『時かけ』だからこそ可能だったネット戦略


岡田 : この映画はネット戦略で成功したっていうことをずっと言われていますけど、それは結果論でしかなくて。映画を作る人たちにとっては作品がどうお客さんに伝わるかということのほうが大事なんですよ。

齋藤 : これがスキームになって他の作品もそこに当てはめればヒットするんじゃないかっていう、成功の方程式みたいな物があるんだって取られがちなんですけど、決してそうじゃない。これはどんな作品でもそうだと思うんですが、作品のためにできること、私達は細田監督を筆頭に本当に現場スタッフから、宣伝、配給、あらゆるセクションでそれを最大限にやった。それが色んな幸運も相まって、観て頂いた方々の気持ちにきちんとお届けする事が出来たんだなと、本当にそう思っているんです。

岡田 : アニメに限らず「映画」として、とにかくお客さんが観終わったときに「いい映画を観たな」と思えるものをちゃんと作ろうと。そういうものすごく基本的なことを丁寧にやっただけの作品なんですよ。だから、これと同じことをすれば第二、第三の『時かけ』が生まれてヒットしますよ、なんていうことはありえない。それと、公開が2006年ですよね。これが2005年だったらミクシィに誰かが書いたってあんなに反響はなかったでしょう。インターネットの環境っていうのは1年ごとにどんどん変わっているじゃないですか。ブログだって、読める人がそんなにいなかったかもしれない。でも、それに合わせて映画を作っている人なんていませんから。そんなにビジネススキル的なことを、作り手は重要視してないんですよね。

齋藤 : とはいえ、『時かけ』のブログって愛されたし話題にもなったんじゃないのかなっていうのはありますね。ブログ担当の人も『時をかける少女』のアニメーターさんや細田監督と同じく、スタッフの一人として作品を世に送り出すために、いろんな制約があるなかで、非常にゲリラ的にやってくれて。あの人から教えてもらったアイデアや考え方みたいな物は本当に沢山ありますね。