今回は前回に引き続き、軍用輸送機から「積荷を降ろす」ときの話を取り上げたい。前回は人間が対象だったが、もちろん貨物を降ろす場面だって存在する。

  • 「大箱」で構成する軍用輸送機の機内には、スペースが許す範囲で、車両でもヘリコプターでも搭載できる 引用:Airbus

    「大箱」で構成する軍用輸送機の機内には、スペースが許す範囲で、車両でもヘリコプターでも搭載できる 引用:Airbus

車両やパレット貨物はどう積み降ろすのか

車輪付き貨物とパレット貨物の積み込み

貨物輸送といっても多種多様だが、車輪が付いている車両やヘリコプターなら、手で押したりウインチで引っ張ったりして、搭載・卸下ができる。

  • 「エアバスA400Mは多様な貨物を搭載できますよ」と説明する図。見ると、車両やヘリコプターは車輪を使って移動させているのだと分かる 引用:Airbus

    「エアバスA400Mは多様な貨物を搭載できますよ」と説明する図。見ると、車両やヘリコプターは車輪を使って移動させているのだと分かる 引用:Airbus

パレットに載せた貨物はどうか。人力で運ぶには大きすぎるし重すぎるから、フォークリフトで運んで載せるのが一般的なやり方になる。もちろん、出し入れには後部ランプを使用するが、車両やヘリコプターを自走させるときとはちょっとした違いがある。字で書くよりも写真を見ていただく方が分かりやすい。

  • 横田基地でC-130輸送機に貨物を搭載する場面。フォークリフトで運んでいるが、機体の後部ランプを地面に接するところまで降ろさないで、水平にしている点に注意。その高さまでフォークリフトで持ち上げて、機内に押し込む Photo : USAF

    横田基地でC-130輸送機に貨物を搭載する場面。フォークリフトで運んでいるが、機体の後部ランプを地面に接するところまで降ろさないで、水平にしている点に注意。その高さまでフォークリフトで持ち上げて、機内に押し込む Photo : USAF

  • そのC-130の後部ランプを機内から見ると、床にローラーがたくさん並んでいる様子が分かる。これがあるから、機内では貨物を手で押して動かすことができる Photo : USAF

    そのC-130の後部ランプを機内から見ると、床にローラーがたくさん並んでいる様子が分かる。これがあるから、機内では貨物を手で押して動かすことができる Photo : USAF

  • 機内で貨物を手押ししている実例。ハイチで地震が発生したときに、人道支援物資を搭載する場面だそうだ。床に設置されているローラーが明瞭に分かる Photo : USAF

    機内で貨物を手押ししている実例。ハイチで地震が発生したときに、人道支援物資を搭載する場面だそうだ。床に設置されているローラーが明瞭に分かる Photo : USAF

貨物を動かす床ローラーの仕組み

ところが、筆者がスペインで組み立て中のA400Mを見せていただいたときには、床にはローラーはなく、フラットになっていた。常にコンテナを載せる前提の民間貨物機と異なり、軍用輸送機はさまざまな貨物を載せるから、床にローラーを固定設置して凸凹ができるのは好ましくない。

そこで、必要なときだけローラーを設置できるようになっている。貨物を固定する金具の方は作り付けだが、床に凹みを設けて、そこに組み込んであるから、畳んでおけば床はフラットになる。

では、機上から貨物を下ろす場合はどうか。地上で降ろすなら、搭載のときと同じ考え方で済む。ただし軍用輸送機の場合、貨物を空中から地上に向けて放り出す、いわゆる物量投下を行う場面もある。側面から降ろすと扉の開口でサイズが制限されるから、後部ランプを使う方が合理的。

ヘリコプターからバイクを降ろす

固定翼の軍用輸送機なら、車輪が付いているものは「後部ランプから自走で搭載・卸下」が可能だが、それを側面からやる事例もある。

陸上自衛隊の富士総合火力演習を生で、あるいはネット中継で御覧になったことがある方なら、UH-1やUH-2といったヘリコプターで偵察隊員とバイクを運んできて、それを着陸して降ろす場面を御覧になったことがあるだろう。

それを見ると、側面のスライドドアを開いた後で、まず渡り板を地面に降ろし、それを使ってバイクを降ろしている様子が分かる。そのプロセスをどれだけ迅速にできるかは、降りる偵察隊員と、運んできたヘリコプター、その両方の生残に大きく関わる話であろう。

  • 総火演で、UH-1からバイクを降ろす場面。側面の扉から渡り板を降ろしている様子が見て取れる 撮影:井上孝司

    総火演で、UH-1からバイクを降ろす場面。側面の扉から渡り板を降ろしている様子が見て取れる 撮影:井上孝司

貨物を蹴落としたり、パラシュートで曳き出したり

貨物を空中から投下する場合、手作業などでひとつずつ押し出すのが基本となろう。しかし大きくて重い貨物になると、人力で押し出すのは大変だ。

パラシュートで貨物を引き出す空中投下

そこで、貨物に取り付けたパラシュートを後方に繰り出しながら展開させて、そのパラシュートで貨物を曳き出し、機外に放り出す方法もある。以下の写真はその一例。

  • 米陸軍の装輪車両JLTV(Joint Light Tactical Vehicle)をパレットに固定して、そのパレットごと空中投下している。パラシュートでパレットを後方に曳き出している様子が分かる Photo : US Army

    米陸軍の装輪車両JLTV(Joint Light Tactical Vehicle)をパレットに固定して、そのパレットごと空中投下している。パラシュートでパレットを後方に曳き出している様子が分かる Photo : US Army

貨物にはパラシュートを付けて自動開傘させるのが一般的。こうすれば落下速度が落ちるので、「貨物の保護」は成立する。

ただし、投下地点(DZ : Drop Zone)付近の風向・風速を考慮しないと、意図せざる場所に貨物が下りてしまう。実際、過去の戦史を見てみると、友軍のために空中投下した貨物が敵軍の頭上に降りてしまって盗まれた(?)話はいくつもある。

第二次大戦では「蹴り落とし」も

そのためか、もっと手荒な降ろし方もある。第二次世界大戦中に実際に行われた手法だが、低空を飛行する輸送機の側扉を開いて、貨物を地面に向けて蹴り落とす。

パラシュートで減速しないから、かなりのスピードで落下するわけで、それで貨物が壊れたのでは困る。だから、この方法を使える貨物の種類は制約されるし、投下する際の高度はできるだけ下げる必要がある。

すると、投下する輸送機の側は低空飛行能力が問われる。それに、天気が悪ければ地面との意図せざる接触をするリスクが増えるし、気流の状態が悪ければ飛行そのものが危なくなる。

今はさすがに、こんな手荒な投下をする場面はなさそうだが、別の事情もありそうだ。ただ、その話は後日に別の文脈で取り上げる予定なので、今回はひとまず割愛する。

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。