南アフリカとオーストラリアで建設が進むSKA Observatory(SKAO、Square Kilometre Array Observatory)は、次世代の大型電波望遠鏡計画である。日本はSKAOの正式加盟国ではないが、国立天文台などを中心に協力関係が進められており、SKAO CouncilにはObserverとして参加している。日本ではまだ一般的な知名度は高くないが、電波天文学の将来を担う国際観測施設として大きな期待を集めている。連載「最新研究から読み解く 天文学・宇宙物理学の最前線」の過去回はこちらを参照。
SKAOは、オーストラリアに建設されるSKA-Low(50 - 350 MHz)と、南アフリカに建設されるSKA-Mid(350 MHz - 15.4 GHz)からなる。
段階的に建設・検証が進められており、2020年代後半にかけての第一期では、SKA-Lowが合計13万1,072本の対数周期ダイポールアンテナを256本ずつ512ステーションに配置し、SKA-Midは既存のMeerKAT電波望遠鏡を含む197基の可動式パラボラアンテナを配置する予定である。
今回紹介する論文「Pulsar Science with the SKAO」は、このSKAOによってパルサー研究がどのように進展するかを概観した展望論文である。新しい観測結果を報告するものではなく、SKAO時代に期待されるパルサー科学進展の全体像を概括したものだ。
パルサーが注目されるわけ
パルサーは高速回転する中性子星であり、ミリ秒から数秒程度の間隔で周期的な電波パルスとして観測される天体である。中性子星は重い恒星が超新星爆発を起こした後に残る高密度天体で、太陽程度の質量が半径10キロメートルほどの領域に押し込められている。
強い磁場を持つ中性子星が高速で自転すると、磁極付近から放射される電波ビームが宇宙空間を掃く。そのビームが、灯台の光のように地球方向を横切るたびに、私たちは規則正しいパルスとしてそれを観測する。
特に重要なのがミリ秒パルサーだ。これは数ミリ秒から数十ミリ秒という極めて短い周期で自転するパルサーで、パルスの周期が非常に安定している。そのため宇宙の「精密時計」としての活用が注目されている。SKAOが目指すパルサー科学の中心には、この精密時計を多数発見し、長期間にわたって測り続けるという構想がある。
現在、知られているパルサーは4000個を超えるが、天の川銀河内にはそれよりはるかに多くのパルサーが存在すると考えられている。論文では、SKA-LowとSKA-Midによるサーベイにより通常のパルサー約一万個、ミリ秒パルサー約800個の検出が期待されるとしている。これは既知パルサー数を大きく増やす規模であり、パルサーを使った宇宙物理学の土台を一変させる可能性がある。
重力波を調べる時計ネットワーク
では、より多くのパルサーを見つけることにはどんな意義があるのだろうか。ミリ秒パルサーを多数、長期間にわたって精密観測すると、パルス到着時刻のごくわずかなズレから、ナノヘルツ帯、すなわち周期が数年から数十年におよぶ低周波重力波を探ることができる。これはパルサータイミングアレイ(PTA)と呼ばれる手法である。
地上の重力波望遠鏡であるLIGOやVirgoが主に捉えるのは、恒星質量ブラックホールや中性子星が合体直前に高速で公転して放つ高周波の重力波である。
これに対しPTAが対象とするのは、銀河中心にある超大質量ブラックホール連星が、合体よりはるか前の段階でゆっくり公転しながら放つ低周波の重力波である。同じ重力波でも、発生源の質量、サイズ、時間スケールが大きく異なる。
また、連星パルサーは強重力場を調べる実験場にもなる。中性子星同士、あるいは将来発見される可能性のあるパルサー・ブラックホール連星では、軌道の近星点移動、重力赤方偏移、シャピロ遅延、重力波放出による軌道周期変化などが高精度で測定できる。
これらは一般相対性理論の予言を検証するだけでなく、一般相対性理論を拡張・修正する代替重力理論を制限する手がかりにもなる。
中性子星内部とパルサー磁気圏
パルサーは、中性子星そのものを調べる手段でもある。中性子星内部では、通常の原子核に相当する密度を上回る高密度物質が存在すると考えられているが、その圧力と密度の関係、すなわち状態方程式はまだ完全には分かっていない。
パルサーの質量、スピン、連星軌道、突発的な自転変化であるグリッチなどを詳しく調べることは、超高密度物質の性質に迫る手がかりとなる。
さらに、パルサーの電波放射そのものにも未解決問題が残っている。パルサーが灯台のように見える幾何学的な理由は理解されている。しかし、強磁場と高速回転によって作られるパルサー磁気圏のどこで、どの粒子集団が、どのように位相を揃えて強いコヒーレント電波を放射しているのかは、完全には解明されていない。
SKAOでは、多数のパルスを平均した姿だけでなく、1回ごとのパルスの変動や偏波、広い周波数帯での同時変化を詳しく調べることができ、この問題に迫る重要な手段となる。
銀河系探索ツールとしてのパルサー
パルサーは銀河系そのものを調べる道具にもなる。パルサーから届く電波は、星間プラズマを通過する際に分散、散乱、およびプラズマ中の磁場の影響により偏波面が回転するファラデー回転を受ける。
これらを測定すれば、銀河系内の自由電子の分布、プラズマの乱流、磁場構造を調べることができる。SKAOによって観測できるパルサーの数が増えれば、銀河系の電子密度や磁場の三次元地図をより精密に描ける可能性がある。
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パルサー発見数の推移。新しい電波望遠鏡や観測技術の登場に伴い、既知のパルサー数は増加を続けてきた。近年はGMRT、MeerKAT、FASTなどが発見数を押し上げており、SKAOもこの流れをさらに加速すると期待される
この論文は、パルサーをより多く見つけ、精密に測り続けることで、重力波、強重力、中性子星内部、パルサー磁気圏、銀河磁場、星間物質を同時に調べる観測基盤を、SKAOが提供し得ることを示している。つまりSKAOは、パルサーを宇宙物理学の多目的な測定器として使う時代にわれわれをいざなうのである。
