東京大学 国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)は2月7日、アルマ望遠鏡の観測データを用いた分析から、約130億光年離れた超大質量ブラックホールを含む2つの銀河のハローにおいて、ダークマターが優勢であることを発見したと発表した。

同成果は、北京大学のQinyue Fei氏、Kavli IPMUのジョン・シルバーマン教授、米・テキサス大学オースティン校の藤本征史氏らが参加する国際共同研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載された。

銀河が星とガスだけで構成されている場合、銀河の運動はニュートン力学に従えば、銀河外縁部の星や星間ガスの運動速度は銀河中心付近のそれらよりも遅くなるはずである。太陽系でも内側の惑星ほど速く、水星の軌道平均速度は秒速47.36kmで、海王星は秒速5.44kmだ。ところが、女性天文学者のヴェラ・ルービン博士が1970年代に近傍の銀河を観測した結果、銀河の外縁部が予想よりも速い速度で回転していることが判明。その現象は後に「平坦な回転曲線」と命名された。それは、銀河を取り囲むように大量の見えない存在である「ダークマターハロー」により、銀河中心から遠く離れた場所の星やガスが高速で移動できているということを示すものだった。ダークマターが持つ重力作用が、銀河において重要な役割を果たしていることを示す最初の発見だったのである。

  • P009-10のハロースケールでの電離炭素ガスの分布と電離炭素放射の速度場

    (左)カラー画像と黒の等高線で示されるP009-10のハロースケールでの電離炭素ガスの分布。クェーサー(大きな黒十字)を中心とする銀河中心核のガス分布は、紫色の等高線で示されている。(右)ー200km/s(青)から+200km/s(赤)までの電離炭素放射の速度場。巨大なダークマターハロー内で一貫した回転が示されている。(c) Fei et al.(出所:Kavli IPMU Webサイト)

しかし、初期の宇宙におけるダークマターの存在や分布については、その重要性にも関わらず、これまで観測的な証拠が得られたことがなく、依然として謎のままだ。そこで研究チームは今回、約130億光年離れた超大質量ブラックホールを内包する銀河のダークマターの存在量を調べたという。

今回の研究では、ルービン博士が近傍銀河の回転曲線からダークマターハローの存在を示したのと同様の手法が、遠方宇宙の銀河に対して適用された。アルマ望遠鏡による観測で得られた電離炭素の輝線のデータを用いることで、赤方偏移6の遠方(およそ130億光年)にある2つの超大質量ブラックホールを持つクェーサーの親銀河のガスの運動が調べられた。銀河のガスの速度変化は、望遠鏡のある地球に向かってくる青方偏移と、地球から遠ざかる赤方偏移によって捉えることができる。そして分析の結果、それぞれの銀河の回転曲線から、ダークマターが銀河を含むシステム全体の総質量の約60%を占めていることが明らかにされた。

近年、別の研究チームが、今回の研究対象よりも手前の遠方銀河の回転曲線において、外縁部で速度の減少が見られることを報告している。これは、その銀河におけるダークマターの割合が低いことを意味するという。しかし今回のデータ分析では、超大質量ブラックホールを持つ遠方銀河の回転曲線も近傍の巨大円盤銀河と同様に平坦であり、外縁部でも星やガスが高速で運動していることが示された。これは、銀河のハローに大量のダークマターが存在することを示唆しているとする。研究チームは今回の成果について、ダークマターと超大質量ブラックホールの複雑な関係性に新たな光を当て、初期宇宙から現在に至る銀河の進化の理解に新たな洞察を与えるものとしている。

  • 遠方銀河の回転曲線

    遠方銀河の回転曲線。今回のデータ(赤線と青線)は、赤方偏移z~0付近の近傍の巨大円盤銀河(灰色の破線)と類似しており、回転曲線は比較的平坦なままである(外縁部でも速度が高い)。これは、その高い速度を説明するためにはダークマターが優勢である必要を示す。赤方偏移2~3の他の銀河(灰色のデータポイント)の結果は、銀河外縁部での回転曲線の減少が示されている。これは、ダークマターの割合が低いことを意味する。(c) Fei et al.(出所:Kavli IPMU Webサイト)