この展覧会の大きな特徴は、ダーウィンの科学者としての業績や研究だけではなく、その人間性にも焦点を当てているところだ。「妻という一番おもしろそうな標本」という、ちょっとドッキリさせるタイトルで始まるこのコーナーは、航海から帰国したダーウィンが、どんな生活を送りながら「進化論」をまとめていくか、その過程がよくわかる。

学問的な業績だけでなく、人間ダーウィンの波乱の生涯にも迫る

なかでも入場者の目を引くのは、会場内に復元されたダーウィンの書斎。結婚後暮らしていたロンドンからダウンというのどかな村に引っ越したダーウィンは、家族との静かな暮らしを守りながら、研究と執筆に打ち込み、『種の起源』を完成させる。そんなダーウィンが愛したのが、書庫と研究室を兼ねた書斎だった。

再現されたダーウィンの書斎、ここで一日のほとんどを過ごした

椅子には小さな車輪がついていて、散歩用の杖を竿がわりに使って移動していたのだそう

病弱だったダーウィンは、実に規則正しい毎日を送ったという。早起きして、朝食前に庭を散歩。9時30分まで仕事。その後は客間で手紙などに目を通し、再び書斎へ戻る。12時からはお気に入りだったサンドウォークの散策、午後は手紙の整理と読書。「私の暮らしは、時計のように規則正しい」と書き記している。

初めて生命の系統樹が書かれた「B」と名付けられたノート、上部に「I Think」の文字

このように、ダーウィンは一日の大半を書斎で過ごしている。お気に入りの椅子に座り、肘掛けに厚板を渡して、それをデスク代わりに執筆した。椅子には小さな車輪がついていて、いちいち立ち上がらずとも、散歩用の杖を竿がわりに使って移動する。暖炉の前では愛犬ポリ-が日がな一日居眠りをしている。そんな風にして『種の起源』が書かれていったのであろうと想像するのも楽しい。今にもどこからかダーウィンが現れて、ペンを走らせそうな、そんな佇まいが見る者を釘付けにする。