の方の目に触れるテストフライトは本プロジェクトにとってははじめての事となる。八谷氏は「こうして多くのみなさんの目に触れられる場所で飛ばせる事はとてもうれしいです。こういうところで飛ばすのが念願でした」と語っている。