東京・丸の内の新丸ビル7階「丸の内ハウス」では、12月3日から12月9日までの1週間、故・松田優作イベント「丸の内ハウス探偵物語」を開催した。今、注目される丸の内エリアで、松田が主演したドラマ『探偵物語』(1979年~1980年 日本テレビ系)の面影を残すさまざまな"仕掛け"を施し、ドラマの世界観を再現したイベントだ。今回は、この新丸ビル×松田優作という異色のコラボレーション空間に足を運んでみた。

"工藤ちゃん"の愛称で放送終了後も若者から絶大なる人気を誇った工藤俊作

『探偵物語』

工藤探偵事務所を営む私立探偵・工藤俊作(松田)が、街の仲間の協力を得ながら事件を解決していくというストーリー。シリアスな事件を扱いながらも、コミカルなテイストに仕上がっているアクションドラマだ。「工藤ちゃ~ん」が口癖で、事あるごとに工藤に因縁を付ける服部刑事を演じる成田三樹夫と松田の小気味よいアドリブ合戦も見もの。

「丸の内ハウス」は、新丸ビルにおけるレストランフロア。各店舗の仕切りを極力なくした設計になっているため、一つのラウンジのような空間となっている。丸の内、そしてレストランフロアでなぜ松田優作なのか? イベントをプロデュースした栗山圭介氏は「今現在、どの世代にも共通するヒーローが不在ということですね。そして来年、松田優作さんの20回忌ということもあり、それに先んじて、優作さんへのオマージュというかリスペクトを込めて、丸の内ハウスを訪れるすべての人に優作さんの魅力というか、魔力みたいなものを少しでも伝えられればと思い、企画しました。それをやるには、丸の内ハウスという究極の空間とのコラボレーションが必要だったんです」と語る。そんな、栗山氏の思いが詰まった空間に早速足を踏み入れてみよう。

おなじみ、工藤ちゃん愛用のベスパP150X

エレベーターが7階で止まり、ドアが開く。エントランスに立つとまず、あの咥えタバコの工藤ちゃんが出迎えてくれる。フロア中心まで何気なく進むと、あちこちから工藤ちゃんがこちらをうかがっているという、ニクイ演出にすぐに気付く。

新たに立ち並んだ丸の内のビル群が映る窓辺には、工藤ちゃんが愛用したベスパP150Xがたたずむ。足元にある白く塗られた足跡を辿って通路を抜けていくと、昭和の面影を残すスナック街をイメージした路地「工藤ちゃん横丁」ができていた。そこにある女性限定BAR「来夢来人」は、新丸ビルにいるとは思えないほどの"昭和臭い"空間。男性である筆者は特別に中に入れてもらったが、そこにも『探偵物語』の映像が流れていた。

「工藤ちゃん横丁」

従業員はすべて男性という女性限定BAR「来夢来人」。かなり上級者向けの酒場だ

"どこへ行っても工藤ちゃんがいる"その極みは、トイレ。男性トイレを拝見したが、どの方向からも工藤ちゃんがこちらを向いているのだ。ということは、女性トイレにも? と聞くと、栗山氏は「ちゃんとありますよ」と。男女平等に工藤ちゃんを配したことはわかるが、女性トイレまで張り込むとは、さすが名探偵!

そして、工藤探偵事務所まで進むことになる。そこは、ドラマで見た"あの事務所"そのままだった。工藤ちゃんが咥えるタバコの煙に包まれ、デスクの上の貴重な品々が並んでいる。ステンドグラスや玄関の扉、その前の階段まで再現されており、ここまでくると完全にドラマの世界に入り込んだような気分になってくる。

扉の向こうには工藤探偵事務所が……

忠実に再現された工藤探偵事務所の一室。タイプライターにキャメルのタバコ、そして黒電話。必須アイテムがさりげなく置かれている

なお、横一面に30mはあろうかという白タイルの壁には、工藤ちゃんの1日がわかるポップアート風のイラストが展示されていた。

工藤ちゃんの「あったあった!」と思わず唸りたくなる名場面シーン

展示されている作品は、イラストレーターの北村ケンジ氏によるもの。ついつい真似したくなってしまう仕草が描かれている

1カ所のイベントスペースで展開されるのではなく、スタイリッシュなフロアの至る所に工藤ちゃんが顔を出すという趣向の同イベントだったが、80年代のテイストが違和感なく溶け込んでいて、『探偵物語』の格好良さ、オシャレさが現代にも通じることを証明している。「あくまで食を妨げないような演出を心がけて、ルールを設けずにやったのがよかった。また何かやるんじゃないかとみなさんが期待してくれて、僕らを奮起させてくれれば、うれしいですね」と栗山氏。思わず、撮影現場にタイムスリップしてしまったかのような感覚に陥ってしまうほど、何から何まで忠実に再現されているので、訪れたマニアも納得だったのではないだろうか。