飛来するミサイルを見て、「これは○○だ」と判断できる人はいない。そもそも、そんな時間はないからだ。では現代の軍隊は何を手掛かりに、飛来する経空脅威を識別しているのか。対空・対艦ミサイルを例に、その仕組みを見ていく。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照

  • シーダート艦対空ミサイル。これは909型射撃指揮システムと組み合わせて使用する。ラムジェット推進でマッハ3以上の速度が出る。こうした情報は識別の手がかりになり得る 撮影:井上孝司

    シーダート艦対空ミサイル。これは909型射撃指揮システムと組み合わせて使用する。ラムジェット推進でマッハ3以上の速度が出る。こうした情報は識別の手がかりになり得る 撮影:井上孝司

見れば分かるが、それは無理

もちろん、さまざまなミサイルの外見が頭に入っていれば、目視することで「どんな機種のミサイルか」は分かる。

しかし、それができるのは平時の地上展示や博物館の展示品の話。戦闘中に自身に向けて飛来するミサイルを目視して識別しろといっても、それはさすがに無理な相談である。

まず、そんな悠長なことをしている時間的な余裕がない。しかも、飛来するミサイルはこちらに頭を向けているだろうから、全体像を見るのは難しい。それにサイズは小さいのだ。よく見えるぐらい近くまで飛んできたら、もはや識別どころの騒ぎできない。

ところが、妨害するにしても回避するにしても、飛来するミサイルの種類は分かっている方が良い。極端な話、赤外線誘導のミサイルが飛んできているのに、チャフを撒いたり妨害電波を出したりしたところで、何の役にも立たない。すると、飛来する脅威の種類が分かるに越したことはない。

では、飛来するミサイルの機種を識別する手段は何もないのか。理屈の上では、必ずしもそうではない。

発射元のプラットフォームで識別する

交戦相手が何者なのかが分かっていれば、そいつがどんな種類の兵装を備えているかも分かることが多い。これは、相手が艦艇の場合でも航空機の場合でも同じ。

たとえば、アメリカ製の戦闘機なら、搭載できる空対空ミサイルの種類は事前に分かっている。アメリカ製の戦闘機であれば、イギリス製のミサイルやフランス製のミサイルぐらいならあり得るにしても、さすがに中国製のミサイルを撃ってくることはない。

  • オーストラリア空軍のF/A-18A。普通、F/A-18が搭載する格闘戦用空対空ミサイルといえばAIM-9サイドワインダーだが、オーストラリアではAIM-132 ASRAAM(Advanced Short Range Air-to-Air Missile)を使用していた。翼端に搭載している様子が分かる 撮影:井上孝司

    オーストラリア空軍のF/A-18A。普通、F/A-18が搭載する格闘戦用空対空ミサイルといえばAIM-9サイドワインダーだが、オーストラリアではAIM-132 ASRAAM(Advanced Short Range Air-to-Air Missile)を使用していた。翼端に搭載している様子が分かる 撮影:井上孝司

艦艇でもその辺の事情は同じ。「どこの国の海軍の、どのクラスの艦が、どんな種類の兵装を搭載しているか」は、ジェーン年鑑を見れば分かる。海上自衛隊の護衛艦であれば、搭載している艦対艦ミサイルの種類は、2026年春の時点で3機種しかない(RGM-84ハープーン、90式艦隊艦誘導弾、17式艦隊艦誘導弾)。

そして、それぞれのミサイルの主要諸元が分かっていれば、これも判断材料になり得る。ある程度、離れたところから撃ってくるのであれば、それに見合った射程を持つミサイルだと判断できる。遠方にいる相手に短射程ミサイルを撃っても、それは弾の無駄遣いでしかないからだ。

  • 中国海軍の054A型フリゲートが、艦対艦ミサイルとしてYJ-83を搭載しているというのは既知の情報 撮影:井上孝司

    中国海軍の054A型フリゲートが、艦対艦ミサイルとしてYJ-83を搭載しているというのは既知の情報 撮影:井上孝司

射撃指揮レーダーで識別する

戦闘機は、捜索機能を兼ねる射撃管制レーダーを機首に搭載するのが一般的。だから、それが発するレーダー電波をESM(Electronic Support Measures)やレーダー警報受信機(RWR : Radar Warning Receiver)で逆探知できれば、手がかりが手に入る。

