広島大学は6月19日、米国ニューメキシコ州のカール・ジャンスキー超大型干渉電波望遠鏡群(VLA)とチリのアルマ望遠鏡を用いて、ビッグバンから約7億年後(約131億年前)の宇宙に存在した遠方銀河「REBELS-25」において、星形成の直接的な材料となる「冷たい分子ガス」を大量に検出することに成功したと発表した。

  • 宇宙誕生から現在までの進化と「宇宙の夜明け」に存在していたREBELS-25の位置を示した模式図

    宇宙誕生から現在までの進化と、宇宙誕生から約7億年後(約131億年前)の「宇宙の夜明け」の時代に存在していたREBELS-25の位置を示した模式図。VLAおよびアルマ望遠鏡による詳細観測により、同銀河にはすでに大量の冷たい分子ガスが存在していたことが明らかにされた。(出所:広島大プレスリリースPDF)

同成果は、広島大 宇宙科学センターの稲見華恵准教授を含む国際共同研究チームによるもの。詳細は、英国王立天文学会が刊行する旗艦論文誌「Monthly Notices of the Royal Astronomical Society」に掲載された。

星形成の“燃料”を初めて直接検出

約138億年前に誕生した宇宙は、約38万年が経過して十分に冷却されると、原子核が電子を捉えたことで光が直進できるようになった。これが「宇宙の晴れ上がり」であり、この時最初に直進した光が現在では宇宙膨張によって波長を伸ばされ、あらゆる方位から届く「マイクロ波宇宙背景放射」として観測されている。

「宇宙の晴れ上がり」はビッグバンの終了を意味するが、この時点で宇宙には星が1つもなく、真の暗闇に包まれていた。その後1~2億年が経過し、ビッグバン元素合成で誕生した、全宇宙の物質の約4分の3を占める水素、約4分の1を占めるヘリウム、そして極めてわずかなリチウムから、第一世代の星「ファースト・スター」が誕生した。これが「宇宙の夜明け」であり、宇宙に初めて光を放つ存在が誕生した。その後、星々が集まって初期の銀河が形成され、長い時間をかけてそれらが成長していくと同時に、宇宙の大規模構造も形成されていった。

近年のジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)などによる観測により、宇宙誕生から10億年に満たない初期の時代に、すでに非常に大きく明るい銀河が存在していたことが明らかにされている。年代が確認できている中では、最古のものは約134~135億年前のものになる。しかし、ファーストスターが宇宙誕生から約1~2億年後に形成されたのだとすると、そうした星々の集まりである初期の銀河が、宇宙誕生から約3~4億年という時代にはできていたことになり、極めて短期間に成長したことが推測される。しかし、その急成長のメカニズムは、これまで詳しく解明されていなかった。

銀河が成長するためには、星を生み出す材料となる水素やヘリウムなどを主成分とする大量のガスが必要となる。それも、-260℃以下という極めて低温の分子ガスである。極低温であることで分子運動が弱くなるため、微弱な重力が打ち勝ってガスが収縮して星の卵である分子雲が形成されていくのである。

この初期宇宙の銀河における冷たいガスの観測が試みられているが、大きな課題があった。初期宇宙は空間的に現在よりも極めて小さかったため、全方位から届く電磁波である宇宙背景放射が現在よりも強く、冷たいガスの観測を阻んでいたのである。そのため、これまで初期宇宙の銀河において冷たい分子ガスを直接観測した例は存在していなかった。

それでも研究チームは今回、VLAとアルマ望遠鏡という高性能な電波望遠鏡を用いて、宇宙誕生から約7億年後(現在から約131億年前)の「宇宙の夜明け」の時代に存在する遠方銀河の中では、特別に明るい「REBELS-25」の冷たいガスの観測を試みたという。

VLAでは、一酸化炭素(CO)分子が放射する特定周波数の電波を捉えることで、冷たい分子ガスの観測が行われた。その結果、宇宙初期としては過去最遠方クラスとなるREBELS-25からの低励起CO輝線の検出に成功。さらに、アルマ望遠鏡の観測データと組み合わせることで、同銀河内のガスの温度や密度が詳細に推定された。そして、検出された信号の強さから、同銀河内にすでに大量の星形成ガスが存在していることが示された。これは、初期宇宙の銀河が非常に効率的に星形成を進めていたことを裏付ける重要な証拠とする。従来考えられていたよりもはるかに速い速度で、銀河が成長していた可能性が示された。

ただし今回の成果は、初期宇宙に存在した1つの銀河についての結果に過ぎない。従って、このような大量のガスが初期宇宙の銀河でどれほど普遍的だったのかを確かめるには、今後、さらに多くの銀河を対象とした統計的な観測が不可欠となる。しかし、現在の最先端望遠鏡であっても感度が不十分であり、今回のような遠方銀河の観測を大規模に行うことは困難だという。そのため、現在進められているアルマ望遠鏡の大規模アップグレード計画や、建設が計画中の次世代電波望遠鏡「ngVLA」によって、研究が大きく進展することが期待されている。

強化されたアルマ望遠鏡やngVLAが稼働することで、REBELS-25のような特別に明るい銀河だけでなく、より暗く、さらに遠方に存在する初期銀河の観測も可能になると考えられている。将来的には、宇宙最初期の銀河がどのようにガスを集め、どのように星形成を開始し、現在の巨大銀河へ成長していったのか、その仕組みの解明につながることが期待されるとしている。

広島大の稲見准教授は今回の成果に対し、「単に燃料が豊富だっただけなのか、それとも星形成を加速する特別な物理過程が働いていたのかは、まだ大きな謎として残されています。今回の成果は、その解明に向けた新たな一歩になると期待しています」とコメントしている。