宇宙では、いつ、どれほど多くの星が生まれてきたのか。この問いに答えるため、天文学者は長年、銀河の紫外線や赤外線などから星形成率を推定し、宇宙全体の星形成史を描いてきた。連載「最新研究から読み解く 天文学・宇宙物理学の最前線」の過去回はこちらを参照。
とりわけ約100億年前の「宇宙正午」(後述)には、星形成活動が現在よりはるかに活発だったと考えられている。ところが今回紹介する研究論文「Do we understand the star formation history of the universe?」では、銀河の恒星質量分布が時代とともにどう変化したかをもとに、銀河が平均してどれだけ星を形成してきたかを逆算したところ、宇宙正午における単位体積あたりの星形成率は、従来の推定より低くなった。宇宙の星形成史には、なお解けていない質量収支の問題が残っている可能性がある。
銀河の光から星形成率を調べる
星を形成している銀河では、含まれる星の総質量が大きいほど、一般に星形成率も高い。この関係は「星形成主系列」と呼ばれる。ここでいう主系列は、恒星を分類する際の主系列星とまぎわらしいがそれとは別物であり、銀河の恒星質量と、1年間にどれだけの質量の星を作るかを示す星形成率との相関を意味する。
通常、恒星質量と星形成率は、銀河から届く光を解析して求める。恒星質量の推定には、紫外線から近赤外線までの複数の波長で測った明るさをつなぎ合わせた「スペクトルエネルギー分布」が使われる。これを、年齢や金属量の異なる恒星集団がどのような光を出すかを計算したモデルと比較し、銀河に存在する星の総質量を推定する。
一方、星形成率の手がかりになるのは、寿命が短く明るい大質量星である。若い大質量星が放つ紫外線、星の紫外線や可視光を吸収したダストが放つ赤外線、周囲の水素ガスを電離して生じるHα輝線などから、最近の星形成活動を調べられる。
ただし、これらの推定には、ダストによる光の吸収、銀河が過去にどのように星を作ってきたか、形成される星の質量分布などについて仮定が必要になる。特に星形成率は、採用するダスト補正や星形成史によって変わり得る。異なる研究から得られた星形成主系列に食い違いがあるのは、このためである。
銀河の質量分布から星形成率を逆算
本研究でSahil Hegdeらは、個々の銀河の光から星形成率を直接求めるのではなく「恒星質量関数」の時間変化を利用した。恒星質量関数とは、ある時代の宇宙に、各恒星質量を持つ銀河が単位体積あたり何個存在するかを表した分布である。一般に、恒星質量の小さい銀河は多く、非常に大きな銀河になるほど数は少なくなる。
銀河で新たな星が作られると、その銀河の恒星質量は増加する。したがって、異なる時代の恒星質量関数を比較すれば、銀河集団が低質量側から高質量側へどれほど移動したかが分かる。その変化を引き起こすために必要な平均的な星形成率を、逆方向に計算できるのである。
研究チームは、地上望遠鏡、ハッブル宇宙望遠鏡、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)による観測をまとめ、赤方偏移0.1~9の恒星質量関数を解析した。これは現在に近い宇宙から、宇宙誕生後約5億年までを覆う。対象とした恒星質量は、太陽質量の約1億~1000億倍である。
ただし、恒星質量関数を変化させるのは星形成だけではない。銀河同士が合体すれば銀河数と質量分布が変わり、星形成を停止した銀河は、星形成銀河の集団から離脱する。研究チームは、こうした銀河合体と星形成停止の影響も考慮した。
従来より低い星形成率を示す主系列
恒星質量関数から逆算された星形成主系列は、カナダのトロント大学などで活動するJoshua S. Speagle(ジョシュア・S・スピーグル)氏らや、欧州南天天文台などに所属するPaola Popesso(パオラ・ポペッソ)氏らが多数の観測研究をまとめて構築した、広く使われている関係とは異なっていた。
