1977年に観測され、地球外知的生命が発した電波だった可能性も議論されてきた「Wow!(ワオ!)シグナル」。この謎の信号の発見から50年となる2027年8月に、信号が到来したとみられる「いて座」の方向を、世界各地の電波望遠鏡や光学望遠鏡で集中的に観測する計画が動き始めた。

日本SETI研究会(会長:鳴沢真也氏)は2026年7月7日、国内外の観測施設や専門機関、アマチュア無線家などに、世界合同観測への参加を呼びかけた。日本発の国際的な観測によって、宇宙のどこかに存在するかもしれない地球外知的生命からの信号を探る。

  • 50周年記念観測を行う施設のひとつ、和歌山・紀美野町にある「みさと天文台」の全景 (撮影:<a href="http://www.obs.jp/gallery/version2.0/index.php" target=”_blank”>紀美野町 みさと天文台</a> 撮影日時:2020年10月1日)

    50周年記念観測を行う施設のひとつ、和歌山・紀美野町にある「みさと天文台」の全景 (撮影:紀美野町 みさと天文台 撮影日時:2020年10月1日)

たった一度だけ観測された、謎の電波「Wow! シグナル」

Wow! シグナルが記録されたのは、1977年8月15日のことである。米オハイオ州立大学の電波望遠鏡「ビッグ・イヤー」が、いて座の方向から届いたとみられる強い電波を捉えた。

信号は、地球外文明が通信に使う可能性があると考えられてきた1,420MHz付近で、狭い周波数幅に集中していた。1,420.40575MHzは、中性水素原子が放つ「21cm線」の周波数だ。水素は宇宙で最もありふれた元素であり、異星文明にとっても認識しやすい共通の目印になりうる。このため、地球外知的生命探査(SETI)の分野では、この周波数帯が古くから重要な観測対象とされてきた。

ビッグ・イヤーは、地球の自転によって観測方向が移動することを利用し、空を走査していた。Wow! シグナルは約72秒にわたって記録され、強度が徐々に増してピークに達したのち、再び弱まった。この変化は、天球上でほぼ動かない点状の電波源が望遠鏡のビームを横切った場合に予想される形とよく一致していた。

  • 1977年に、Wow! シグナルを観測した米オハイオ州立大学の電波望遠鏡「ビッグ・イヤー」 Image credit: Big Ear Radio Observatory and North American AstroPhysical Observatory (NAAPO)

    1977年に、Wow! シグナルを観測した米オハイオ州立大学の電波望遠鏡「ビッグ・イヤー」 Image credit: Big Ear Radio Observatory and North American AstroPhysical Observatory (NAAPO)

観測データには、信号強度の時間変化を表す「6EQUJ5」という文字列が印字されていた。数日後に記録を確認した天文学者ジェリー・イーマンは、この特徴的な信号に驚き、赤ペンで「Wow!」と書き込んだ。これが「Wow! シグナル」という名称の由来だ。

ただし、この信号が地球外文明から送られたものだと確認されたわけではない。その大きな理由は、同じ信号が二度と捉えられていないことにある。その後も複数の追観測が行われたが、再検出には至っていない。地球由来の電波干渉や未知の天体現象など、さまざまな可能性が検討されてきたものの、正体は現在も確定していない。

  • 観測データに記録された、信号強度の時間変化を表す「6EQUJ5」という文字列と、天文学者ジェリー・イーマンが書き込んだ「Wow!」 Image credit: Big Ear Radio Observatory and North American AstroPhysical Observatory (NAAPO)

    観測データに記録された、信号強度の時間変化を表す「6EQUJ5」という文字列と、天文学者ジェリー・イーマンが書き込んだ「Wow!」 Image credit: Big Ear Radio Observatory and North American AstroPhysical Observatory (NAAPO)

