前回は、水上の艦船を対象とする識別の話を主体として、さらに潜水艦を対象とする識別についても少し触れた。対潜戦(ASW : Anti Submarine Warfare)は水中戦(Underwater Warfare)の一分野だが、今回はもうひとつの方、すなわち機雷戦と対機雷戦(MCM : Mine Countermeasures)の話を取り上げてみる。機雷は敵味方を区別しない兵器であり、水上戦とは異なる「識別」の考え方が求められる。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照
機雷原を正確に把握する理由
まともな海軍であれば、機雷を敷設するときには、どこに何を敷設したかをちゃんと記録しておくものである。だから、機雷敷設を担当するプラットフォーム(艦艇と航空機の両方がある)は、精確な航法ができなければ仕事にならない。
自軍が、どこの海域の、どの地点に、どの種類の機雷を、どれだけ敷設したかが分かっていれば、用済みになって掃海あるいは掃討を実施することになったときに、確実な作業を行えると期待できる。といってもこれは、位置が変わらない沈低機雷の場合。
係維機雷も理屈の上では位置は変わらないはずだが、係維索が切れて行方不明になる機雷が現れると、面倒なことになる。浮遊機雷は位置決めという考え方がそもそも存在せず、海面に投入した位置と機雷が実際にいる位置が一致しないから、もっと始末が悪い。
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イギリスのゴスポートにある「Explosion Museum of Naval Firepower」では、機雷をただ漫然と並べるのではなく、「海中に設置された機雷」をイメージできる展示をしている 撮影:井上孝司
過去の戦史を見てみると、何らかの作戦を実施するために機雷原に安全な水路を啓開する必要が生じた事例がいくつもある。そのとき、敵軍が構築した機雷原ではどこに何がどれだけあるか分からない。それでは、啓開する水路全体を舐めるように掃海・掃討して回らなければならず、手間が増えてしまう。
だから、自軍が機雷を敷設した海域に対象を限定して啓開する方が確実だし、迅速でもある。例えばドイツ海軍が1942年2月に、フランスのブレストにいた巡洋戦艦2隻と重巡洋艦1隻を本土に回航する作戦を決行したときには、事前に自軍がこしらえた機雷原を対象とする水路啓開を実施した。自分が撒いた機雷を自分で処分するのだから、いささか皮肉な話ではある。
ちなみに、この作戦では巡洋戦艦2隻が触雷したが、これはイギリス軍が土壇場になって機雷をばらまいたためらしい。
そもそも機雷は敵味方の区別をしない
実は、機雷が絡む戦闘では、敵味方の識別は問題になりにくい。機雷の起爆装置を反応させる艦船がいれば、それが敵の艦船だろうが味方の艦船だろうが関係なく、起爆して被害を与えてしまう。
友軍が敷設した機雷だろうが敵軍が敷設した機雷だろうが、作戦行動を阻害することに変わりはない。だから掃海・掃討を行う場面では、敵味方に関係なく、見つけた機雷は処分する必要がある。
米海軍のMk.60 CAPTOR(Encapsulated Torpedo)、あるいはその後継となるハマーヘッドみたいに、パッシブ・ソナーで敵潜の接近を知って短魚雷を発射するタイプの機雷もある。それなら理屈の上では、潜水艦がやるのと同様に、音響特性によって特定のターゲットにだけ反応することもできそうではあるが、現実的かというと怪しい。
なぜなら、機雷はいったん敷設したら「それっきり」だから、その時点でプログラムしたデータの範囲でしか対応できない。いざ有事の際に、最新のデータをプログラムしてから敷設するしかない。
それに、確実に敵潜だけを見分けられる能力を機雷に組み込めるのか、必要な音響データの収集と機雷へのプログラムは問題なくできるのか、機雷の側の記憶容量は大丈夫なのか、電力消費が増えて寿命が短くならないか、といった具合にさまざまな課題が考えられる。
すると、敵味方に関係なく推進器の音を聴知したら撃つ、という方が現実的になってしまう。
機雷と偽物をどう識別するのか
沈底機雷を掃討する場合、まず海底を高周波ソナーで捜索して、「機雷らしき物体の存在を把握する」ところから話が始まる。ところが敵もさるもの、音波を反射しにくい形状にしたり、ゴムみたいな柔らかい素材で表面を覆ったりと細工をする。
それに、海底の地形は単純ではないし、機雷以外にもいろいろなモノが落ちている。その中から機雷だけを見つけ出すプロセス自体、なかなか厄介である。
だから機雷探知の分野では、高解像度の合成開口ソナー(SAS : Synthetic Aperture Sonar)を開発するという競争がある。解像度が低い不鮮明なソナー映像よりも、解像度が高い鮮明なソナー映像の方が、より「機雷らしき物体」の存在に近寄れる。
例えば、ハイドロイド社がREMUS 600というUUVに装備する合成開口ソナー、HISAS 2040を2019年に発表した。HISASはHigh-resolution Interferometric Synthetic Aperture Sonarの略で、2基のトランスデューサーを艇体両側面に取り付ける構成。300m幅で2cm×2cmの解像度を実現していると説明される。
2cm×2cmの解像度なら、かなり鮮明な映像になると期待できるし、しかるべきトレーニングを施した人工知能(AI : Artificial Intelligence)を用意して識別を手伝わせる手も考えられよう。
とはいえ、さらにUUV(Unmanned Underwater Vehicle)やROV(Remotely Operated Vehicle)を現物のところまで送り込んで、映像で確認するプロセスは必要。幸い、機雷は撃ち返してこないから、近くまで行って照明を当ててカメラで撮るぐらいのことはできる。
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。



