第101回で、ロッキード(当時)製の軍用輸送機、C-141の話を書いた。使ってみたらペイロードの上限に達する前に貨物室の容積を使い切ってしまう事例が多発したため、C-141Aに対して胴体を延長する改造をやって、C-141Bになったという話であった。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照
軍用輸送機のストレッチは前方偏重
軍用輸送機でも民間輸送機でも、胴体を延長したモデル、つまりストレッチ型の事例はある。というか民間機では、当初から全長が異なる複数のバリエーションを用意することが前提になっているところもある。
一例としてエアバスA350を側面から撮影した写真を示す。完全に同じアングルではないが、胴体長の違いはお分かりいただけると思う。
こうして比較してみると、A350-1000はA350-900と比べて、主翼の前後でそれぞれ胴体を延長している様子が見て取れる。
では軍用輸送機はどうか。第101回で例に挙げたC-141Bの場合、基本型と比べると、主翼の前方で露骨に伸びている。具体的にいうと、主翼の前方で7.11mの延長になる。後方は手を付けていないようだ。
それと比べると目立たないが、C-130Jのストレッチ型・C-130J-30(これは改造ではなく新造だが)でも、主翼の後方よりも主翼の前方で胴体を伸ばしている様子が分かる。ただ、主翼の後方もいくらか伸ばしている。その違いは、主翼の後縁部と、垂直尾翼から前方に延びたフィンの位置関係を比較してみると分かりやすい。
ちなみに、鉄のカーテンの向こう側でも軍用輸送機のストレッチ型を企図した事例があったとのこと。それがイリューシンIl-76のストレッチ型・Il-76MFだが、予算不足で試作のみに終わった由。この機体では主翼の前後で均等に3.3mずつ伸ばしていて、その理由はまさに重心位置の維持にあったようである。
試作止まりだったIl-76MFはともかく、C-141BにしろC-130J-30にしろ、延長の量は主翼前方の方が大きい。均等に増やしていないのには、相応の理由があるはず。
胴体を伸ばしたときの尻餅問題
前後の重量バランスを変えない、という観点からすれば、素人考えだと、前後で均等に伸ばすのがいいのではないかと思いたくなるが、そうも行かない理由がある。
例えば、離着陸時に機首上げ姿勢をとったときに、後部胴体の下面と地面の間のクリアランスが不足すると、胴体下面を擦ってしまう。これがいわゆる尻餅。胴体を延長すると、これが問題になる。
離着陸の際には機首上げ姿勢になるので、そこで尻餅が問題になる。地上に駐機している状態、あるいは空中で飛んでいるときの状態だけ見ると忘れそうになるが。
機首上げの角度が同じでも、主脚の位置を変えずに胴体を後方に伸ばせば、後部胴体の下面はその分だけ地面に近接する。民間輸送機は降着装置が比較的長いからまだマシだが、それでも主脚を延伸してクリアランスを稼いだ事例がある。
その一例がボーイング767-400ERで、主脚を46cm長くしている。あいにくと日本のエアラインでは導入しておらず、筆者も生で見たことがないのは残念。
ところが軍用輸送機の場合、おいそれと主脚を長くできない。尻餅防止のために主脚を長くすれば、その分だけ床面が高くなってしまい、後部カーゴランプの設計に影響が出る。
主脚の延長によって床面高が高くなり、もしもカーゴランプが地面に届かなくなった、なんていうことになれば一大事。よしんば届いたとしても、カーゴランプを降ろしたときの勾配が急になれば、搭載・卸下の作業に影響する。といって、カーゴランプを長くすると、後部胴体がまるごと設計やり直しになってしまう。
と考えると、ストレッチするにしても主翼の後方で胴体を大きく伸ばすのは難しい。結果として、前方に伸ばすしかなくなってしまう。それにしても、C-141Bの7.11mというストレッチ量はかなり目立つもので、他の軍用輸送機ではなかなか例を見ないレベル。
前方延長で問題になる重心位置
C-141Bの場合、運用してみたら機内容積不足が露見したのでストレッチ改造した。見ようによっては泥縄みたいな話になっている。これは、多種多様な積荷を扱う軍用輸送機ならではの問題、といえるのかも知れない。
そしてC-141Bでは前述のように、胴体を前方にだけ伸ばした。そこでC-141Aと同じつもりで前方から貨物を積み込んでいくと、重心が前寄りになりすぎる可能性が懸念される。
もっとも、多種多様な積荷を扱えるように機内をシンプルな「大箱」にしている軍用輸送機だから、積荷の搭載位置決めに関する自由度は、比較的大きいと考えられる。
その代わり、重心位置が適正範囲に収まるように、「どの積荷を、どの位置に固定する」という計算をきっちり行う必要がある。そして、そのためにロードマスターがいる。
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。






