-- ホームセンターなどではネプロスを見ないのですが、流通上での違いはあるんでしょうか?

工具を収納する工具箱も大小さまざまな製品がラインアップされている

元々ネプロスは特約店制度を設けてました。「語り部」といういい方をしていましたが、ネプロスのコンセプトに賛同していただき、店に在庫を置いていただいて、ちゃんと説明して売っていただけるというところを募って販売体制を構築しました。現状でもその制度は生きていますが、それ以外の通常の流通でも取り扱っていただいています。それでも、東京でいいますと「ファクトリーギア」さんですとか、一部の販売店でないとご覧いただけないかもしれません。

-- プロ用工具と量販店で販売される工具の違いはあるんでしょうか?

うちはそういったことはありません。「プロにはプロのクオリティを提供します。アマチュアの方はプロが使っているものを使ってください」というのがコンセプトなんです。量販店向け、プロ向けなど、工具のクオリティもまったく分けていません。ただ、プロしか使わない工具というのはあると思います。素人では作業できない場合がありますから。でもソケットや、スパナ、メガネ、ラチェットはホームセンターで買っていただいても、工具専門店や、ネット通販で買っていただいてもまったく同じものです。

いい工具、ダメな工具

-- いい工具とだめな工具の差はなんでしょうか?

加工用の型鍛造機。素材を約1000度に熱してから型に入れ鍛造成型を行う

まず一番わかりやすいのが精度ですね。ボルトやナットにはめたときに、ガタつきがある。ドライバーでいうと芯がぶれてないとか、ペンチのように挟むものなら先がちゃんと合わさっているか。隙間のないものは比較的精度がいいです。

工具の堅さというのも重要です。長尺の工具で固すぎると壊れやすくなります。ですから、KTCの製品は壊れる寸前がわかるように、ある程度しなるように作っています。「あぁ、やばいな」ってわかる時間があれば準備ができますよね。力をゆるめてもいい。突発的に折れたりするのがまずい。それどころかケガする可能性もあります。このあたり、硬度や粘りにこだわっていない商品はあまりよくないです。ちょうどいい堅さとちょうどいい粘りのある工具がベストですね。

ネプロスでも、ある程度たわませています。元が鉄ですから、限界以上に力を入れると割れるというのは仕方ない。だけどたわたませることで割れる予兆をわかりやすくしています。非常に固いかというと、そういうわけではなく、それなりに固いといういい方をしています。

あとは表面処理の仕上げですね。簡単に錆びるようなものは粗悪な製品です。工具の製造工程は、大きく分けて組成加工、機械加工、熱処理、表面処理の4つになります。機械加工は十分に設備投資していればそれほど差は出ないのですが、残りの3つには技術的な背景が必要になってきます。そこがちゃんと整っているものはいいものですし、そろってないと工具として力不足になります。

もっとクルマやバイクをいじろう

-- 日常の工具のメンテナンスで気をつけなければいけないことはなんでしょうか?

美しい工具はそのままインテリアになりそう。しかし飾っておくだけではもったいない

やはり湿気の多いところには置かないということですね。表面をコーティングしているとはいっても、100%メッキが載っているというものではないのでそれなりに錆びるところが出てくると思います。もちろん雨ざらしとかダメです。可動部がある場合は、ある程度動きに渋さを出さないように注油したり、ウエスで拭いたりしてきれいにしておくことが必要です。クルマやバイクの半分くらい大事にしていただければ、それだけで問題はありません。

-- クルマをいじって楽しむ人が減っているように思いますが

減ってますよね。僕らの大学時代はクルマを買って、触って楽しむというのがひとつの文化としてあったんですけど、最近そうではないですね。僕らの時代は吊るしの状態がいいと思わなくて、なんらかのいじりをしてたと思うんですよね。ハンドルがでかければ小さくしたり、腰がいたければレカロ入れたり。乗り心地が悪くなっても、気持ちよく曲がれるならと足まわりを変えたりしましたよね。

でも、今は若い人でも、走ってくれればクルマはなんでもよくて、そこにいじりの楽しさっていうのはあんまりないですね。昔はいじることがステータスでしたけど、今はそれが非常に少なくなっています。そういう自分らが楽しかったものを少しでも皆さんにわかっていただくような、そんな仕掛けをしていきたいと思っています。ボルトやナットを回して気に入ったパーツをつけるとか、クルマやバイク、自転車でもいいんですけど、少しいじるだけでずいぶん違ってくるとか、そういった楽しみってありますよね。工具が売れる売れないにかかわらず、いじりの文化っていうんですか、何か面白そうなことをする若い人が増えてくれればいいなと思っています。

-- 来年は60周年ということですが、何か予定されていますか?

記念行事や記念アイテムを検討しようと思っています。50周年には(取材中の)この建物を造ったんですが、60年なのでそれより規模は小さくなると思いますが、できればネプロスで何かやりたいと思います。ネプロスは来年で15周年ですから、それもからめながら、面白い限定商品なども出せればいいですね。

聞き手・撮影:平 雅彦 (WINDY Co.)