2022年4月13日に黒海で、ロシア海軍の巡洋艦「モスクワ」が火災に見舞われたとの報があった。ロシア側の発表では原因に触れていないが、ウクライナ側は「RK-360MCネプチューン地対艦ミサイルで攻撃した」としている。どちらの言い分が正しいかどうかは措いておくが、原因はどうあれ、その「モスクワ」は翌日に沈没してしまった。

ユニークな電測兵装がいろいろ

そこで急遽、「こんなモノが載っている艦だよ」ということで、このクラスの電測兵装を取り上げてみることにした。幸いにも5年前に、同型艦の「ワリヤーグ」を間近で見ている。

「モスクワ」はもともと、旧ソ連時代にウクライナの造船所(!)で建造された艦で、当初の艦名は「スラバ」といっていた。だから、このクラスは一般に「スラバ型巡洋艦」と呼ばれる。さらに、2番艦「マーシャル・ウスチノフ」と3番艦「チェルヴォナ・ウクライナ」が登場した。いずれもロシア海軍が承継したが、1番艦は「モスクワ」、3番艦は「ワリヤーグ」に改称した。

  • シンガポールのチャンギ海軍基地で繋留中の「ワリヤーグ」 撮影:井上孝司

    シンガポールのチャンギ海軍基地で繋留中の「ワリヤーグ」 撮影:井上孝司

  • ズラリと並んだ艦対艦ミサイルの発射筒が目立つ 撮影:井上孝司

    ズラリと並んだ艦対艦ミサイルの発射筒が目立つ 撮影:井上孝司

ジェーン海軍年鑑によると、全長186.4m、全幅20.8m、吃水8.4m、満載排水量11,674t。いまどきの水上戦闘艦としては大きい部類に属する。そして目立つのは、上構から艦首にかけての両舷にズラリと並べたP-500バザーリト(西側コードネームはSS-N-12サンドボックス)艦対艦ミサイルの発射筒で、左右に連装発射筒を4基ずつ、合計16発も載せている。つまり、基本的には「対艦番長」である。後に改良型のP-1000を搭載したとの話。

そのほか、S-300Fフォールト(SA-N-6グランブル)艦対空ミサイルの8連装リボルバー型垂直発射システムを8基、合計64発。こちらは広域防空用である。このふたつが主兵装だが、他にもいろいろな飛び道具を載せている。ただし本稿は「軍事とIT」だから、電測兵装の話をメインにする。

対空捜索レーダー

今のロシア海軍は、比較的「普通の」外見を持つレーダーを作るようになったが、旧ソ連時代には面白い発想を持つレーダーがいろいろあった。

「ワリヤーグ」では、まず艦橋上部に載せたフレガートMA(トップ・プレート)がある。平面アンテナを使用する対空捜索レーダーならあちこちの国にあるが、フレガートMAは2枚の平面アンテナを背中合わせにして、しかもそれぞれ角度を変えて斜めに取り付けている。周波数帯はD/Eバンド。

この「角度を違えた背中合わせ配置」は、フレガートMAより前からいろいろ例がある。二次元レーダーでは距離と方位しか分からないが、それを斜めにして、かつ角度を変えて組み合わせると、レーダーが捜索する平面が交差することになるので、理屈の上では高度も計算できる。つまり二次元レーダーで三次元レーダーの仕事をさせるわけだが、計算は面倒そうだ。

ところがこれに加えて、MR-800ヴォスフォード(トップ・ペア)も載せている。こちらは長距離の対空捜索用で、周波数帯はC/Dバンド。このレーダーが面白いのは、ビッグ・ネットとトップ・セイルという、2種類の対空捜索レーダーを背中合わせにくっつけてしまったところ。

  • 右上がフレガートMA、左手がMR-800ヴォスフォード。後者は、左側にある横長のリフレクターがビッグ・ネット・レーダー、右側にある八角形のリフレクターがトップ・セイル・レーダー。それを背中合わせにくっつけて一緒に回転させる 撮影:井上孝司