同じ恒星質量の銀河を比べると、今回推定された平均星形成率は、過去の宇宙では従来の関係より低めで、赤方偏移に伴う変化も緩やかだった。ただし、現在に近い局所宇宙では、両者はほぼ同じ値に収束する。
一方この結果は、JWSTによってHα線や紫外線を分光観測して求めた赤方偏移2~7の星形成率とよく一致した。また、銀河の星形成史やダストなどを柔軟に扱う近年のスペクトルエネルギー分布解析とも整合した。
理論モデルとの比較では、IllustrisTNGなどが予測する赤方偏移に伴う変化の傾向とよく似ていた。ただし、絶対値まで完全に一致するわけではなく、IllustrisTNGの星形成率は、今回の推定より最大で2倍弱高かった。
これは、従来の星形成主系列が直ちに誤りだったことを意味しない。異なる観測指標や解析方法に含まれる系統誤差を考慮すると、どの関係が実際の平均的な銀河成長を最も正確に表しているのかは、まだ確定していない。
ただ、従来の主系列をそのまま時間積分すると、観測された恒星質量関数の変化から許容される以上に、銀河の恒星質量を速く増加させてしまう可能性があることを、今回の研究は改めて示した。
「宇宙正午」のピークが低くなった
宇宙全体の星形成活動は、現在から約100億年前、赤方偏移2前後で最も活発だったと考えられている。
この時代は「宇宙正午」と呼ばれる。1日の正午に太陽が高くなることになぞらえ、宇宙の星形成活動が頂点に達した時代を表す言葉である。研究チームは、今回求めた星形成主系列と恒星質量関数を組み合わせ、単位体積・単位時間あたりにどれだけの星が作られたかを示す「宇宙星形成率密度」を計算した。その全体的な時間変化は、銀河の紫外線光度などから得られてきた従来の宇宙星形成史と似ていた。
しかし、宇宙正午におけるピークの高さは、従来広く用いられてきた光度密度由来の推定値の約2分の1~3分の1だった。つまり、恒星質量の蓄積量から逆算すると、宇宙正午の星形成活動は、紫外線や赤外線から推定されてきたほど大きくなくてもよいことになる(図2)。
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星形成率密度(縦軸)の赤方偏移(横軸)による変化。黒実線が、恒星質量関数の進化から推定した今回の結果。全体的な時間変化は従来の推定と似ているが、赤方偏移2前後の「宇宙正午」では、星形成活動のピークが従来広く用いられてきた光度密度由来の推定より低くなっている
ここには、星形成率から予想される恒星質量の蓄積量と、実際に観測される恒星質量の増加が一致しないという、以前から知られてきた不整合が現れている。従来の推定どおり宇宙正午に大量の星が形成されたなら、その後の宇宙には、それに対応する恒星質量が残るはずである。
ところが、観測された恒星質量関数の成長は、それほど大きな星形成率を必要としていない。今回の研究は、この食い違いの原因を特定したものではない。論文でも、原因の詳細な検討は今後の課題とされている。
宇宙の星形成史はまだ完成していない
不整合の背景には、紫外線光度を星形成率に変換する方法、ダストによる減光の補正、恒星質量の推定、恒星初期質量関数の仮定、観測領域の違いによる宇宙分散など、複数の要因が関係している可能性がある。
一方、今回の手法も恒星質量関数の測定に依存しており、観測可能な銀河の範囲や恒星質量の推定誤差から自由ではない。そのため、この研究は従来の宇宙星形成史を否定したものではなく、異なる観測量から導かれる星形成史を一つの整合した像にまとめるには、なお検証が必要だと示したものといえる。
宇宙で星がいつ、どれだけ作られたのかは、銀河進化を理解するための最も基本的な問題の一つである。JWSTによって初期銀河の観測が急速に進む一方、その全体像には今なお埋めるべき不整合が残されている。
