志茂田:介護保険制度が医療保険から分離され、2000年にスタートして7年が経過しました。介護保険制度は5年ごとに見直すことになっていますが、2005年の段階では予想を上回る利用者数や介護サービスの増大、そしてそれに伴う国の財源不足といった問題を生み出しました。それ以外にもさまざまな問題が指摘されましたね。
:まず挙げられるのが、地方自治体間の「格差」です。介護保険料やサービスが各市町村や都道府県によって異なることはご存知でしょうか。たとえば、特別養護老人ホームに入所する場合でも10万円ぐらいかかる地域もあれば、逆に5万円から6万円で済む地域もあるのです。

市町村別の保険料の分布(厚生労働省のパンフレットより)。第1期(2000-2002年)より、第2期(2003-2005年)の方が保険料の差が広がっていることが分かる

 

志茂田:一方で、新たに大規模な雇用が創出されたことは介護保険制度のプラス面と言えるでしょう。
:かつて、社会福祉系の学生たちは「社会の役に立つ仕事」ということを念頭において進学してきましたが、最近は介護など社会福祉の分野にはビジネスチャンスがあると捉える学生が増えてきました。これは1990年代半ばに打ち出された国の構造改革に端を発しますが、誤解を恐れずに言えば、福祉が「産業化」したということです。これについては賛否両論があると思いますが、雇用創出とそれに伴う介護サービスの充実という面から見て、素晴らしいことだと思います。

団塊世代への提言と今後の連載について

:社会保障制度には、住民からの申請によって行政サービスがスタートする「申請主義」が多いので、仕組みを知っておかなければ利用できずに損をするケースが多々あります。また、団塊世代のリタイア後のライフステージとして地方へのUターンやIターン、長期滞在が人気を集めていますが、終の棲家(すみか)については真剣に考えたいもの。今後の連載では、ライフプランの参考になるような介護保険制度について分かりやすく説明していこうと思っています。また、読者の方々からのご質問にもお答えしていきたいですね。
志茂田:私は医療や年金など国の社会保障全般にわたってお話をさせていただきます。社会福祉の歴史的経緯や関連するエピソードなどを盛り込んでいきたいと考えています。また、団塊世代に人気の高い寺社巡りなどから見えてくる、社会福祉の歴史なども折に触れてご紹介したいと思います。たとえば、鎌倉・極楽寺の開山である忍性菩薩は鎌倉時代の真言律宗の僧侶ですが、奈良で「北山十八間戸」を設け、ハンセン病患者の救済にあたりました。世界史の上から見てもこれは先駆的な社会福祉。いうなればボランティア活動の先駆けです。
:社会福祉全般に広く興味をもっていただき、お時間に余裕があれば地域福祉の担い手として活躍していただきたければ幸いですね。
志茂田:団塊世代は、高度成長期の日本を支えた原動力でしたし、団塊世代の人口の多さもあって、少年マンガ雑誌のブームなど、さまざまな潮流を生み出しました。ですから、団塊世代の方々が社会福祉に目を向ければ、地域福祉の現場にも大きな変化をもたらすかもしれません。
:現在、日本国内で介護を必要とする人々は400万人もいらっしゃいます。また、団塊世代の方々の場合は、ご自分が介護保険の利用者になる可能性というだけではなく、ご健在の親を高齢者となった子が介護する、いわゆる「老老介護」に直面されている方も少なからずおいでになるはずです。このように考えると、「自分には関係のない話」と思っていた介護が、実は身近な問題であることに気づくはずです。どういう方向になるかまだ分かりませんが、連載を通して、読者の方々と一緒に社会福祉を考えていければと思っております。<了>