ここのところ、無人の機体に関する話題ばかりが続いていた感があるので、久方ぶりに(?)有人機の話に戻そうと思う。そこでいろいろ思案した結果、軍用輸送機の話はどうかと考えた。

  • 天気が悪かったのでパッとしない画になったが、後部のカーゴランプから物量投下を行うC-130Jスーパーハーキュリーズ 撮影:井上孝司

    天気が悪かったのでパッとしない画になったが、後部のカーゴランプから物量投下を行うC-130Jスーパーハーキュリーズ 撮影:井上孝司

軍用輸送機はなぜ「大箱」なのか

軍用輸送機として設計された機体は、民航の輸送機とは基本レイアウトからして違いがある。

なぜか民間機の分野では「旅客機」「貨物機」という言葉が一般的に使われている一方で、「輸送機」という言葉はあまり出てこないように見受けられる。

モノを運ぶ機体は何でも「輸送機」であるし、その中で対象の違いにより「旅客機」「貨物機」という細分化がなされる、というのが本来の筋道。しかし一般には、貨物機の影が薄いためか、「民航機≒旅客機」という図式になりがちなのかも知れない。

本連載では以前に、民間向け貨物機の実機に関して、いくつか取り上げてきた。旅客機を貨物機に転換改修したA321P2F、ボーイング747の貨物型747-800F、ボーイング777の貨物型777F、そしてボーイング747の改造機747LCF “ドリームリフター” といった面々である。

民間貨物機は「旅客機ベース」

いずれも貨物輸送に特化した機体だが、機体の基本構成は旅客型と変わらない。つまり、円筒形または縦長楕円形の断面を持つ胴体があり、それの中央に床を設けて上下に仕切る。上層は旅客または貨物、下層は貨物専用という使い分けをする。

もっとも、胴体断面が小さい小型機は話が別で、上下に区切るほどのスペースがない。だから貨物室は客室の前方(例 : ATR42やATR72)、あるいは後方(例 : サーブ340)に設置するのが通例。ボンバルディアCRJは床下貨物室を備えているが、高さが極めて低いため、這い込むしかない窮屈な代物である。

多種多様な積荷に対応する

軍用輸送機はその辺の基本的な考え方がまるで違う。胴体内部を上下に仕切るのではなく、全体を単一の大箱として使用する。その方が柔軟に使える。

民間の輸送機は、貨物はバラ積みまたは規格品のコンテナを使用するものと相場が決まっている。ところが、軍用輸送機ははるかに多種多様な積荷を扱う。だから、変に細かく仕切ると対応が困難になってしまうので、シンプルな大箱の方がありがたい。大は小を兼ねる。

ちょっと乱暴な例えをするならば、軍用輸送機の貨物室とは、コンベンションセンターの建物みたいなもの。シンプルな大箱を用意して、必要に応じて仕切ったり区切ったりして使うところが共通している。

  • ANAのボーイング777F。窓がないという違いはあるが、外見は旅客型とおおむね同じである 撮影:井上孝司

    ANAのボーイング777F。窓がないという違いはあるが、外見は旅客型とおおむね同じである 撮影:井上孝司

  • C-17AグローブマスターIII。民航の貨物機とは、基本的なレイアウトからして大きく異なるのが分かる。開いていないが、尾部の下面に扉がある様子も分かるだろう 撮影:井上孝司

    C-17AグローブマスターIII。民航の貨物機とは、基本的なレイアウトからして大きく異なるのが分かる。開いていないが、尾部の下面に扉がある様子も分かるだろう 撮影:井上孝司

なぜ軍用輸送機は「高翼+低床」なのか

その軍用輸送機の基本形態は、だいぶ前にも書いたように、「高翼」「短い降着装置と低い床」「そり上がった尾部の下面を開閉可能としてカーゴランプを設置」の組み合わせ。これを確立したのが、ロッキード(現ロッキード・マーティン)のC-130であることは論を待たない。

床を低くすれば、人や貨物の積み降ろしに際してタラップや昇降台を用意する必要はなくなる。こうしないと、車両を後部ランプから自走で積み降ろしするのが不可能になってしまう。

  • 着陸したC-17A。胴体下面が地べたにギリギリまで近付けられている様子が分かる 撮影:井上孝司

    着陸したC-17A。胴体下面が地べたにギリギリまで近付けられている様子が分かる 撮影:井上孝司

そこで問題になるのは、貨物室の寸法と形状。カタログ・スペックとしての「全長×全幅×全高」の数字は最大値を用いるが、形が凸凹していたのでは、実際に使えるスペースが制約されてしまう。

例えば、翼胴結合部が機内に張り出している関係で、前半分だけ天井高が抑えられることになれば、搭載できる貨物の高さはそちらで制約される。だからたいていの軍用輸送機は、翼胴結合部が背面に膨らんだ形になっている。こうすることで、内側に食い込むのをできるだけ避けようとしている。

これは降着装置も同じで、主脚収納室が機内に張り出したのでは具合が悪い。だから、空気抵抗が増えるのは承知の上で外部にバルジを張り出して、そこに降着装置を収めている。すると主脚収納室のスペースはバルジによって制約されるから、主脚の設計にも影響する。

  • 川崎C-2輸送機の貨物室上部。翼胴結合部の機内への張り出しを、できるだけ少なくしようとした努力が垣間見える 撮影:井上孝司

    川崎C-2輸送機の貨物室上部。翼胴結合部の機内への張り出しを、できるだけ少なくしようとした努力が垣間見える 撮影:井上孝司

この辺の事情は固定翼機に限らず、回転翼機(ヘリコプター)やティルトローター機でも同じ。だから例えば、V-22オスプレイの翼胴結合部は胴体上面にハミ出している。また、固定翼の軍用輸送機と同様に後部ランプを持つヘリコプターとして、H-47チヌークがある。

もっとも、車両を乗せるほどに大型ではないヘリコプターでは、事情は異なる。H-60ブラックホークの一族が典型例だが、左右に設けたスライドドアからキャビンに出入りするしかない。

軍用輸送機にも「民間仕様」が必要な理由

機体の基本配置は、民間輸送機と軍用輸送機でかなりの差異がある。しかし、アビオニクスは共通性が高い部分も多い。

軍用輸送機が民間輸送機と同じ空域を飛行する場面も、当然ながら考えられる。すると、CNS/ATM(Communication Navigation Surveillance/Air Traffic Management、通信・航法・監視・航空管制)に関わる機器に影響が生じる。特に通信と航空管制である。

「FlightRadar24」などを見ていると、民間輸送機だけでなく、軍用輸送機の情報が現れることもある。なぜそれが可能になるかといえば、民間輸送機と同じように、軍用輸送機もADS-B(Automatic Dependent Surveillance-Broadcast)を使用して、自機に関する情報を “広告” しているから。

もし、軍用輸送機が存在を秘匿しながら民間輸送機と同じ空域を飛んでいると、存在するはずの機体が存在しないことになって、ニアミスや空中衝突の危険が生じる。といっても実際には一次レーダーに映るはずだが、自機に関する情報を正しく告知していなければ、正体不明機になりかねない。

もちろん、管制官と無線でやりとりする場面も考えられるから、民間で使用しているものと相互接続性がある通信機もないと具合が悪い。

なお、人が乗って長時間飛行を行うことを考えると、出るモノのことも考えなければならない。最近の機体、例えば航空自衛隊のC-2やエアバスA400Mは、旅客機並みのラバトリーを設置している。ただし、後方に設置すると貨物搭載・卸下の妨げになるから、貨物室の前端、あるいはコックピットの後方に設置している。

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。