そこで、電波の周波数や特性に関する電子情報(ELINT : Electronic Intelligence)が手元にあれば、「この機種のレーダーを積んでいる機体だから、このモデルの戦闘機だろう」「それなら搭載兵装はこれこれではないか」という判断ができる。

艦艇は事情が異なり、搭載する兵装ごとに専用の射撃指揮システムを備えるのが一般的。そして、捜索・捕捉・追尾にレーダーを使用する射撃指揮システムを作動させれば、その機種に固有の特徴を持つ電波が出る。どの兵装と、どの射撃指揮システムがペアを組んでいるかが分かっていれば、「このレーダーが作動したので、何を撃ってくるな」という推測ができる。

だから、「射撃指揮レーダーの電波を浴びせてきた」事案が平時に発生した場合でも、相手が何を撃つ「つもり」でいたのかを推測する材料は得られることになる。よって、平時の電波情報収集には重要な意味がある。

  • 旧ソ連製の艦載射撃指揮システム3P41(NATOコードネームはトップ・ドーム)。これはS-300F(NATOコードネームSA-N-6)艦対空ミサイル・システムの一員だから、これの電波を逆探知すれば、S-300Fを搭載する艦がいて、それを撃ってくるのだと判断できる 撮影:井上孝司

    旧ソ連製の艦載射撃指揮システム3P41(NATOコードネームはトップ・ドーム)。これはS-300F(NATOコードネームSA-N-6)艦対空ミサイル・システムの一員だから、これの電波を逆探知すれば、S-300Fを搭載する艦がいて、それを撃ってくるのだと判断できる 撮影:井上孝司

ミサイル自体も、アクティブ・レーダー誘導のミサイルならミサイル本体から、セミアクティブ・レーダー誘導のミサイルなら射撃指揮レーダーから、それぞれ電波が出る。これも、電波の特性に関する情報があれば識別の材料を得られる。

それを避けようとすると、電磁波を出さない、パッシブ誘導が必要になる。実際、コングスベルク製のRGM-184A NSM(Nytt Sjønomålsmissil / Naval Strike Missile)やAGM-184 JSM(Joint Strike Missile)みたいに、画像赤外線誘導を使用している対艦ミサイルがある。ステルス設計を取り入れているのに加えて電波を出さないから、探知や識別が難しい相手である。

  • JSMの模型。シグネチャ放射が小さく、識別するにも迎え撃つにも厄介な相手である 撮影:井上孝司

    JSMの模型。シグネチャ放射が小さく、識別するにも迎え撃つにも厄介な相手である 撮影:井上孝司

飛び方から識別する

飛翔プロファイル、つまり「飛び方」で識別できる場合もある。これが活きるのは、主として対艦ミサイルであろうか。

つまり、低空を亜音速で飛んでくるか、もっと高い高度を超音速ないしはそれ以上の速度で飛んでくるか。こうした情報は、探知したミサイルの正体を知る手がかりになり得る。

また、最近になって急速に使用事例が増えている「安い自爆無人機」は、BGM-109トマホークに代表されるような高価で高機能の巡航ミサイルとは飛翔プロファイルが違う。まず速度が低いし、飛行高度は高めになるだろう。

地面との意図せざる接触を避けながら、低空を確実に飛ぶには、相応の仕掛けが要る。そんな仕掛けを追加すれば、コストは上がり、重量は増加する。そこにおカネをかけるぐらいなら、見つかって撃ち落とされる前提で、数を増やして迎撃能力を飽和させる方が手っ取り早い。

裏を返せば、「そこそこの高度を」「比較的、低速で真っ直ぐに飛んでくる」「小さな経空脅威」は、自爆無人機の可能性が高いと判断できるわけである。

識別のカギは平時からの情報収集

ここまで、三種類の「識別の手がかり」について書いてきたが、いずれにも共通するのは、事前の情報収集が必須というところである。それは戦時になってから慌てても間に合わない種類の話で、平時からコツコツとデータを集めておかなければならない。

逆にいえば、そうした情報を与えないことも肝要になる。といっても現実問題としては、レーダー電波による識別の材料収集を妨げるための、電波放射管制(EMCON : Emission Control)ぐらいしか思いつかないが。

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。