イギリスの航空会社、ブリティッシュ・エアウェイズ(以下「BA」)には、"アンバサダー"という独自の肩書きを持つプロフェッショナルがいるという。アンバサダー、日本人にはあまり聞き慣れない言葉だ。試しに、"ambassador"と辞書を引くと「『奉仕する人』が原義。大使、使節」などという言葉が並ぶ。一体、どんな仕事なのだろうか? 日本で最初のBAアンバサダーに就任したという加藤吉明氏に話を伺った。
"アンバサダー"とは、どんな仕事をする人なんだろうか。
加藤「アンバサダーという役職は他の航空会社にはありません。一般的には、航空会社のプロモーションイベントなどが行われるとなると、いわゆるフライトアテンダント(キャビンアテンダント)がそこに対応しますよね。そこをBAは、"会社を代表する者"としてアンバサダーという人を位置付けました。この役職は2005年に会社が新たにトライしたことで、業界としては初めての試みなんです。
BAアンバサダーとして立ち振る舞うときは、様々な決まりがあります。まず、女性は専用のキャップ(帽子)の着用がルール。このキャップは、BAアンバサダーとロイヤル・フライトの時にしかかぶれないもので、普段、BAのスタッフはキャップをかぶりません。そういう意味では名誉職という感じですかね。BAアンバサダーの男女比は半々ぐらいで、女性が多いってことでもありません。一時は世界で100人ぐらいいたBAアンバサダーですが、今は70人ぐらいでしょうか。ちなみに全従業員は50,000人弱になります」
加藤さんの名刺の肩書きが記されている「個人・法人旅客営業部 アカウントマネージャー」。アンバサダーという言葉はいっさい書かれていない。
加藤「ずっと旅客営業で、もう22年目になります。団体営業を9年近くやっていました。それからファーストクラスやビジネスクラスを扱うプレミア営業を代理店と企業の両方に向けて担当していましたね。アンバサダーは名刺にこそ記載されてませんが、BAとしてのイベントなどがあったときに他の仕事の合間にアンバサダーの仕事をすることになります。私の本業は今も営業メインですが」
本業の営業職がありながら、広報的な仕事もする……。一見、大変そうに聞こえるが、なぜ加藤氏はBAアンバサダーの第一歩を踏み出したのだろうか。
加藤「BAが毎週発行する社内報に、『アンバサダー募集』という記事が出ていたんですね。BAアンバサダーは当初、英国のスタッフしかいませんでした。それで、当時のマーケティング部長に相談すると『ぜひとも必要なので日本から受けてみて』ということになり、挑戦することに……。その後、書類選考が通ったという知らせがきて、世界各地で面接があるうち、私は香港での面接に行くことになりました。香港で2日間にわたって、インタビューとプレゼンテーションが行われ、プレゼンでは弊社ビジネスクラスについてというお題で15~20分間行いましたね。PCを使用してはいけないというので、紙でデザインを書いて、BAのビジネスクラスに乗る前と乗った後の話をしました。
翌日は、英国のBAアンバサダーやマーケティングの人たちの面接を受けました。『チームワークとは何?』という質問があって、私は戦国武将・毛利元就の"三本の矢"について話しました。そうしたら非常に好評でしてね。インタビューアーが『そうか!』なんてメモなさるほど……。加えて、『何が大切?』とも聞かれました。アジア人は『仕事』と答える人が多いのですが、私は『家庭』と答えました。家庭はリラックスできるところ。表で仕事をして帰ってきて、"裸"でいれるところは"家"だけですから。そのせいかどうかはわかりませんが、最終的に英国以外で初のアンバサダーに合格しました。アジアで応募した30人中7名の1人になれたというわけです」