Wow! シグナル発見50周年、世界中の望遠鏡で集中観測へ

Wow! シグナルの発見から50年となる2027年8月に、信号が到来したとみられるいて座の方向を、世界各地の電波望遠鏡や光学望遠鏡で集中的に観測する計画が進められている。国内外の観測施設や専門機関、アマチュア無線家などに世界合同観測への参加を呼びかけ、電波と光の双方で地球外知的生命からの信号を探る。

この合同観測を主導するのが、2026年4月8日に設立された日本SETI研究会だ。科学的手法に基づくSETIの観測・研究を進める任意団体で、SETI研究を掲げる組織としては国内初だという。

同研究会の会長を務めるのは、兵庫県立大学専任講師の鳴沢真也氏。同氏は約30年にわたりSETIに取り組み、2010年には、世界初の近代的なSETI観測であるオズマ計画の50周年を記念した世界合同SETI「ドロシー計画」を主導した。

50周年観測に向け、日本では、和歌山県紀美野町の「みさと天文台」にある口径8mの電波望遠鏡を使った観測が計画されている。

観測期間は2027年8月で、とくにWow! シグナルが検出された8月15日前後の観測が推奨されている。正確な日時は、各観測所がそれぞれの条件に応じて決める。電波観測では、2025年に公表された再解析をもとに、1,420.726MHzでの観測が推奨されているが、設備に応じて異なる周波数で観測することも歓迎している。また、人工的な光信号を探す光SETIによる観測への参加も呼びかけている。

観測する領域は、2000年時点を基準とした天球座標(J2000)で、赤経19時25分02秒±3秒、または赤経19時27分55秒±3秒、赤緯はいずれもマイナス26度57分±20分。候補位置がふたつあるのは、ビッグ・イヤーにふたつの受信ホーンがあり、どちらでWow! シグナルを捉えたのか特定できないためだ。

さらに、この領域にある太陽型星「2MASS 19281982−2640123」を中心とした観測も推奨されている。光SETIでは、とくにこの恒星を観測対象とするよう呼びかけている。

同じ方向を複数の施設で同時に観測できれば、候補信号が現れた際に、特定の観測所で生じた機器の異常や地域的な電波干渉を切り分けやすくなる。また、電波と光の両方で観測することで、地球外文明の通信手段を電波だけに限定せず、異なる種類の信号を探せる。

再受信だけが成功ではない、その理由とは?

もちろん、50周年は観測する側にとっての節目にすぎず、同じ信号が再び現れることを予測する科学的な根拠にはならない。Wow! シグナルが地球外文明からの信号だったとしても、2027年8月にふたたび届く保証はない。

それでも、今回の観測には大きな意義がある。SETIは、一度の観測だけで結論を出せる研究ではない。候補信号を捉えた場合には、別の望遠鏡による追観測や、周波数の時間変化、観測方向との対応などを調べ、地上の電波や機器の影響をひとつずつ排除する必要がある。そのためには、観測施設間で情報を共有し、独立した観測によって検証できる体制が欠かせない。

観測技術も、1977年当時から大きく進歩した。現代の観測装置は、より広い周波数帯を細かな周波数分解能で調べ、膨大なデータを記録・解析できる。AIを用いて、大量の観測データから不自然な信号候補を選び出す研究も進んでいる。明確な信号が得られなかったとしても、合同観測を通じて観測や解析の経験を蓄積し、将来の候補信号の追跡に備えられる。

また、専門の研究機関だけでなく、アマチュア無線家や市民科学者も参加できる点も重要だ。長期的な観測を必要とするSETIでは、観測を担う人材と施設の裾野を広げることが、研究を継続する力になる。50周年という節目に再観測を行うことは、未解決の信号をもう一度見つめ直すだけでなく、次の世代へSETIをつなぐ機会にもなる。

50周年観測は、過去の謎を追う試みであると同時に、人類が地球外知的生命を科学的に探すための観測網を、未来へ向けて築く取り組みとなるだろう。

参考文献