前回は、有人の軍用輸送機に関する「基本のキ」みたいな話で終わってしまったが、今回から、軍用輸送機ならではの特徴、独特のアイテムといった話を取り上げてみる。
軍用輸送機では、不整地での離着陸や、地上支援なしでの運用、多種多様な積荷への対応など、民間輸送機とは異なる要求が数多く存在する。また、それを支える「ロードマスター」という専門職の存在も欠かせない。
軍用輸送機に特有の設備・機器
前回に書いた話は、過去の本連載で既出の話と被る部分が多そうだが、復習ということで御容赦いただきたく。
不整地・短距離離着陸能力が求められる理由
民間輸送機と比べて、軍用輸送機の方が厳しい要求を突きつけられる一例として、不整地離着陸能力と短距離離着陸能力がある。「整備された長い滑走路がなければ離着陸できません」では運用できる場所が限られてしまうが、いつ、どこで任務飛行を実施するか分からない軍用輸送機では、それは好ましいことではない。
その能力を如実に示したのが、2011年3月16日に、米空軍のMC-130HコンバットタロンII特殊作戦機が仙台空港に降りた一件。全長3,000mのB滑走路(R/W 09/27)・全体が復旧するには至っていなかったが、1,500mが使用可能になった段階で「それなら降りられる」といってMC-130Hが乗り込んできた。
C-130よりひとまわり大きいクラスで、かつターボプロップ・エンジンの四発という共通要素もあるのが、エアバスのA400M。エアバスは同機について、「20m×800mの非舗装滑走路で離着陸できる」と説明する。また、2022年4月に仏領ポリネシアで、フランス航空宇宙軍(Armée de l’air et de l’espace)のA400Mが、砂地での離着陸を行った実績がある。
不整地運用を支える機体設計
不整地離着陸を実現するには、短距離離着陸性能だけでなく、接地圧の小ささや、地面の凸凹を吸収できる降着装置、砂塵・粉塵への配慮といった仕掛けも不可欠となる。
舗装した滑走路を使用する場合と比べると、離着陸時の重量がいくらか制約されるとしても、実運用で離着陸できるメリットは大きい。ちなみにA400Mの場合、最大ペイロードは37tだが、不整地離着陸時のペイロードは最大25tに抑えられる。
「外部支援なし」で動ける自己完結性
不整地で離着陸しなければならないような場所では、地上側に支援のためのインフラ、車両、機材があるという前提は期待しがたい。すると、積荷の搭載・卸下にしても、エンジンの始動にしても、外部からの助けなしで行える自己完結性も求められる。
旅客機はトーイングカーにプッシュバックしてもらってスポットを出るのが一般的だが、軍用輸送機は自力でバックできなければ仕事にならない。また、広い飛行場ばかり使う前提にはできないから、地上では、できるだけ小回りがきく方がありがたい。
プロペラを使用する機体なら、羽根の取付角を変えれば同じ回転方向のままで逆推力を発生できるから、それでバックできる。C-17はジェット・エンジンだからそういうわけにもいかず、逆噴射(スラスト・リバーサ)を利用している。ときどき、エアショーでC-17が着陸後にバックするデモンストレーションを実施しているから、御覧になった方もいらっしゃるのではないか。
ロードマスターというお仕事の存在
積荷が多種多様ということは、積み方や固定の仕方が多種多様ということでもある。また、前後左右のバランスを保つために考慮しなければならないことが多いということでもある。
そのため軍用輸送機では、正副操縦士に加えて、積荷に関する一切合切を取り仕切る要員、つまりロードマスターが乗り込むのが特徴になっている。この場合のロードは road ではなくて load、つまり積荷のこと。
たいていの軍用輸送機では、貨物室の前端付近・どん詰まりに、ロードマスター用ステーションを設置している。昔なら紙の上で重量やバランスの計算をしていたところだが、今はロードマスター用ステーションに、搭載物や重量バランスについて計算するためのコンピュータを設置するのが通例。
積荷管理だけではないロードマスターの役割
そのほか、ロードマスターは飛行中に貨物の状態を監視したり、貨物を空中投下したりする際の制御を担当したりもする。
搭載はともかく、卸下を地上でやるとは限らないのが軍用輸送機である。飛んでいるときに後部ランプを開いて貨物を投下するとか、側面の扉を開いて空挺部隊を降下させるとかいう運用があるからだ。
すると、飛行中に重量バランスや重心位置が動的に変化するから、それもロードマスターがきちんと管理しないと危険なことになる。
ロードマスター専用の訓練機材
そんな重要な仕事を担当するのがロードマスターだから、輸送機では操縦訓練の機材だけでなく、ロードマスター用の訓練機材も必要になる。エアバスA400Mを例に取ると、以下のような訓練機材がある。
- CHT-E(Cargo Hold Trainer Enhanced) : 貨物室での作業を総合的に訓練する機材。要するに貨物室のモックアップである。
- CPTT(Cargo Hold Part Task Trainer) : 貨物室で行う作業の手順を訓練するための機材。CHT-Eと同様に貨物室を再現しているが、個別の手順を訓練する点に重点を置いている。また、大型・大重量の貨物で訓練できる点がCHT-Eと異なる。
- LMWST(Load Master Work Station Trainer) : ロードマスター用ステーションの操作を訓練するための機材。
内容の違いがあるため、まずCPTTでさまざまな作業の手順を反復練習して身につけたり、LMWSTでロードマスター用ステーションの操作を覚えたりした後、総仕上げとしてCHT-Eで訓練を実施するというイメージになるだろうか。
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。