    右上がフレガートMA、左手がMR-800ヴォスフォード。後者は、左側にある横長のリフレクターがビッグ・ネット・レーダー、右側にある八角形のリフレクターがトップ・セイル・レーダー。それを背中合わせにくっつけて一緒に回転させる 撮影:井上孝司

ビッグ・ネットもトップ・セイルもNATOがつけたコードネームだが、なかなかうまく外見の特徴を捉えているように思う。

射撃指揮レーダー

次に、射撃指揮レーダー。P-500/P-1000艦対艦ミサイル、130mm砲、S-300F艦対空ミサイル、4K33(SA-N-4ゲッコー)艦対空ミサイル、AK-630M近接防禦機関砲のそれぞれに射撃指揮レーダーがある。射撃指揮レーダーは精度が求められるから、捜索レーダーよりも周波数帯が高く、アンテナは小さい。

  • 艦橋上部の電測兵装群。最上部が前述のフレガートMA、その下の手前に付いているメッシュ型パラボラ・アンテナが艦対艦ミサイル誘導用のフロント・ドア(周波数帯はFバンド)、その下の円形パラボラ・アンテナが130mm砲管制用のカイト・スクリーチ(周波数帯はH/I/Kバンド) 撮影:井上孝司

    艦橋上部の電測兵装群。最上部が前述のフレガートMA、その下の手前に付いているメッシュ型パラボラ・アンテナが艦対艦ミサイル誘導用のフロント・ドア(周波数帯はFバンド)、その下の円形パラボラ・アンテナが130mm砲管制用のカイト・スクリーチ(周波数帯はH/I/Kバンド) 撮影:井上孝司

フロント・ドアやカイト・スクリーチはフツーの形をしたレーダーだが、とにかく度肝を抜かれるのが、S-300F用の3R41(トップ・ドーム)。中身はフェーズド・アレイ・レーダーだそうだが、半球形のレドームが付いている。この外見から何を連想するかは、人それぞれであろう。

1面アレイなので回転式で、脅威の方向に指向して使用する。後部のヘリ格納庫上に載せているので、レーダー・マストに邪魔されて艦首方向に死角ができるかと思ったが、仰角が大きければ問題ないかもしれない。

  • 奥にある巨大な物体が、S-300Fの管制に使用する3R41射撃指揮レーダー。その手前下方にあるのが、4K33用のMPZ-301(ポップ・グループ)射撃指揮レーダー 撮影:井上孝司

    奥にある巨大な物体が、S-300Fの管制に使用する3R41射撃指揮レーダー。その手前下方にあるのが、4K33用のMPZ-301(ポップ・グループ)射撃指揮レーダー 撮影:井上孝司

S-300Fの発射機は、この3R41レーダーと、その前方にある煙突との間の空間に収まっている。垂直発射システムを船体内に収めているので、横からは見えない。

4K33は、陸上用の9K33オーサ(SA-N-8ゲッコー。第372回を参照)の艦載版。無線指令誘導だから、目標を捕捉追尾するレーダーと、ミサイルに指令を送るアンテナが必要になる理屈。さらに妨害対策として光学センサーも備えている。上の写真でMPZ-301をよくよく見ると、左を向いた円形アンテナに加えて、上部に横長のリフレクターを備えたアンテナが載っているのが分かる。ただしこれは、9K33が備える同種のアンテナとは少し形が違う。

ちなみに4K33の発射機は、円形弾庫の中心に旋回式の連装発射機を配した構成だが、普段は発射機を引っ込めてあって、使用するときだけハッチを開けてせり上がってくる仕組み。

  • ヘリ格納庫の手前に半円形の張り出しがあり、その上部にハッチが付いている。この中に4K33の発射機4S33が収まっている 撮影:井上孝司

    ヘリ格納庫の手前に半円形の張り出しがあり、その上部にハッチが付いている。この中に4K33の発射機4S33が収まっている 撮影:井上孝司

その他

電子戦関連の装備は、上構の両側面、対空捜索レーダーを取り付けたマストの下の方に取り付いている。どこの国でもそうだが、電子戦装置は全周をくまなくカバーできるように、上構側面に取り付けるのがお約束。物理法則の問題だからイデオロギーが介入する余地はないが、空中線の外見には国ごとの個性が出るようだ。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。