海に囲まれたニュージーランドの南島にある人口3,800人の小さな港町・カイコウラでは、午前中のみの手軽なツアーで数匹のマッコウクジラに出会えるホエールウォッチツアーに参加できる。カイコウラは、海岸線からほんの数キロ離れた沖合に水深2,000メートルに及ぶ海溝があり、ここで暖流と寒流がぶつかって大量のプランクトンが発生するため、魚介類やそれを餌にするクジラが集まってくる。1年を通じて多くのクジラが見られるため、世界的にも有名なホエールウォッチスポットとして知られ、年間6万人に及ぶ観光客が訪れているという。

朝日が上るカイコウラの海。美しい海はカイコウラの人々にとってなくてはならない大切な資産である

この日、筆者が参加したツアーでは、朝7時半の出発から11時に戻るまで、2度にわたりマッコウクジラに出会うことができた。船はレーダーでクジラがいる場所を探しながら進み、波間に背中の一部のみを出して泳いでいるクジラからわずか50メートルの至近距離で待機する。しばらく眺めていると、海面に尾を高く上げ、スローモーションのようにゆっくりと海中に潜っていくテイル・ショーを見られた。それは巨大なマッコウクジラからは想像もつかないほど優美で、太古から続く動物や地球の営みを感じさせるものだった。古くから日本でも海の神として神格化されていたように、ニュージーランド先住民族のマオリがクジラを海の主として崇めてきた理由が分かるような気がした。ツアー参加者たちは皆、時間が止まったように息をのんで見入っていた。

(右)元気よくジャンプしながら船を追いかけてきたイルカたち。カイコウラ近海では約15種類のイルカやクジラが見られる(上)至近距離から眺めるマッコウクジラのテイルショーは迫力満点。オスは17~18m、メスは10~11mの体長を持つ

ツアー中には、マッコウクジラのほか、元気よく飛び跳ねながら船を追いかけてくる野生のイルカや、海面にほんの少しだけ頭を出して泳ぐ世界で最も小さいペンギン、ブルーペンギンにも出会うことができた。

カイコウラではこのホエールウォッチツアーのほか、沖合でイルカと共に泳げるドルフィン・スイミングツアーや、オットセイと泳ぐシール・スイミングツアーなどが催されている。海に入らなくても、海岸沿いを歩くだけでオットセイやアザラシ、野鳥の群生に出会うことができる、まさに自然の宝庫のような町なのだ。

海岸で昼寝をしていたオットセイ。出会った時は驚かさないよう5m以上離れ、フラッシュを使って撮影しない注意が必要