宇宙誕生から数億年後の銀河は、なぜこれほど明るく見えるのか。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)による観測は、従来のモデルでは説明しにくい明るい初期銀河候補を相次いで示し、銀河形成理論に新たな問いを投げかけている。連載「最新研究から読み解く 天文学・宇宙物理学の最前線」の過去回はこちらを参照。

今回、紹介する論文「Investigating the star formation histories of galaxies from Cosmic Dawn to the Epoch of Reionization with the Santa Cruz SAM」は、その答えを未知の物理だけに求めるのではなく、星形成史の「時間の刻み方」に注目する方向性を示した。若い大質量星の寄与を丁寧に拾うことで、モデル銀河の紫外線光度が大きく変わり、観測との不一致が一部緩和される可能性があるという。

JWSTが浮かび上がらせた「明るい初期銀河」の問題

初期宇宙の銀河を調べるうえで、重要な統計量の1つが紫外線光度関数(UVLF)である。これはある時代の宇宙に、紫外線でどれくらい明るい銀河がどれくらい存在するかを表す。初期銀河では、若く高温の大質量星が強い紫外線を放つため、UVLFは星形成の活発さを探る有力な手がかりになる。

JWST観測は、赤方偏移10を超えるような非常に遠い宇宙で、従来の予想より明るい銀河候補を多数示してきた。こうした結果をどう解釈するかは、現在の銀河形成研究の大きなテーマの1つでもある。

本当に初期宇宙で星形成効率が異常に高かったのか、それとも理論モデル側に見直すべき部分があるのか。今回の研究は後者の可能性、特に「若い星の扱い方」に注目している。

初期銀河の星形成は短時間に集中する

研究チームが用いたのは、Santa Cruz SAMと呼ばれる半解析モデルだ。半解析モデルとは、銀河形成を完全な流体シミュレーションで直接解くのではなく、ダークマターハローの成長史を土台に、そのうえでガス冷却、星形成、超新星フィードバック、銀河合体といった過程を簡略化した物理処方として組み込む手法である。

対象とした時代は、およそ赤方偏移14から6にかけてで、宇宙黎明期から再電離期に相当する。再電離期とは宇宙初期、「宇宙の晴れ上がり」後の時期に中性水素で満たされていた宇宙空間が、最初の星や銀河からの紫外線によって再び電離されていった時代のことだ。

この研究が示した重要な点の1つは、初期宇宙の銀河では星形成史そのものが短い時間に圧縮されているということだ。

モデルでは、平均的な星形成率は時間とともに急速に上昇し、特に赤方偏移12以上の遠方銀河では、観測時点でその銀河が持つ星のかなりの部分が、数千万年程度という非常に短い時間幅で形成される傾向が示された。これは、初期銀河では星形成史全体が、現在の銀河に比べて短い時間に圧縮されていることを意味する。

これは単に宇宙年齢が若いからだけではない。宇宙初期には平均密度が高く、ダークマターハローの成長も比較的速い。ハローが短時間で成長すれば、そこへ流れ込むガス供給も増え、銀河全体の星形成率も急速に立ち上がる。

そのため、再電離前後の銀河では、観測されているその時点で銀河が持つ星質量の多くが、数千万年という短期間に形成されたように見えやすい。これは成熟した銀河で見られる一時的なスターバーストとは少し異なり、銀河そのものが形成初期の急成長段階にあることを反映している可能性が高い。

若い星を細かく扱うと、銀河はより明るくなる

本研究の核心はここである。銀河の明るさを理論的に求めるには、星形成史をもとに、その銀河がどの波長でどれくらい光るかを計算する必要がある。

このために使われるのが恒星種族合成モデルで、研究チームはBPASSというモデルを用いた。これは連星進化を含む点に特徴があり、若い大質量星が支配する初期銀河の紫外線放射を扱ううえで有用である。

ただし今回の研究の主眼は、連星効果そのものの検証ではなく、BPASSの細かい年齢ビンに合わせて星形成史を扱い、ごく若い星の紫外線寄与をより正確に反映することにある。

問題になるのは、星形成史をどれだけ細かい時間刻みで表すかだ。従来のモデルでは、0k~10Myr(1Myrは100万年)のように、1000万年単位の粗い時間ビンで星の年齢をまとめて扱うことが多かった。

しかし若い大質量星は、誕生直後ほど紫外線が強く、数Myrの違いでも寄与が大きく変わる。0~数Myrの非常に若い星と、10 Myr近く経った星をひとまとめにすると、生まれたばかりの星の強い紫外線が平均化され、銀河全体の紫外線光度を過小評価する可能性がある。

  • 最新研究から読み解く 天文学・宇宙物理学の最前線 第9回

    同じ初期銀河の星形成史を、粗い10Myrビンで扱う場合と、より細かい年齢ビンで扱う場合の違いを示した模式図。細かいビンを用いると、0~数Myrの非常に若い大質量星による強い紫外線寄与を反映しやすくなる

研究チームがより細かい年齢ビンを用いて計算したところ、モデル銀河の遠紫外線光度は最大で約2等級明るくなった。そして、JWST観測と比較したUVLFでも、従来の粗い扱いより観測に近づく傾向が示された。

  • 最新研究から読み解く 天文学・宇宙物理学の最前線 第9回

    赤方偏移(z=10)から(z=12)における紫外線光度関数(UVLF)。紫の実線は、若い星の年齢を1Myr幅で細かく扱った今回の結果、シアンの線は従来の10Myr幅の年齢ビンを用いた結果を表す。若い星の寄与を細かく反映すると、モデル銀河は紫外線でより明るく見積もられ、JWST観測とのずれが小さくなる

ここでは、赤方偏移10、11、12におけるUVLFが抜き出されている。横軸は銀河1個あたりの紫外線での明るさ、縦軸はその明るさの銀河が単位体積あたりどれだけ存在するかを表す。

紫の線が今回のように若い星を細かく扱った結果、シアンの線が従来の粗い時間ビンで扱った結果に対応する。若い星の寄与をより正確に取り込むと、モデル上の銀河は明るい側へ移り、観測点とのずれが縮まることが分かる。

もちろん、この研究だけでJWST初期銀河問題が完全に解決したわけではない。特に赤方偏移12を超える非常に明るい銀河については、ガスが星へ変わる効率、大質量星や超新星爆発による後続の星形成の抑制、ダストによる紫外線の吸収、観測で明るい銀河が選ばれやすい影響など、なお不確実性が残る。

それでも今回の研究は、初期銀河の明るさを議論する際、星形成史の時間分解能と若い大質量星の寄与を精密に扱う必要があることをはっきりと示した。初期宇宙の銀河は、その若さゆえに数Myrという短い時間差で銀河の見え方を大きく変える。

JWSTが見せ始めた初期宇宙の風景を正しく読み解くには、銀河形成理論の側もまた、若い星の時間スケールにより敏感である必要があるのだ。